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#1【スタントウーマン -ハリウッドの知られざるヒーローたち-】

※本編内容に触れる部分があります。

スタントマンと聞くと男性の姿を思い描いてしまいがちだが、もちろん女優の代わりのスタントは女性が演じている。"もちろん"と言えるようになったのはこの作品を観た今だからこその話で、それまではスタント俳優たちの活躍をはっきり意識することすらなかった。

【スタントウーマン】予告編

この映画の予告を劇場で見たのは昨年の暮れ頃のことだった。元々アクション映画は大好きだったし、自分が運動音痴である分、動ける女性への憧れは人一倍強いため、肉弾戦からカーアクションまで華麗にこなす女性たちの活躍ぶりをぜひ知りたいと思った。この段階ですら、まだまだスタントウーマンへの認識は甘いもので、彼女たちの活躍は近年の映像作品が中心であるとうっすら考えていた。いや、"考えていなかった"というのが正確であるのだが、彼女たちがいつ頃から映像業界を支えてきたのかという部分に、私はまったく意識を向けられていなかった。

映画の中では、80歳近い元スタント俳優の女性が、現役の女性スタント俳優と対談をしていた。衝撃的だったのは、昔の方が女性スタント俳優の数は多く、仕事もたくさんあったという話だ。乗馬や殴り合い、階段や崖からの転落、それらはすべて昔からスタントウーマンたちが演じてきた。時には男性が女装をして演じることもあったようだが、そうなったとき彼女たちは己の力不足を実感し、訓練に励んだという。

彼女たちは日々、様々なトレーニングを行い身体を鍛え上げている。格闘技はもちろん、ダンスも練習に取り入れているらしい。彼女たちの張りのある筋肉は美しく、同性として羨望の眼差しをスクリーンに向けざるを得なかった。私は子どもの頃から身体を使うことは苦手だったので、生まれ変わったらスタント俳優になってみたいなぁ、などと無意味な夢を膨らませた。1時間にも満たない、本当にささやかな夢だった。

高所からの転落。

全身火だるま。

猛スピードで走る乗り物からの脱出。

危険以外の何者でもないスタントの現実が、この映画にははっきりと映し出されていた。これまで散々観てきたアクションシーンでは、実際に人間が転げ落ち、燃え、運転していたことを、ようやく理解した。彼女たちは鉄人ではない。"イメージできないスタントシーンは失敗する"と言っていたのがとても印象的だった。背骨を2度折ったというスタントウーマンもいた。

時には、共に練習した仲間を失うこともあるという。

限りなく死に近い恐怖が、常に彼女たちに付き纏う。しかし、それは決して忘れてはならない感情だ。危険を感じた時は"できない"とはっきり言うことも、彼女たちの仕事である。感情の機微を敏感に感じ取り、状況を把握することに長けているスタントウーマンたちは、決して男性では代わりを務めることはできない。しかし、女性スタント俳優たちが数多く活躍してきた現在においても、まだ男性スタント俳優と平等に扱ってもらえることは多くないそうだ。

筋肉を肥大化させ、さらに脂肪も付ければより安全にスタントがこなせるのだが、そういうわけにもいかないのがまた現実だ。彼女たちはメイン女優の代役であるが故、身体付きが似ていなければならない。おまけに女性の服装は肌の露出が多く、プロテクターを付けることもできない状況がしばしば。ただの観客では想像もつかないような苦労が山積みの仕事であることは間違いないが、その分、納得のいくスタントができたときの喜びも大きいだろう。

ドラマ版ワンダーウーマン において、主演のリンダ・カーターのスタントを演じたジニー・エッパーは、80歳になる現在においても、可能であればスタントをやりたいと考えているそうだ。文字通り"命をかけて"やり遂げてきたその仕事に己の価値を見出してきた彼女は、そこから離れた今、とても不安を感じているように見えた。しかし、彼女のこれまでの功績は映像として永遠に残り、後世のスタントウーマンたちに自信と誇りを与えていくに違いない。道を切り開いてくれた先駆者たちの想いを受け継ぎながら、彼女たちはこれからも美しく危険なスタントを演じていく。その強い意思と肉体は、見る者すべてに熱い感情と勇気を与えてくれるのだ。

たくさんの努力と勇気、そして喜び。誰よりも映画を楽しむスタントウーマンたちの活躍が羨ましくもあり、自分には決して不可能であると痛感させられた悔しさもちょっぴり感じた、2021年最初の映画鑑賞だった。

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