クモに退去命令
私は多分クモ恐怖症の部類に入る。
本当に糸くずくらい存在感のない生まれたてのようなクモであれば、優しく穏やかに接することができるが、少しでも固みを感じる体つきになると私は発狂する。
そしてまたこの間、勝手に私の部屋に侵入していた。
私はガシッと袋で掴んで外に出すなどということが出来ないので、自分から退出してもらうように圧をかけながらクモの周りをうろうろする。この時は、ホワイトムスクのお香を両手で持ちながら、クモの周りに煙を立てて退出願いの儀式を開いた。
この儀式の間、外に出ていくように促しているくせにクモが動く度に私は発狂して逃げて、またお香を炊く、という無駄な時間を過ごしている。
最初は気の弱い態度で接している私だが、段々と終わりのないこの戦いに逆ギレしだす。
もう出かける時間が迫っていたので私は魂を抜いて、ビニール袋で捕まえて外に追い出す作戦に出た。これは私にとって心臓が口から出そうになるくらい恐ろしい行為である。
そして発狂しながら袋ごと外にぶん投げた。
やっと我が家に平和が戻った、と思って
家の中に入ると、先ほどぶん投げたはずの奴がカーテン近くで私を煽るかのように暇を潰していた。
もう奴の相手をしている時間がなかったので、仕方なく放置したまま家を出た。
夜、家に帰ると奴は玄関近くの壁にいた。
やっと退出する気になってくれたようだ。帰宅後の私はだいぶヘロヘロに疲れていて発狂する元気もなかったので、無のまま袋を持ってスピーディーに捕獲し、外に追い出した。
外に出たことも確認し、一件落着した。
投げやりだが自分の感情に無神経になれば済んだことであった。
ただ、もう二度と私の家には入らないでほしい。