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ゴミ箱から声が聞こえる。

「なあ、あんた。ゴミ箱が喋っとるのよ」

「ゴミ箱ってあのゴミ箱かい?あれが喋るわけないだろう」

「本当なのさ。うらめしいうらめしいって声が聞こえるのよ」

「それならどうだい、何がうらめしいんだと聞き返してみるのは」

「そんな…」

「なぁに、なにかあれば助けてやるさ」


※※※

うらめしいうらめしい。

「なあ、何がうらめしいんだい。ちょいと教えてくれんかね」

うらめしいうらめしい。
いつの間にかゴミ箱になったこの身がうらめしい。

「なんだあんた、元はゴミ箱じゃなかったのかね」

この身をゴミ箱に仕立て上げた人間がうらめしい。

「そんなやつがおったのかね。それはうらめしくも思うわなあ。なあ、ちょいと身の上話でもしてみておくれ」

うらめしいうらめしい。
生まれた時は愛されておったように思う。年が上がるに連れて、あれらは私が甘えることに不快な顔をするようになった。

それでも私を見てほしかったので色々手法を変えた。

本を読んでいれば手がかからんので、よう誉められた。難しい本を読めば頭がいいなぁと二回誉められた。俺はこれだと思った。

中学生の時にオペラ座の怪人など興味もない本を読んでおれば、親戚はよう誉めてくれた。そうするとあれらも得意気になってよう構ってくれたのだ。

また年を重ねると本を読むだけでは構ってくれなくなる。

ここでもまた色々試した。

勉強部活地域活動家事。進路も気に入られそうなやつを選んだ。どれもつまらんかった。

そうして行き着いたのはあいつらの愚痴を聞くことやった。その時ばかりは俺のことを真っ直ぐ見た。これだと思った。


それが何年も続いた頃ふと気づいたのだ。
私の中にあるもの。この感情。

うらめしいうらめしいなぁ。

姉はねたましい。
美人で愛想があり、よう気が利く。あいつらや俺には威張り怒鳴り散らすがしょうがないなぁで許される。俺はそんなことできはしない。

姉はねたましい。
頭が良く愛想があり、自分のことをよう話す。そんな時あいつらは嬉しそうにうんうんと聞くのである。俺のときは後にしてくれ言うのに。

そうして段々と自分というものが確立されましてなぁ、ある時はたと気がついた。
私はゴミ箱であると。

うらめしいうらめしいなぁ。

私をゴミ箱にしたあいつらがうらめしい。
ゴミ箱になってしまった自分がうらめしい。
この身でなにができようか。ただ心内を話すゴミ箱など誰が必要とするだろうか。

私は家族を愛しておりました。
大事だと思っておりました。

ですがゴミ箱に成り果てた今、それは愛されるための方便だったのかもしれないと思うのです。


何度も何度も重ねた偽りの私は、脱げば脱ぐほど人の形をしておらず、残ったものはゴミ箱でした。

中身を見てください。

ゴミ箱の中身を知っておりますか。

「ゴミだと思うがね」

そうなのです、私とはゴミ箱そのものであり、私の内面とはゴミなのです。

ああ、うらめしいうらめしいなぁ。

私を人間として生んでおきながら、ゴミ箱に仕立てあげた親という存在がうらめしい。



何かを恐ろしいと思ったことはありますかね。私はあります。
自分の正体がゴミ箱だと知った時です。


笑えますねぇ。


「親とは子を慈しむもの。そのようなこと」

うらめしいうらめしい。
お前の子供が何人いたのか覚えているだろうか。

「3人だなぁ」

今全員元気か知っているだろうか。

「一番上は嫁いで子供が2人生まれた。2番目はなにやら研究して論文発表で忙しいらしい。3番目は、なにをしているんだろうなぁ」


ゴミ箱になってるよ。
良かったなぁ。





これが私。
これが醜い私の現状。
受け入れるしかないのよなぁ。

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