ライトアウター狂想曲〜最高の春アウターを手に入れた、けれど
好きな人と好きな人は、必ずしも仲良くできるわけではない、らしい。
そんなの当たり前じゃん、悲しいけどそれが人生ってもんよ!…というのを、この春痛いほど思い知らされた。何のことかって?最高のジャケットと最高の春アウターを手に入れたものの、まさかの一緒には着られなかったんです。そう、これはお買い物の話。
最高のジャケット
2月上旬、この記事で呟いていたジャケットをついに入手した。室内で着ていても肩が凝らず動きやすく、洗えて、何よりときめくもの。この要件を満たすのは12月に出会ったY'sのお品だけだった。
ただしそれはチャレンジアイテム。褪せたような醒めたような独特の雰囲気を纏ったブルーグレーは、見るのも着るのも初めての色。でもとてつもなく魅力的で、どうしても着てみたくなった。試着すると、その日穿いていたY's黒ボトムスでも成立はしていたものの、カラーレッスンを受けた目には少しだけ寂しく映った。
…もしかして、アレだったらもっと違って見えるかも?
「アレ」とは、ちょうどその直前にyeeで注文した「私に似合う最強パンツ」。展示会で薦められたサンプルパンツを穿いた途端、どんなトップスでも着こなせてしまった記憶が蘇る。あのパンツとしっくり合えば、自信を持ってジャケットをお迎えしよう。そう思って、お仕立て上がりを今か今かと待ち侘びていた。
パンツの当初受け取り予定は2月末。12月発売のジャケットがそれまでに完売しないか内心ドキドキしていたのだが、2月頭、教室同期の樹雨さんのカラーレッスンに同行させていただく好機を得て(楽しすぎたしためになりすぎた!詳細はまた改めて)、まさかのフライングゲット(古)。喜び勇んだ私はすぐさまY'sに駆け込んだ。
果たして、ダークブラウンのパンツとブルーグレーのジャケットは、はちゃめちゃに合っていた。さらにいつも巻いている青ベースの柄カシシルを合わせてみると、自分で言うのも何だけど、これ以上何を?というくらいの仕上がりっぷり。店員さんと「「ははぁ〜〜」」と顔を見合わせて、サックリとカードを切ったのだった。
お買い物リストの「薄手ジャケット」、これにてdone。
後日おろして1日過ごしてみたところ、想像を軽く上回るレベルで最高だった。姿良し、気分良し、着心地良し。Y'sの服はどれも、日常使いし始めた時に試着で抱いた期待値をすんなり上回ってくるのが本当にすごい。これはジャケットというよりシャツ感覚で、日常的にガンガン使っていこうと思う。そうなると次に必要なのは、ライトアウターだ。
失われたライトアウターを求めて
1月後半から2月頭、各ブランドで春服が展開され始めると思しき頃、私は隙間時間を見つけてはこんな感じのライトアウターを求めて放浪していた。
形としてはスタンドカラーでウエストシェイプのロング(でもマキシではない)、色はできれば黒以外。生地厚はしっかり目のトレンチとかキルティングコートくらいの暖かさがほしい。昨年のアウター100着試着旅のおかげでかなり具体的にイメージできるようになったものの、そんなコートはどこを探しても見つからない。
23AW試着旅で気になったTaoとeggはかなりいい線行っていたものの、希望条件にはどこかしら引っかかっていたし、24SS立ち上がりで同じものは見当たらず。これからシーズンが進むにつれて、店頭に出るスプリングコートは薄く軽くなっていく一方なのに、今イメージ通りのものが見つからない、ということは…
無理ぽ\(^o^)/(少なくともこの春は)
これ以上理想を求めて行脚するのはもはや無駄足か…と思ったその時、閃いた。
作ってもらえばいいんじゃない?
できるから。そう、杉崎製作所ならね。
脳内キャッチコピーに小躍りしつつ、早速スギサキさんにご連絡して希望をお伝えしてみると、「できます!」との力強いお返事。やったーー!!っていうか、どうしてもっと早く気づかなかったんだろーーー!!!だって、たとえ今すぐ注文したとしてもこの春に着ることはできないんだよーーーー!!!!/(^o^)\
つまり我が理想のライトアウターの到来は約束されたものの、この春に薄手ジャケットの上に羽織るライトアウターは存在しない、という事態。朗報と凶報は同時にやってくる、背に腹はかえられない(なんのこっちゃ)。そんなわけで私は再び放浪の旅に舞い戻ったのだったーー理想の条件は一旦全てわきに置いて(フラグ)。
最高の春アウター
2月中旬、絶好のチャンスが訪れた。ちえりーじょさんとの銀座試着旅だ。子育て話をきっかけにDMを送り合うようになったちえりーじょさんとは、歳も近くて教室の受講時期も1ヶ月差。スギサキさんのカラーレッスンも受講済みだし、なんならAC話もできてしまう。何かと共通項が多くて、話題がとにかく尽きなかった。
ライトアウターを買うならこの日だな、と私は密かに狙いを定めていた。2月も後半に入ると暖かめのアウターはハケてしまいそうで少し焦っていたし、ドーバーとバーニーズを回れば気になっていたブランドはほぼ網羅できる。今日出会ったものをお迎えしたっていいじゃない。だって私、アウターはもう100着試着したから。
…いやあんた、100着試着した去年と今じゃ、前提条件と求めるものが大きく変わっとるんじゃよ。でもそうツッコめるのは今だから。この時の私は全く気づいていなかったが、図式としては「理想のアウターはこれから外注する=今買うアウターに条件は特に求めなくていい=一目惚れ上等!」…が、成立してしまっていた。
さらに痛恨のミスは、ライトアウターに合わせるつもりのジャケットをこの日着て出かけなかったこと(気温的にちょっと寒いなと思いまして…)。試着旅の基本中の基本を破った罪は、重い。うふふ、ここテストに出ますよ(涙目)。
*
それは、ギャルソンSS立ち上がりの大波に攫われて、意外なまでに閑散としたドーバーでのこと。運命の出会いはあっけなく訪れた。
片っ端からフロアを冷やかしながらついに通りかかったsacaiで、一際目を引くブルゾンがあった。ベージュのトレンチにカーキのブルゾンが合体したみたいな個性的なデザイン。ちょっと着丈が短いなと思いつつ、せっかくだからと羽織らせてもらうとめっぽう可愛い。そしてこの日のコーデにもハマっていた。
sacaiは、私にとって憧れのブランドの一つ。何度も試着してきたけれど、カッコよすぎたり装飾が多すぎたりカジュアルすぎたりして都度決めることはできず、それでも何か惹かれるものがあって、いつかお迎えできたら、と思っていた。今シーズン良さそう、もうちょっと着てみたい。このブルゾンを脱いで返して終わりにしたくない。そう思った私は、店員さんに咄嗟に尋ねた。
「こんな感じでもうちょっと着丈の長いものって、あったりしませんかね?」
ざっとラックを見渡したところ、そんなお品はない。しかし店員さんの反応は予想外のものだった。手元のタブレットに目を落として素早く数回スクロールした後、画面を見せつつこう返された。
「ベージュでもう少しだけ丈が長くて、雰囲気はちょっと違うのですが…こういった感じのものならございますが、着てみられますか?」
まさかのご提案に二つ返事で頷く。次の瞬間、バックヤードから運ばれてきたコートが目に入った私は、ちえりーじょさんとほぼ同時に「「あぁ!!」」と呻いた。
美しい、ベージュの変形ショートトレンチ。
首から肩にかけては正統派トレンチそのものなのだが、肩章やエポレットはない。おへそくらいのショート丈から、裾がヒラヒラと幾つもドレープを描いて飛び出しているのが何ともsacaiらしい。しっかりしたギャバジン生地はハリとツヤがあって、ドレープがダラリと垂れ下がることもない。むしろ逆にドレープの分だけ体の前後にフワッとボリュームが出て、わずかに裾広がりのフォルムを描いている。
そういえばこの色は、sacai 23AWコレクションで一目惚れの後玉砕したコートと同じ色。あのコートは半身ベージュ・半身ネイビーと色こそ独創的だったものの、形としては全身正統派に近いロングトレンチ。めちゃくちゃシャープで完璧にエレガントだけれど、ヌケはなかったような。でもこのデザインは、違う。
シャープで、ヌケてる、エレガンス。
うっとりしながら袖を通してみると、「「わぁっ!」」とこれまたちえりーじょさんと歓声が重なった。
この日私が着ていたタートルは、トレンチに負けず劣らずの裾インパクトデザイン。首から裾まで続く編み上げ紐のリボン結びが、思い切り長く伸びたバックのドレープに重なって垂れ下がる。腰で穿いているフラノのスカートパンツは足首丈で、ワイドというより袴に近しいふわっとしたボリューム感。色は上下とも黒。
この組み合わせに、ショートトレンチが驚くくらいハマった。意外なことに、トレンチからはみ出たニットが全く気にならない。むしろ、横から見るとトレンチとニットのドレープがヒラヒラと呼応しているかのよう。「今日これで来たみたいですよ」…と、今まで何人ものガールズに贈った賛辞を、今回は私がありがたく受け取らせていただいた。
脈拍数が上がっているのがわかった。周りの景色も目に入らなくなっている。
「こちら、最後の1点になります」
そう、バックヤードから出てきた時点で予想はついていた。ただそれより、どちらかといえばここまで好みの品に出会えてしまったことそれ自体に、はちゃめちゃに動揺していた。一回、とりあえず一回頭を冷やそうと、品番を控えていただいて撤退したーー「たぶん、いやほぼ確実に、戻ってきます」と言いながら。
*
その足で向かったのはすぐ近くのバーニーズ。即決はやっぱり怖かったから、せめて比較検討対象が欲しかった。もしかしてバーニーズなら、あわよくばsacaiの他のアウターもまだ出ているのではないか…そんな淡い期待を持っていた。
しかし予想に反して、バーニーズの方ではsacaiのアウターはほぼ品切れだった。そうか、シーズン頭のバーニーズは思った以上に回転が早いんだな。とりあえずフロアを一周して他ブランドのアウターを片っ端からチェックしてみたが、あのショートトレンチ以上の衝撃が訪れることはなかった。
ここで「トレンチ、お好きなんですね」とちえりーじょさんに言われるまで、私は自分がトレンチばかり手に取っていることに気づいていなかった。なるほど、トレンチの持つシャープなエレガントさに基本惹かれはするものの、やっぱり何かしら捻り・抜けを求めているんだなと、改めて自分の「癖」を再確認した。
ひとしきり見終えたところで急激に疲労を感じ、3Fのカフェへ。白熱の自問自答タイム…と言いたいところだが、正直、私の心はもう決まっていた。冒頭数分だけ私の意思確認にお付き合いいただいた後は、ただの楽しいおしゃべりタイム。ちえりーじょさん独自の数秘プチカウンセリングをきゃっきゃと楽しむこと、小一時間。
「行きましょうか」
だって、あのアウターを買わずに帰って後日街中で見かけたら、絶対、絶対に嫉妬する。「あれ私のだったのに!」ってなるに決まってる。
最後の1点は、無事にまだ残っていた。そのままレジに移動して、名刺に控えていただいていた金額が税抜きだった(!)ことに内心ビビり倒しながらお会計し、晴れて私はsacaiを買った女になった。
写真がブレている辺りに、恥ずかしいくらいの興奮具合が見て取れる。
春の制服、完成ならず…しかし
…とまぁ、こうして書いてみると清々しいくらいの衝動買いだ。そして夜、家に帰ってからウキウキと1人ファッションショーを開幕してみて早々、重大な違和感に気づく。
…あれ?もしかしてこれ、Y'sのジャケット合わなくない…?
Y'sジャケットは裾が長めのアシンメトリーデザイン。これまた裾コンシャス服なのだが、試着でロング丈ニットがハマったことに気を良くして、問題なく合わせられるだろうと思い込んでいた。ところがどっこい、Y'sジャケットの裾がsacaiトレンチから出ているのは、どう贔屓目に見ても、変。ボトムスを変えてもダメ。
あろうことか、ジャケット以外でも私のクローゼットにあるお気に入りトップスは全て裾長め、かつ裾を出して着る前提のデザインのものばかり。嫌な予感に襲われつつ片っ端から合わせてみるも、ものの見事に全滅。
激しく動揺した私は、一旦1人ファッションショーを中断した。とりあえず冷静になってから…と一晩待って、翌日もう一度鏡の前に立ってみたが、結論は変わらなかった。
ひとしきり組み合わせるうちに気づいたのは、ショート丈アウター、しかもこれだけ裾にインパクトのあるデザインの場合、アウターを主役にしないとコーデがまとまらないということ。長めのトップスは裾同士が干渉して、基本的に噛み合わない。手持ちで唯一腰骨丈の何の変哲もないセーター(8年目・断服候補)だけは、びっくりするくらい綺麗に収まった。
じゃあ、試着であのロング丈ニットがハマって見えたのは一体なぜか?
あれこれ着るうちに思い浮かんだのは、むしろあれは裾が長すぎたのが幸いしていた、ということ。だからトレンチの裾部分には何も干渉していなかった。それにボトムスが同じ黒でさらに裾広がりな形だったから、トップスとボトムスがうまい具合に一体化して見えていた。…ってことはなんだよ、ただの奇跡じゃん。
っていうかさ、
ショート丈アウターって普通にコーデ難しくない?これ上級者向けじゃないの?100歩譲ったとしてもさ、せめて2着目とかで選ぶやつじゃない?こちとらライトアウター初心者だってのにさ、何を初手でこんな上級編買っちゃってんの!
いやその前によ、
薄手ジャケットの上に羽織るアウターが、欲しかったんだよね?…ないよ、今。ついでにこれ以上の予算も。
……
………
やっちまったなぁ???!!!!
もう、認めるしかなかった。私は、お買い物に失敗したのだ。あまつさえこんな大枚をはたいて。100着試着をものともせずに、衝動に負けたのだ。あの日合わせるべきライトアウターを着てさえいれば、こんなことにはならなかったんじゃないのか。どうしよう。どうすれば…
冷や汗が噴き出したその時、脳内で落ち着いた声がした。
ーー失敗?何を言ってるの、着てみる前に失敗も何もあったもんじゃないわよ。
…あ。これはこれは、シャネル様で…?自分との結婚指輪を買った時から、私のYAZAWAとして来ていただいた、ココ・シャネル。確かに彼女なら言いそうだ。
ーー失敗っていうのは、着てみる前から諦めてしまうことよ。何でもいいからやってごらんなさいよ。それ、すごく気に入ったんでしょう?
…はい。言うてさっきクローゼットを開けてこの服が目に入った瞬間、めちゃくちゃテンション上がりました。好きです。どうしようもなく好きです。シャープでヌケてるエレガンス、そのものだと思います。これは、私のなりたい好き似合う、すべてです。
ーーだったら、もう何も言うことはないわ。大丈夫よ、試着室のあなた、なかなか素敵だったわよ。
……
ありがとう、マドモアゼル。
おかげでちょっと冷静になった。そうだ。お気に入りのY'sジャケットにはこのショートトレンチは合わせづらい。起きている事象はただそれだけだ。ジャケットの上に羽織るアウターを入手する、という当初の目的からは確かに逸脱したけれど、お迎えしたショートトレンチそれ自体は、やっぱりはちゃめちゃに最高なのだ。
よし。それなら、どうにかしよう。考えろ。せっかく縁あって手に入れたsacaiなんだもの。そう切り替えたところから考えに考えて、この春にショートトレンチを着るための対策をいくつか思いついた。
暖かくなる手前ギリギリ(3月前半?)までは奇跡の黒上下合わせで着る
冬はインナーとして使っていたカットソーを1枚で裾インして着る。寒ければカシシルで温度調整
どうしてもジャケットを着たい日は、外でのみジャケットの裾をインして無理やり着る(苦肉!柔らかい素材だからシワにはならないはず…?)
杉崎製作所謹製・ロングライトアウター不在の今季だけと割り切って、プチプラでショート丈カーデを買ういっそのこと、ちゃんとしたショート丈ニットを探す。「お買い物リスト」に書いた冬用ニットの位置付けで、晩秋〜初春まで着られるものを今探し始める
…うん。意外と、どうにかなる気がしてきた。4.は一瞬思いついて少しだけ探してみたけど、却下。もう私、心から気に入ったものしか着たくない。そう思ってうんうん考えていたら5.を思いついて、今はむしろ面白くなってきたところだ。
*
そんなわけで「お買い物リスト」のライトアウターは、この春はsacaiのショートトレンチにてdone。春の制服については引き続き要検討。いや〜制服化に3年かかるって、ほんとだったんだね!あはは!!
ここからは、購入品を写真でご紹介いたします。公式サイトからお借りした画像と、先日さくさんに撮影していただいたお写真の一部にてお送りします!
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制服化の記録(2024以降)
2024年から、有料マガジンとして制服化の記録をつけていきます。と言っても有料なのは写真部分のみで、文章自体はすべて無料でお楽しみいただけ…
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