弱聴の逃亡日記「決意の夜」

 午前0時。明かりのない六畳間に、テレビだけが耳障りな音と薄暗い光を放っている。テレビの前の円卓には使った食器やら食べかけのパンやらお菓子のビニールやらが散らかっている。

 そのすぐ脇の、シワだらけの布団に丸まり、テレビ画面を見つめたまま微動だにしない物体。これがこの部屋の主であり、この旅の主人公、弱聴だ。
 弱聴はつい最近、女にも関わらず頭を刈り丸坊主にした。それで周りから「弱聴」と呼ばれるようになったのだ。
 室内にいて布団に包まっているというのに弱聴はニット帽を深くかぶっている。これが無いと頭が寒くて仕方がないのだ。

 弱聴は突然むくりと起き上がり、ニット帽を脱いだ。
 坊主頭が露わになる。数ミリしか伸びていない髪の毛に、丸い頭の形がはっきりと表れる。さっきまでニット帽に入っていた耳がなんだか寒そうだ。坊主頭から男だと思ってしまうが肌質や体型を見るとやはり女だ。

 弱聴は、呟いた。
「よし、歩いて旅に出よう。」
 何をバカなことを。しかし、弱聴は本気らしい。
 勢いよく立ち上がると手当たり次第に旅の支度を始めた。さっきまで布団から一歩も動かなかった人間とは思えない俊敏な動きで荷物をまとめていく。深夜だというのに部屋の掃除まで始めた。まったく何を考えているのやら。

 しかし、弱聴の頭の中では入念な計画が練られていた。「徒歩の旅」という名の「逃亡計画」を。


 この物語は坊主頭の28歳独身女、弱聴が現代社会という荒波から抜け出し、東京から故郷の岩手県まで約430キロの距離を歩いて旅したお話である。

==================================

というわけで、いよいよ始まりました「弱聴の逃亡日記」!
出版社3社に企画書を送り1か月間返答を待っていたのですが、1社からは不採用通知が、2社からは音沙汰無しという不採用空気が…。
ですので、本日からこちらで順次内容を投稿していこうかと思います。

全文載せても読むの面倒くさいので要点だけ載せていこうかなと考えております。
少し自分の考えを主張するような内容もありますが、皆さんに考えを押し付けるのではなく、「それは違うぜ!」とか「私はこう思うわ」とか「俺の場合はどうかな?」とか、考えるきっかけにしてくれればと思いますし、皆さんの考えを聞いてみたいと喉から手が出るほど望んでおりますので、ぜひコメントをお寄せいただければ嬉しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?