バカにされる覚悟はできている

「東京から岩手まで歩いて旅したんです」
「仕事を辞めて、今はフリーターです」
「しばらくは遊んで暮らそうかと…」
「坊主頭、楽でいいですよ」

そう言うと大抵の人は
「へぇ、すごいね」「いいなぁ」と言ってくれる。

しかし心の中では
「コイツ、やばい」「中2病こじらせてる」「真似する勇気ないわ」
と思っているのがわかる。

こう見えて弱聴は目ざとい。人のちょっとした表情の変化からそういった裏の感情を読み取ってしまう。

しかし、まあ、バカにされて当然だと思う。
実際、自分でも痛い女だと思うし。


でもたまに面白い反応に出くわすことがある。
確率でいうと5人に1人といったところだろうか。

いつものように
「東京から岩手まで歩いて旅したんですよ」
「今はフリーターでやりたいこと模索中です」と言うと
表情が変わる人がいる。

それは、子どもの頃の胸のワクワクが甦ってきたような
遠い昔に心の奥底へしまい込んだ記憶がふいに押し寄せてきたような
忘れようとして忘れられずにいた羨望の想いが決壊して溢れ出したような表情。

その表情はほんの一瞬で消えてしまい、次の瞬間には何かに蓋をするような、あるいは心の奥へ慌てて押し込むような間があり、何もなかった風を装う表情に変わる。

以前までの生活では絶対に見ることの出来なかったその人の別の一面。
その表情に出会えただけで、私はこの生活をして良かったと思う。
その表情に会えるなら、いくらでもバカにされたって構わないと思う。

そしてどんなにバカにされようとも、バカにし返すだけはしたくない。

彼らは胸にある”何か”を押し殺して、今いる場所で必死で戦っているのだから。
逃げ出して夢を追いかけようとしている私に彼らを笑う資格はない。

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