弱聴の逃亡日記「2人の小さな友達」

 民家や田畑の続く景色からビルや商業施設がぽつりぽつりと見えるようになってきた。
 栃木県の県庁所在地、宇都宮に入ったのだ。宇都宮駅が近づくにつれ大きな建物が増えていく。

 4号線を歩いていると前方に「湯」の看板を発見した。
 ちょうどいい、この温泉施設でじっくり体を休めることにしよう。

 日曜の夕方ということもあり、店内は家族連れの客で賑わっていた。
 弱聴も他の客に混じって湯船に浸かっていると、視線を感じた。
 目を向けると小学校低学年くらいの女の子がジロジロと不思議そうな表情で弱聴を見ていた。
 無理もない。弱聴の坊主頭は普段もさることながら、女湯ではなお一層目立つのだろう。外ではニット帽を被って頭を隠しているが、風呂の時はさすがに隠せない。
「女湯に坊主頭! もしかして男?」なんて勘違いされそうだが、女であることは真っ裸なので証明済みだ。

 丸坊主の女だなんて、子供じゃなくてもつい眺めてしまうだろう。
 女の子かあまりに見てくるものだから、弱聴から話かけた。
「坊主頭、珍しいでしょ」
 女の子は遠慮がちに頷いた。
「触ってみる?」
 恐る恐る手を伸ばして、優しく触れられる。
 すぐに手を引っ込めてしまったが、表情は好奇心にあふれた笑顔だった。

 それからその女の子と色んな話をした。
 小学2年生でこの温泉施設にはよく来ること、学校の授業で面白かったこと、運動会や文化祭のこと等々。
 束の間、自分の小学生時代を思い出して懐かしくなる。

 女の子と並んで湯に浸かっていると、もう一人、同じ年ごろの女の子が近づいて来て弱聴に言った。
「なんでそんなに髪短いのぉ~」
 ストレートな質問にこちらがタジタジになる。
 笑顔が絶えない、活発で人懐っこい女の子だった。
 その子も同じ2年生だったので「知り合い?」と訊ねると首を振った。通う小学校が違うらしく、初対面だそう。
「そっか、初めてなんだね~」なんて話していたら、いつの間にか2人は「かくれんぼしよう!」と弱聴を置き去りにして行ってしまった。
 会って数分しか経ってないのに、そこは子供の社交性。前から仲が良かったかのように仲良く浴場を駆け回る。

「転ばないように気を付けてね」と二人に声を掛けながら、あの社交性を見習わないといけないなと感心しつつ、小さい友達が二人も出来たことに弱聴は旅の喜びを感じていた。

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