弱聴の逃亡日記「2度目の野宿」
11月25日 旅3日目 夜
この日は栃木県小山市で2度目の野宿に挑戦した。
ちょうどいい公園が見当たらず、営業時間が終わり暗くなった店舗の駐車場で眠ることにした。人に見つからないように物陰に隠れるような場所を選ぶ。
1度目の寒さで撃沈した経験を悔やみ、弱聴は道中で寒さ対策のアイテムを調達していた。保温性のあるレジャーシートやホッカイロ、新聞紙などを広げさっそく寒さ対策を試みる。
まずはレジャーシートを筒状にして一端をゴムで縛る。するとソフトクリームのコーンのような三角錐になる。その中に新聞紙を敷く。新聞紙コーティングしたコーンの中に足から入って下半身をコーンですっぽり包む。と、その前に足の裏にホッカイロを貼るのを忘れずに。
上半身はコートの上にポンチョ型のレインコートをかぶり、てるてる坊主のような格好になる。後はてるてる坊主とコーンの間から風が入ってこないように内側から縛れば、自家製寝袋の完成!
身動きは取れないが、1日目に比べるととても暖かい。これなら寝られそうだ。
ベンチなどが無かったのでコンクリートの上にイモムシみたいに転がって眠る。
今思えばダメなポイントがたくさんあった――コンクリートに直に寝るとか、トイレが近くに無いとか――。
しかし、この時の弱聴は万全だと思っていた。
手作り寝袋のおかげで1日目の寒さに震えた夜とは違い、すんなりと眠りに落ちた。
目を覚ますと空が少し白み始めているような気がした。あと少しで日が昇るだろうと思った。トイレにも行きたかったので、荷物をまとめ出発することにした。
おかしいと気付いたのは少し歩いてからだった。
空は明るくなるどころか暗くなり冷え込みが一段と増した気がする。車通りも朝方にかけて徐々に増えるはずが、減るばかりで静けさを増していく。
ふと嫌な予感がよぎった。
ひょっとして、これはもしかして、夜明けどころかまだ夜中の中の夜中、深夜1時か2時くらいではないだろうか。
言い忘れていたが――もしかしたらこれが一番の過ちポイントかもしれないが――弱聴は時計を持っていなかった!
夜の静けさが深まる4号線で、弱聴は固まった。
冷たい風が吹き、膀胱が縮む。とにかくトイレに行かなければ。
しかし運が悪いことに、近くにコンビニも深夜営業している店もない。トイレが見つかるまで歩き進めようとも考えたが、弱聴の膀胱にそんな猶予は残ってなかった。
仕方なくその辺の原っぱで排尿した。
排尿を終えたスッキリ感が過ぎ去った後、弱聴は情けなくなった。
まさか28歳にもなって野糞ならぬ野尿をするなんて。こんな恥ずかしいことがあるだろうか。
深夜だろうと、人がいなかろうと、野外でケツを出すのは屈辱にも似た恥じらいが残る。
ズボンを上げ原っぱから離れた弱聴は、一旦落ち着こうとレジャーシートを敷いてその場に腰を下ろした。
もし今が深夜の1時か2時だとすると、2~3時間しか寝ていなかったということになる。
ぐっすり寝たと思っていたのに…。手作り寝袋も完璧だと思っていたのに…。
2~3時間で尿意を感じて目覚めたということは冷えていたのだろう。
コンクリートに熱を奪われどんどん体温が下がって行く感覚も確かにあった。
空が白み出したと勘違いしたのはおそらく町の明かりのせいだ。朝日と町の明かりを見間違えるなんて、情けなくて泣きたくなる。
兎にも角にも2~3時間の睡眠では明日の体力が持たない。
再び適当な場所を探し寝る支度をしたが、中途半端に歩いたせいで体が冷え切ってしまい、体がブルブルと震え寝付けそうにない。
夜風に凍えながら弱聴は、次はコンクリートを避けトイレと時計が近くにある場所を選ぼうと胸に誓った。
11月26日 旅4日目
寒くて眠れなかった時間と気絶するように眠っていた時間、どちらが長かっただろう。
何度目かの目覚めで今度こそ空が明るくなっているのを確認したので、弱聴は起き上がった。
2度目の野宿も結局、寒さで満足に寝られなかった。
朝のストレッチをしてすぐ出発。
コンビニや飲食店が近場に無いので朝ご飯はお預け。
自販機で買ったホットミルクティーで糖分補給と体温上昇を計りながら足を進める。
まだ薄暗い早朝の静かな国道を独り歩く。
今日が始まったばかりだというのに、すでに体はボロボロ。腹も減って気力が湧かない。早く実家に到着したいと願望は募るが、故郷の岩手まであと300km以上。途方もない距離に軽く目まいを起こす。
「あー、どうしてこんなこと、しちゃったんだろう。」
つい後悔の念を口にしてしまった。
旅に出る前は嬉しくて、ただただワクワクして、相当な距離だということも、歩くことで足や体へ負担が掛かるということも全く考慮していなかった。
なんてバカなことをしたんだろう。
後悔の念を抱きたくないと思いつつも、一歩一歩踏み込む度に後悔がチリのように降り積もっていく。
では、今すぐ元の生活に戻りたいか?と聞かれたら――素直に頷けない自分がいる。