キリン

麒麟児からとったタイトル。
内容もまた、それに沿ったもの。優秀な人間から精子提供を受けて出産できるようになったという世界で話は進む。
見た目、学歴、年収……あらゆる情報を元に精子オークションを行う。落札者は速やかに人工授精にて妊娠、出産をするという話。

夫婦関係は望んでいないが、自身が散々虐げられてきた過去を持つ主人公は、優秀な子を産み見返してやりたいと決めている。そのために貯金をし、希望の遺伝子を勝ち取る。
しかし1人目はルックスが気に食わない。申し分ない子が欲しいと2人目を作る。
見た目も申し分なく、頭脳明晰だったのだが、それは一定年齢で終わってしまう。

全国各地で「思っていた成長と違う」という批判を受け、精子バンクは'失敗作'たちを隠蔽すべく特別教育を施します、と収容施設を設ける。
躊躇いなく引き渡す母親、離れたくないと思う息子……。

わたしの好きな映画にGATTACAという作品がある。こちらも遺伝子操作で望む才能を持つ子を作るという話。
やはり人類の夢なんだろうか。才色兼備、頭脳明晰、文武両道を極める存在が。それを生み出せるということが。

この先、AIがあらゆる仕事を人間の代わりにこなすと言われている。「〇年後には消える職業!」だなんて投稿を見た事もある。
数字的な話であったり、システム化できるものが多く挙げられていた。
一方で、人間を人間たらしめる教養といった面においてはAIでは難しいとされている。

遺伝子操作や遺伝子選択が可能になってしまったら、女性の典型的なファッションを揶揄して使う言葉が現実になってしまう。
そうなってくると、選ばず自然に生まれてきた子こそ稀有な存在で尊ばれるのではないだろうか。

この作品でも、GATTACAでも、最終的に選びとる遺伝子が完璧ではないことが描かれる。
親になる側が苦労したからこそ、より良い見た目で、より良い頭で、より良い環境に居られる子を求めるのはよくわかる。ただ、それは親のエゴだ。

オギャーとこの世に産声をあげた瞬間から間違いなくその子はその子の人生を歩む。事前であれ、事後であれ、そこに何かを求めるのはよろしくない。
そもそも自然に元気に生まれてくることが奇跡なのだから。多くを求めない方が良い。

顔が気に食わないなら整形させろ。
馬鹿が嫌なら勉強させろ。
運動音痴が落胆の元なら経験させろ。

親がすべきなのはレールを敷くのではなく、その子自身の意思が尊重されるよう最大限の環境を整えてやることに過ぎない。
優秀な遺伝子を貰おうと、選ぼうと、環境によって潰えるものなのだ。そして、いつかは終わる。

その儚さが命の美しさだ。

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