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製造業における生成AIの活用事例(化学メーカーを中心に)

はじめに

2022年11月30日にChatGPTが公開されて以来、製造業において生成AIの活用が注目されています。セキュリティの課題を乗り越え、多くの企業が導入してみたものの、思ったより使われなかったり、具体的な使い道に悩んでいるのが現状かと思います。本記事では、化学メーカーを中心に、生成AIの活用事例をまとめました。各社の取り組みから、目的、活用事例、セキュリティへの配慮、改善効果などを見ていきます。


2022年

2022年12月20日|三菱ケミカルシステム

  • カテゴリー: カスタマーサポート

  • 取り組み内容: ヘルプデスク向けAIチャットボット「Alli」による問合せ自動応答

  • ステータス: 本番運用

  • 効果: 月間5,000件の問い合わせを自動化、応答精度は75%以上

  • パートナー: Allganize

  • URL: https://blog-ja.allganize.ai/casestudy2212/

概要:
問い合わせ対応をAIで自動化することで、カスタマーサポートの生産性が大幅に向上。導入により、担当者の負荷軽減と顧客満足度の向上を目指す。今後はさらなる精度向上や他業務への展開が期待される。


2023年

2023年6月19日|AGC

  • カテゴリー: 全社

  • 取り組み内容: 社内向け対話型AI「ChatAGC」による業務効率化

  • ステータス: 本番運用

  • 効果: 具体的な数値は未公表

  • パートナー: 記載なし

  • URL: https://www.agc.com/news/detail/1203953_2148.html

概要:
従業員が安心してチャットAIを業務に活用できるよう、セキュアな環境を整備。素材イノベーションを牽引するための知見を広く共有し、従業員の創造的な活動へシフトを促す。


2023年9月13日|三井化学

  • カテゴリー: 研究開発

  • 取り組み内容: GPTとIBM Watsonを融合した新規用途探索

  • ステータス: 実証実験

  • 効果:

    • 辞書作成数が10倍増加

    • 用途抽出効率が3倍に向上

    • 新規用途発見数が2倍に増加

  • パートナー: IBM

  • URL: https://jp.mitsuichemicals.com/jp/release/2023/2023_0913/index.htm

概要:
GPTの生成能力とIBM Watsonによるテキスト分析を組み合わせ、製品の新規用途探索を効率化。従来の手作業を大幅に削減しつつ、より多くの有望な候補を抽出。セキュリティ面ではAzure OpenAI Serviceを活用し、機密情報の流出を防止。


2023年10月24日|住友化学

  • カテゴリー: 全社

  • 取り組み内容: 社内向け生成AIサービス「ChatSCC」による業務効率化

  • ステータス: 本番運用

  • 効果: 典型的な業務で最大50%以上の効率化

  • パートナー: 記載なし

  • URL: https://www.sumitomo-chem.co.jp/news/detail/20231024.html

概要:
生産性の飛躍的向上、独自データの有効活用、新規ビジネスモデル創出を目的に「ChatSCC」を開発。文書作成やコード生成など一般的な業務だけでなく、研究・製造データ分析にも展開し、効率性を大幅に向上。


2023年11月9日|TOPPANホールディングス

概要:
社内向けシステムのプログラム開発工程に生成AIを組み込み、コードレビューやバグ修正の効率化を実現。人手による繰り返し作業を軽減することで、大幅な時間短縮に成功。


2023年11月14日|帝人

  • カテゴリー: 全社

  • 取り組み内容: 社内業務効率化を目的とした生成AIサービス「chatテイジン」の導入

  • ステータス: 試用期間中

  • 効果: 文章作成・翻訳・要約・データ分析など、日常業務の生産性向上を目指す

  • パートナー: 内製

  • URL: https://www.teijin.co.jp/news/2023/11/14/20231114_01.pdf

概要:
生成AIの導入により、多岐にわたる社内業務の効率化を目指す。試用段階で社員のフィードバックを集め、効果的な運用方法を検証。今後の拡張や正式導入に向けて準備中。


2023年12月8日|ライオン

  • カテゴリー: 研究開発

  • 取り組み内容: 生成AIと検索システムを組み合わせた「知識伝承のAI化」ツールの開発

  • ステータス: 試験運用中

  • 効果: 文書取得時間を従来の約5分の1に短縮、業務効率を大幅向上

  • パートナー: 記載なし

  • URL: https://www.lion.co.jp/ja/news/2023/4464

概要:
研究データやノウハウの伝承をAIで自動化し、従来の属人化していた作業を効率化。過去文書の検索や要約がスピーディにできるようになり、新規アイデア創出への時間を捻出。


2023年12月25日|トクヤマ

  • カテゴリー: 全社

  • 取り組み内容: 社内向け生成AIサービス「TokuyamaGPT」の構築

  • ステータス: 本格運用開始

  • 効果: 文章作成や企画発案の効率化、業務工数削減を目指す

  • パートナー: Azure OpenAI Service

  • URL: https://www.tokuyama.co.jp/news/2023/2023122502.html

概要:
独自のGPTサービスを構築することで、機密データも安全に扱いつつ、生産性向上を狙う。社員が頻繁に行う文書作成・要約・翻訳などの作業を効率化し、新しいアイデア創出を支援。


2024年

2024年4月4日|レゾナック

  • カテゴリー: 研究開発・業務効率化

  • 取り組み内容: 研究データ活用・特許調査・文書作成など、25以上のアプリケーションで生成AIを本格導入

  • ステータス: 本番運用

  • 効果: 作業時間を5分の1に短縮

  • パートナー: 記載なし

  • URL: https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/09054/

概要:
幅広い部門で生成AIを導入し、研究や特許関連業務を大幅効率化。従来のルーチンワークを最適化し、担当者がより付加価値の高い業務に注力できる体制を構築。


2024年4月19日|花王

  • カテゴリー: マーケティング・分析

  • 取り組み内容: マーケティング戦略立案・トレンド分析における生成AI活用(ハッカソン4チームで開発)

  • ステータス: 実証実験

  • 効果: プロトタイプ4種類を3日間で開発

  • パートナー: LTS・FPTジャパン

  • URL: https://lt-s.jp/news/pressrelease/2024-04-19

概要:
短期間のハッカソン形式で生成AIを活用するプロトタイプを開発。データ分析やマーケティングの高度化を図り、迅速な意思決定やイノベーション創出を目指す。


2024年6月5日|積水化学工業

  • カテゴリー: サステナビリティ

  • 取り組み内容: 再生材マーケットプレイスシステムの実証実験

  • ステータス: 実証完了

  • 効果: 再生材の活用促進に向けたシステムの有用性を確認

  • パートナー: 日立ハイテク・日立製作所

  • URL: https://www.sekisui.co.jp/news/2024/1403781_41090.html

概要:
循環型社会実現のため、再生材の取引や供給をスムーズにする仕組みを検証。生成AIによる需要・供給データ分析で、廃棄物削減や資源活用の最適化を狙う。


2024年6月6日|レゾナック

  • カテゴリー: 全社

  • 取り組み内容: 社内向け生成AIツール「ユーザーローカル ChatAI」の導入

  • ステータス: 運用中

  • 効果: 業務効率化と生産性向上を目指す

  • パートナー: ユーザーローカル

  • URL: https://www.userlocal.jp/press/20240606rc/

概要:
研究開発や製造、営業など、多部門でのAI活用を促進。既存システムとの連携を進め、意思決定スピードを上げることで企業競争力を強化。


2024年6月13日|ニコン

  • カテゴリー: 全社

  • 取り組み内容: 生成AIの活用に関する社内アンケート(5月に導入)

  • ステータス: 検証中

  • 効果: 社員の生成AI利用状況や意識を把握

  • パートナー: 記載なし

  • URL: https://japan.zdnet.com/article/35209163/

概要:
本格運用に向けて、社内でのAI活用状況とニーズを確認。生成AIを安全かつ有効に運用するためのフレームワーク構築とガイドライン整備を目指す。


2024年6月13日|東レエンジニアリング

  • カテゴリー: 設計業務

  • 取り組み内容: PLMソフトウェア「Obbligato」と生成AIを組み合わせた設計業務高度化

  • ステータス: 実証開始

  • 効果: 設計者の質問に対して効率的かつ高精度な回答を提供

  • パートナー: NEC

  • URL: https://www.toray-eng.co.jp/news/2024/20240613.html

概要:
製品ライフサイクル管理と生成AIを連携することで、設計フェーズでの情報収集や課題解決を効率化。専門知識と設計データをAIに学習させることで、設計品質とスピードの向上を図る。


2024年7月1日|信越化学

  • カテゴリー: 研究開発

  • 取り組み内容: 材料探索における生成AI活用(物質構造スクリーニング・自動白棒計算など)

  • ステータス: 実施中

  • 効果: 具体的な数値は未公表

  • パートナー: 記載なし

  • URL: https://www.shinetsu.co.jp/wp-content/uploads/2024/07/統合報告書2024(印刷推奨).pdf

概要:
化学材料の特性評価や新規組成探索にAIを活用。膨大なデータから効率的に候補を抽出し、開発スピードの向上と研究コストの削減を目指す。


2024年7月1日|味の素

概要:
社内の膨大なデータを一元管理し、生成AIと組み合わせることで、業務の効率化とイノベーションを促進。顧客ニーズの解析や新製品開発への応用も期待される。


2024年8月8日|AGC

  • カテゴリー: 全社

  • 取り組み内容: 社内向け生成AI「ChatAGC」へのRAG機能追加

  • ステータス: 本番運用

  • 効果: 過去の技術情報活用・トラブル対応・顧客ニーズ把握等の効率化

  • パートナー: 記載なし

  • URL: https://www.agc.com/news/detail/1207106_2148.html

概要:
RAG(Retrieval-Augmented Generation)機能を追加することで、AGC内部に蓄積されたデータを検索しつつ高度な回答を生成。研究・製造・営業・戦略企画など多角的に活用を進めている。


2024年9月11日|日東電工

概要:
生産管理や品質管理など、多岐にわたる領域での業務改革を目指す。PoVの成功を受け、今後さらにスケールアップしたAI導入が期待される。


2024年9月25日|TOPPANエッジ

概要:
回答精度向上を目的に、RAG(リトリーバル強化)手法を検証。問い合わせ対応やレコメンド機能など、幅広い業務での適用を目指す。


2024年9月25日|日本ペイント

  • カテゴリー: 全社

  • 取り組み内容: ChatGPTを用いた業務効率化(翻訳・文章添削・議事録作成・プログラムコード作成など12パターン)

  • ステータス: 全社展開準備中

  • 効果: 非コア業務が半分以下に削減

  • パートナー: 記載なし

  • URL: https://www.yokogawadigital.com/dxtoday/dxtoday-686/

概要:
全社的なデジタル化推進の一環として、ChatGPTを活用した業務効率化に着手。翻訳や文書作成などの定型作業が削減され、専門業務へ集中できる環境づくりを目指す。


2024年10月1日|富士フイルム

概要:
DX推進の一環で、研究開発分野の材料探索(MI)やサービスエンジニア支援、医療領域での診断レポート作成など幅広く活用。大幅な時間短縮が報告され、生産性向上に寄与。


2024年10月7日|大阪ガス

概要:
環境への取り組み強化の一環として、カーボンクレジットの評価を自動化するシステムを構築。生成AIによる解析で、プロセスの効率化と客観的な評価基準の確立を目指す。


2024年10月10日|東京ガス

  • カテゴリー: 全社

  • 取り組み内容: 生成AI搭載の社内アプリ「AIGNIS」の開発と利用開始

  • ステータス: 運用中

  • 効果: 問い合わせ対応時間の削減、One to Oneマーケティングの加速

  • パートナー: NTTデータ

  • URL: https://www.tokyo-gas.co.jp/news/topics/20241010-02.html

概要:
顧客や社内ユーザーからの問い合わせにAIが自動応答する仕組みを導入。マーケティングでは個別顧客への最適な提案が可能となり、顧客満足度の向上を目指す。


2024年11月7日|デクセリアルズ

  • カテゴリー: 研究開発

  • 取り組み内容: 生成AIを用いた技術領域の自動可視化システムの構築

  • ステータス: 構築開始

  • 効果: 新規事業探索の効率化と知見の組織化を目指す

  • パートナー: 三菱総合研究所

  • URL: https://www.dexerials.jp/news/2024/news24053.html

概要:
研究開発で扱う技術領域を自動的に可視化し、新規ビジネスの種を発掘する仕組みを構築。社内に蓄積されたデータとの連携を強化し、イノベーション創出を加速。


2024年12月9日|旭化成

  • カテゴリー: 研究開発・製造

  • 取り組み内容: 生成AIを活用した新規用途探索の自動化と製造現場の技術伝承

  • ステータス: 運用中(2023年12月から)

  • 効果: 用途選別時間を約40%短縮、危険予知の精度向上

  • パートナー: 記載なし

  • URL: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000168.000079452.html

概要:
研究開発部門での用途探索のAI自動化に加え、製造現場でのノウハウ継承を強化。作業員が蓄積してきた知見をAIが解析し、ヒヤリハット事例の精度向上や改善策の提示を目指す。


2024年12月25日|三井化学

概要:
膨大な特許文献の中から関係性や新規領域をAIが瞬時に抽出し、研究者の分析負荷を軽減。高効率な特許検索により、新規材料開発や用途探索のスピードアップが期待される。


全体総括

近年の製造業では、新規用途探索や研究開発の効率化社内業務の自動化と生産性向上、さらにはカーボンクレジット評価などの環境領域に至るまで、多種多様な活用が進んでいます。各社は以下の点に特に注力していることがうかがえます。

  1. 高度な分析を可能にする独自の生成AIサービスの構築

    • Azure OpenAIやIBM Watsonなどを基盤にしながら、自社環境・データに最適化したAIを導入するケースが増えています。

  2. セキュリティ確保と機密情報の取り扱い

    • 自社のネットワーク内に完結するシステム構築や、データの2次利用制限、社内ユーザー限定の専用AIサービスを運用するなど、機密情報保護のための取り組みが進んでいます。

  3. 業務効率化と新規価値創造の両立

    • 定型作業の自動化により人的リソースを削減し、その分を研究開発やイノベーション創出に振り向ける動きが活発です。

  4. エコシステムの拡張

    • 他社ソリューションとの連携や共同開発、外部パートナーシップを活用し、スピーディな導入とモデル精度の向上を目指すケースも多く見られます。

生成AI技術の進化は急速であり、今後もマテリアルズ・インフォマティクス(MI)やロボティクスとの連携、さらにはマルチモーダルAIへの対応など、新たな可能性が次々と広がるでしょう。これらの事例が示すように、「生成AIをいかに現場にフィットさせ、会社全体のナレッジと融合するか」が成功のカギとなりそうです。

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