製造業における生成AIの活用事例(化学メーカーを中心に)
はじめに
2022年11月30日にChatGPTが公開されて以来、製造業において生成AIの活用が注目されています。セキュリティの課題を乗り越え、多くの企業が導入してみたものの、思ったより使われなかったり、具体的な使い道に悩んでいるのが現状かと思います。本記事では、化学メーカーを中心に、生成AIの活用事例をまとめました。各社の取り組みから、目的、活用事例、セキュリティへの配慮、改善効果などを見ていきます。
1. 三井化学株式会社
発表日: 2023年9月13日
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/release/2023/2023_0913/index.htm
目的:
製品の新規用途探索における高精度化と高速化
活用事例:
Microsoft Azure OpenAIのGPTとIBM Watson(新規用途探索ツール)の融合
新規用途探索という目的に合わせて、GPTに対する指示を洗練
三井化学が注目すべき新規用途候補を特定・抽出し、IBM Watsonへ適用
用途抽出プロセスの自動化
セキュリティへの配慮:
ChatGPTではなくAzure OpenAI Serviceを活用した仕組みを構築
改善効果:
4か月間での辞書作成数が、従前に比べて約10倍に増加
従来は分析者が技術資料や論文、Web等の情報を集めて行っていた辞書案の作成を、GPTとの対話を通じて作成 したことや、英訳辞書の作成にGPTを用いて、文脈を考慮した高度な翻訳を短時間でできるようになったため。明確に「用途」と記載のあるデータにおいて、新規用途の抽出作業効率が3倍に向上
新規用途探索の用途抽出プロセスにおいて、GPTの抽出機能を活用することによって、明確に「用途」としての記載があるデータのうち、約70%を自動で抽出することが可能、新規用途の抽出作業効率が3倍に向上。新規用途発見数が約2倍に増加
GPT導入の効果として、上記2つの改善効果により、新規用途発見数が倍増しました。これにより、より効率的かつ迅速に新規用途を発見すること、また、製品の用途の拡大が可能。
今後の展望:
SNS動画も含めたマルチモーダル
IBM Watsonを活用して発見してきた新規用途の情報をGPTへフィードバック
Sales Force Automation(SFA)/Marketing Automation (MA)、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)やロボティクスと連動させ、事業とR&Dといった異なるステークホルダー間の情報を融合させることで、市場開発から製品開発までのスピード加速
2. 住友化学株式会社
発表日: 2023年10月24日
目的:
生産性の飛躍的向上
独自データの有効活用による既存事業の競争力確保
新規ビジネスモデルの創出
活用事例:
社内向け生成AIサービス「ChatSCC」の開発と運用
一般的なオフィス業務(文書作成、校正、プログラムソースコード生成など)
技術アイデアの創出や研究・製造データの分析
セキュリティへの配慮:
入力情報が外部に漏れないセキュアな環境を構築
当社独自情報を取り扱うことが可能
改善効果:
典型的な約200の業務パターンをテストし、最大で50%以上の効率化を確認
今後の展望:
当社独自データを連携させ、社内の各組織で蓄積されたナレッジをより効果的に利用
特定分野のデータをもとに追加学習を施した"特化型モデル"の構築
3. AGC株式会社
発表日: 2023年6月19日
目的:
従業員が安心・安全にチャットAIを業務に活用
素材のイノベーションを牽引
従業員の業務効率向上
創造的な活動により一層注力できる環境の構築
活用事例:
社内向け対話型AI「ChatAGC」の構築と運用
Microsoft社のAzure OpenAI Serviceを用いて開発
セキュリティへの配慮:
入力情報を社外の組織に送信することなく利用可能
データは2次利用されず、AGCのネットワーク(環境)のみで保管
AGC社員のみが利用可能
改善効果:
具体的な数値は言及なし
今後の展望:
「生成AI活用探索プロジェクト」を立ち上げ、全社横断的な取り組みとして活用方法を探索
安全な利用環境を整備し、活用ノウハウを社内に提供
結論
製造業、特に化学メーカーにおける生成AI活用は、主に以下の目的で進められています:
業務効率化と生産性向上
新規用途探索や技術イノベーションの促進
社内の独自データやナレッジの有効活用
各社とも、セキュリティに配慮しつつ、自社専用の生成AIシステムを構築・運用しています。これにより、一般的なChatGPTでは難しい機密情報の取り扱いや、業界特有の専門知識を活用した高度な分析が可能になっています。
今後は、さらに自社の膨大な知見と連携させた特化型モデルの開発や、AIと人間の協働による新たな価値創造が期待されます。生成AI技術は日々進化しており、これらの事例は今後の製造業におけるAI活用の指針となるでしょう。