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【映画・アニメ批評】君たちは『君たちはどう生きるか』の考察を勘違いしたまま生きるのか

※以下映画「君たちはどう生きるか」のネタバレを含みます。
※是非映画を実際に体験してから、この記事を読んでください。


○あけみ…26歳メンヘラOL。一番好きな映画監督は高畑勲。世間で評価されている「君生き」考察に不満があるらしい。

○ハロ…あけみの飼っている犬。「君生き」を
観たはいいが、訳のわからなさに知恵熱を出した。

1.神話の法則とは


あけみ(以下あ)ーーーこの作品を説明するにあたってまずは『神話の法則』っていうの説明しないと。世界には神話が沢山あるよね?
ハロ(以下ハ)ーーーうん、欧米なら聖書とか日本なら古事記とかだよね。
ーーー実は神話には全世界共通のフォーマットがあるのよ。
ーーー似た形式を持ってるってこと?
ーーーそう、細かな話をすると冒険への召命とか、鯨の腹の中とか、父親との一体化とか色々あるんだけど…簡単に言うと、主人公(英雄)は日常の世界から超自然的領域へ冒険に出て、そこで勝利を手にする。そして仲間に恵みをもたらす力を持って冒険から帰還するっていうフォーマット。
ーーーああ!そういう神話ってよく見るよね!
ーーーそういったお話の中で英雄は表面的には、例えばドラゴンを倒したりするじゃない?でも、あくまでドラゴンを倒すことはストーリー上の流れでしかなくて、そこには隠された意味がある。…実は「自分の『無意識』の中を冒険して、生まれ変わる」っていうのが英雄の旅のほんとうの意味なんだよね。
ーーー無意識っていうのは?
ーーーこれはフロイト等の言うところの無意識と一緒。自分では意識できないけど精神的に影響を与えたり、行動させたり、行動を制限したりするよ。
ーーーあと、生まれ変わりって?
ーーー精神的な到達だとか新たな自分への生まれ変わりのこと。自分の無意識の中を探求して問題の核を見つけ出し、そこから解放されることを言うよ。例えるなら、「自分の中のドラゴンを倒すこと」が生まれ変わりってわけ。
ーーーじゃあ、その精神的な生まれ変わりを表現するために世界中の神話がおんなじフォーマットを使っているってこと?
ーーーそうなるね。
ーーーおどろきだなぁ。
ーーーでね、このフォーマットは神話だけじゃなくって、あらゆる創作物に使われてる。この法則を使うと創作物は売れるって言われてるの。逆に言えばこの法則を使えば、その話は神話になる、つまり精神的成長を描く物語になるってこと。
ーーー人気の映画を考えてみると確かにその法則に従っているような…。
ーーー例えば「スター・ウォーズ」は神話の法則を使っている有名な映画で、監督本人も神話の法則に則って作ったことを明言してるよ。
ーーーへぇ〜!

2.「君たちはどう生きるか」と神話の法則


ーーーじゃあ、本題に戻るね。今回お話しする「君たちはどう生きるか」は今説明した神話の法則を使って描かれてる。今までの宮崎駿のアニメ映画も神話の法則は意識していただろうけど、今回は特にわかりやすい。もう見た瞬間、知っている人は、神話の法則だ!って思うくらい。
ーーーそれってどんなとこを見ればわかるの?
ーーー例えば、主人公はアオサギに導かれて日常から不思議な世界へと足を踏み入れるでしょ?これは神話の法則で言うところの「冒険への召命」にあたる。
ーーーあの池でのシーンだね。
ーーー池っていうのも神話で召命がおこる典型的な場所。そして、冒険へ誘う「使者」は気持ち悪い見た目なことが多いんだ。
ーーーじゃあ、あのアオサギが「使者」の役割ってことか。確かに不気味な見た目だったよね。
ーーー他にも例を挙げると、主人公は海の広がる不思議の領域にたどり着くでしょ?これは神話でいうところの「鯨の腹の中」にあたる。いわば主人公が新たに生まれ変わるための子宮のイメージ。
ーーー子宮のイメージとして海を用いるのはわかりやすいね。
ーーー他にもあげればたくさんあるけど、長くなるので次の段階に進もう。

3.「君たちはどう生きるか」で表現されるもの

ーーーこの「神話の法則」を使って、「君たちはどう生きるか」はいったい何を表現したいんだと思う?
ーーー単純に考えれば、主人公の精神的成長を描きたいんじゃないかな?
ーーー表面的にはそう。でも本当に成長だけを描きたいんだとすれば、もっとどういった面での成長なのか絞ってみせるべき。それにしては、ストーリーの中の余計な場面が多すぎるの。
ーーー確かに話全体に繋がりがないっていうか、雑多だなって感じた。
ーーー例えば、主人公が不思議な世界に入り込んで、船に乗ったり、わらわらに会ったり沢山の経験をする場面とか。見てる時、今までのジブリ作品のどこか見た表現がたくさんあるなって感じなかった?
ーーー感じた!実際それをみて多くの人は宮崎駿はジブリのアニメ表現の総まとめを作ったんだって評価していたよ。
ーーー意図がわからなければそう考えるのも無理はない。でもそれはミスリード。おそらく、それらのシーンひとつひとつは全て宮崎駿が考えた「世界全体の無意識下にある問題」なんだと思う。
ーーー宮崎駿の世界に対する問題意識ってこと?
ーーー今まで彼は世界ないし個人の問題についていろいろな方向からアニメーション作品を作ってきた。それは彼なりの外への問題提起や道を示す方法だったんだと思う。
ーーーじゃあ、「どこかで見た表現」を使うのは…
ーーー今まで示してきた問題やメッセージを改めてなぞってる。更にそれだけじゃなく、あからさまな社会への問題提起のようなシーンが多く設けられてた。例えば、主人公が魚を捌くシーンでは、自分では魚を捌かずに他人にやらせる黒い生き物が登場する。本当の意図ははっきりとはわからないけど、他人に生き物を殺させて己は清らかなままに利益を得ようだなんてなんとも愚かしい考え方だよね。
ーーーそういう愚かさって現実世界でもあるよね…
ーーー他にもインコの国みたいなとこは、おそらく社会の構造そのものに対する揶揄が入っている。
ーーーでもそれって、本来の主人公のストーリーには関係がないよね?
ーーーそう。だから余計なシーンが多くて、雑多な印象になる。
ーーーなんでそこまでして、もう表現したはずのものを再提示したり、いくつもの社会問題を示す必要があるの?
ーーー世界もしくは個人に内包される問題を提示することで、それを考えて世界を成長させてくれる英雄を育てたい。それが一番の宮崎駿の目的だから。
ーーー英雄を育てる?
ーーー彼は人生の中で「問題」について考えてきた。自分も英雄としての役割を果たすべく、アニメーション映画を作ってきた。でも英雄の役目は完了することはないし、それを続けるには自分はもう残された時間が少ない。それなら新たな英雄を育むしかない。

4.大叔父は宮崎駿?

ーーー多分だけどあの大叔父さんは宮崎駿のメタファーかな、もしくはもしかしたら高畑勲かもしれない。
ーーーそれってどういうところからわかる?
ーーーちょっと説明が疲れたので観念的な説明にしてもいいですか?
ーーーいいですよ。
ーーー大叔父は積み木で世界を作ってるじゃない。でもそれは崩れかけてる。それって何が言いたいか考えてみた。
ーーーうん。
ーーーあれは宮崎駿の作ってきた世界。彼はさ、そんだけ問題考えてきてそれを解決するために自分なりにアニメーションっての作ってきたんだけど、それを踏まえて「私はこんなふうに自分の中でその人間的成長っていうのを起こそうと努力してきただけど、私がやってることを私が考えてきたことを私たち先人が作ってる世界がこれです、見て、綻びがある。うまくいかない、崩壊してしまう。さぁ、あんたたちはどうするの?」っていうことが言いたいんだと思う。
ーーー大叔父は積み木を主人公に託そうとしてたよね。
ーーー宮崎駿はこれまで私たち観客にいくつもいくつも問題を問いかけてきた。でも問題を考え続けてきた宮崎駿ですら世界を完璧にはできないし、世界を変えられないし、自分自身も変えられないなにも変えられない。
もしそれが実現不可能だとしても、私のアニメーションを見てきて、見てきたあなたたちはどうイニシエーションを起こして、どう成長して見せてくれるんですか?私たち世界は成長しないといけないんじゃないですか?って宮崎駿は考えたのかもしれない。
ーーーあれは私たちに積み木を渡したかったのかな
ーーーもしくは若きクリエイターたちに渡したかったのか。
ーーーでも主人公に断られてたよね。
ーーーそんなもんに縛られずとにかく自分自身の方法で英雄になってくれ!ってことかな?(笑)


ーーーで、結論を言うと?
ーーー頭でっかちな作品だと思う。
ーーー同意。

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