
落語聞き覚えメモ『黄金の大黒』(笑福亭仁鶴)
(清八、以下■)おい、みな集まり、集まり。
(喜六、以下●)何ですかいなぁ?
■いぃやいな。家主さんがな「長屋、まとまっていっぺん寄れ」ちゅうて、こない言ぅたはんねんけどな。
●あぁ...
■珍しぃことがあるもんで「長屋一統、全部寄れ」ちゅうのが、こらどぉいぅことかいなぁ思て今、寄ってたかってな、話をしてたところじゃがな。
●あぁさよか、家主さんが「集まれ」ちゅうねやさかい、そらやっぱりなんでっせ、家賃の催促やないかと思いますがなぁ。
■あぁそぉかも分からんなぁ。この長屋のもんで家賃を決まったよぉに払ろてるやつは、おらんねやさかいなぁ。
■おまはんとこ、家賃どぉゆぅことことなってんねん?
●え、わたしとこですか?だいたいまぁこの日家賃でおまっさかいなぁ。朝仕事に出かけて親方から手間賃もぉて、ほんで帰りしな家主さんとこへ寄って、ほんでまぁ家賃納めて家帰って、あとでその何ですなぁ、所帯にするというよぉなことで。
■そんなん、お前に言われんでも分かったぁる。
●ええ、そぉですよ。で、それをね、まぁ嬶の言ぅのには「ちょっと稼ぎの良かった折にですなぁ、三日分、四日分て、こう納めといたら、あと楽やさかい」と、こぉいぅよぉなことで「そぉか」ちゅうたら「そぉやないかいな、雨が降ったりしてあぶれた折に、家賃払えんてな、そんな不細工なことではいかんさかい」
■おお、そらまぁそやなぁ。
●ほんでまぁ「払いなはれ」っちゅうて、十日ぐらい先の分はだいたい納めたぁるといぅよぉなことに……、早よなりたいなぁと思てね。
■お前、何言ぅてんねん。で、払ろてないのんかいな? いつ払ろたんや?
●いや、いつ払ろた?そぉですなぁ、わたしゃこの長屋へ宿替えして来たときに、確かいっぺん払ろたよぉな……
■お前が宿替えして来たときっていつや、もぉ七年ぐらい前か?
●いえいえ、八年ぐらい。
■よけい悪いがなアホやなぁ、そんなことではお前どないすんねんな……
■おまはんとこ家賃どういうことなっとりまんねん?
(長屋の住人A)えぇ、家賃でしょ、家賃要るちゅうことは明治三年にねぇ、聞くことは聞ぃたが……
■よぉそんな呑気なこと言ぅてるで……
■お宅は?
(長屋の住人B)へぇ、家賃でございますけども、うちの親父がだいたい、先祖代々家賃を払わん筋やったん。ほんで「わしが何かあった折に、お前が悪心を起こして、もし一つでも払うてなことなったら、先祖に対して申し訳ない」これちょっと遺言されましてね。
■んなアホな遺言があるかいな。みんななんやで、てんごばっかり言ぅてんねやないで……
■お宅どぉです?
(長屋の住人C)あぁ今聞ぃてましたら、この長屋に長年住んでおられる皆さま方が、気ぃ合わしたよぉにお払いにならん家賃を最近越して来たばっかしのわたしが、皆さん方を差し置いて払うてなこことは何じゃ、付き合いが悪いなぁと思てな、払いたいのんをぐ~っと辛抱してるのん辛い、ほぉ~ら辛い。
■何が辛いねん、よぉそんな呑気な……。お咲さん。
(お咲さん、以下△)何です?
■あのぉ、家賃どないでっかいなぁ?
△家賃....って何です?
■家賃、知らんがな。あの、家主さんの月々のお金やがな。
△まぁ お兄さん?そんなんいっぺんももぉたことがない。
■もらえる思てるで……。こんな連中ばっかりやったら、家主が「もぉ辛抱たまらん、堪忍袋の緒が切れたさかい、まとまっていっぺん出てくれ。住人を入れ替える」てなこと言ぅてな、大叱りに叱られるやわからんでこれは、そんな呑気なこと言ぅてたら。
●そぉでっしゃろか?
■「そぉでしゃろか?」てお前、なんぼ気ぃのえぇ家主さんかて、そらそぉでっせ。
●えらいこっちゃなぁ、これは……
(羽織の主、以下★)あのぉ、今わたしちょっと聞ぃてきました。
■あぁさよか。
★聞ぃてきたら、 家賃の催促どころやおまへん。
■え? どぉいぅことでんねん?
★「どぉいぅことでんねん?」て、今聞ぃたんやけどね、あの質屋がおまんなぁ。その蔵の横手でね、長屋の小倅と家主のお坊ちゃんが、なんか砂なぶりをして遊んでなはったんや。ほんでお坊ちゃんが「土ん中で何じゃピカピカ光るもんがするなぁ」ちゅうて、んでこぉジワジワジワジワ掘り起こしてみなはるちゅうと、金の大黒さんが出て来たんやて。「こんなめでたいことはない、縁起がえぇさかい、いっぺん喜びを分ち合いたい。長屋中集まってな、いっぺんこの祝いしょ~」いぅて「呑んだり食ぅたり、喜ぼ」ちゅうて、こぉ言ぅたはりまんねや。
●あっさよか、家賃の催促やおまへんのか、胸ドキドキした。
■よぉそんなこと言ぅなぁ。胸ドキドキする柄かお前?ホンマに……、しかしまぁよかっ たなぁ
●ほんだらスッと行きまひょか
■「行きまひょか」はえぇけどね、そんなあんた、仕事しぃのカッコではあきまへんで。
●この恰好で?
■そらそや、めでたいときのこっちゃさかい、羽織の一枚でも引っかけて行かんならん。
●羽織? ちょっと尋んねますが、羽織てだいたいどぉいぅもんでおましたやろかいなぁ?羽織といぅのはどんなもんでおましたやろ?
■「どんなもんでおました」て、こぉ襟が別に付いたやつおましたやろ。
●あぁ、嫁はん着物の下に着てるやっちゃ。
■そら襦袢やアホやなぁ。こぉ紐が付いたんおまっしゃろ。
●あぁあれやあれや、綿の入ったやっちゃ。
■そらジンベハンやわ。ちょっとこれ、羽織知りまへんで。
(長屋の住人D)そら~、無理言ぅたんな。この長屋で羽織持ってるもん一人もいてしまへん。また、羽織着るよぉなとこへ行くことがないねん。この長屋、羽織着て入って来たら、犬が吠え付いてしゃ~ないで。
■あぁさよか、珍しぃてね。せやけど羽織の一枚ぐらいおまへんか?
★よぉ言ぅとくなはった、押入れに入れたぁります。
■あるか?
★おまんねん、小紋の紋付きやけど。古いでこれ。親父が「お爺んにもぉた」言ぅてね、着ることがないさかいズッと押入れ入れたぁりますけど、小紋の紋付き。
■何でもよろしぃねん。カッコさえしたぁったら、それ着て挨拶に行けまっさかいな、こんな風では具合悪い。
★あぁさよか、ほなちょっと取ってきまっさ……。へぇ、これです。
■あッこっち貸して、あぁほんに、こぉら見事に。あーら汚い羽織やなぁ。
★汚なございましょ、もぉ出したことないねやさかい。奥へギュ~ッと詰めたぁった、もぉボロみたいになってました。
■ほぉ~、小紋の紋付きねぇ……、さよか。右の紋が「剣かたばみ」でね、左が……、これ何の紋でんねんこれ?
★えぇ、実それ、今出したら穴開いたぁりましたんやなぁ。ネズミに食われたんやそれ。で、穴開いたままっちゅうのんもおかしいさかい、ちょっと新聞紙の広告のとこ貼ったぁる。
■新聞紙の広告?「小倉屋昆布」けったいななぁ。妙な羽織やけど、まぁまぁしゃ~ない着て行きまひょ。
●「着て行きまひょ」ちゅうたかてあんた、羽織一枚で役に立つかい?こない人間ぎょ~さんいてまんのんに。
■よろしいがな、わたしが先挨拶行きまっしゃろ、ほんであんたら皆表で待っててもぉて、挨拶が終わったら、うまいこと言ぅてシュ~ッと出て来て、ほんで待ってる人に羽織渡したら、お宅また来てこぉ入って行って、挨拶して出て来て、交代ごぉたいで。
●せわしないなぁ。ほな家主が中から「皆もぉそんなややこしぃことせんと、いっぺんに入ったらどないや」いぅて言わはったらどないします?
■そぉいぅときは、わたしがこっちで羽織差し上げてて、ほんであんたが向こぉで羽織持ってこぉ差し上げてね、で真ん中を連中が通ってね、羽織トンネルですな。開通式。
●よぉそんなアホなこと言ぅてなはんなぁ。
■まぁまぁ行きまっさかい待ってなはれや、よぉ聞ぃときや「口上」ちゅうのん……
■えぇ~、こんにちは。
(家主。以下◆)はいぃ~、あぁ、長屋の衆か、さぁもぉややこしぃこと言わんでよろしぃで。お上がり。
■へぇ、あのぉまだ連中はお邪魔してまへんかいな?
◆あぁ、そのうちにお越しになるじゃろ、おまはんだけなと先上がってしもて。
■え?
◆おまはんだけなとスッと上がり。
■それ「上がり」ちゅうて言ぃはっても、その何ですわ、羽織の一件がありますのんで。
◆何が?
■いえ、ちょっとあの、口上を申し上げますのんで。
◆そんな難しぃこと言わんと
■いえちょっと形だけでおますさかい。
■えぇ~、承りますれば、このたび、こちらさまにはめでたいことが起こりましたそぉで。え~、お宅の坊ちゃんと長屋の小倅が、質屋の蔵の横手で砂なぶりをしてお遊びになる。土の中で何じゃピカピカ光るものがするちゅうて掘り起こしてみなはるっちゅうと、金の大黒さんが出て来たやなんて、こ んなめでたいことないやないか言ぅたりしてな。ほんでまぁ、長屋の手ぇに入らんと、お宅の手ぇに入るといぅことは、こらまた高いところへ土持してるよぉななぁ、いぅてみな表で言ぅとりますのんで。ほなご無礼を。
◆いや「ご無礼」て、上がんなはらんかいな。
■いえ、ちょっとわたしお便所へ行きとおまんので。
◆え?
■ちょっとお手水へ行きとおます。
◆お便所やったら、うちのんお使い。
■いえ、お宅のお手水と、どぉも相性が悪いねんわたし。今朝方あの、長屋の共同便所から「お兄さん、近ごろちょっともおいでやないけど、お暇でしたらいっぺん寄っていただくよぉに」速達が着いた。
◆よぉそんなアホなこと、上がり。
■いや「上がり」ちゅうたかて上がられへん、といぅのが表にチンドン屋が通ってます。
◆ほっときぃな、チンドン屋。
■いえ、ちょっと挨拶行ってきます。また後ほど。
◆なんしに来たんやあれは?どないなってんねん?
■ちょっと羽織渡そ、あ~、危なかったわ、もぉちょっとで捕虜になるとこやった。お前らも気ぃ付けなあかんで。
●分かってます。羽織こっち貸しとくなはれ。わたしはねぇ、言ぅてなんですけど、今の人の言ぅたとおりにやりますから大丈夫。だいたい弁舌爽やかなことを称して「立て板に水を流すごとく」てなこと言ぃます。
■あぁ、そらそぉです。
●わたしらあんた、水やったら板にしゅむ間がおまっしゃろ、わたしらもぉツルツル~ッと行ったらもぉ止まりまへんねや。ね、立て板に銀粒でも転がすよぉにツ~ッと行ったらもぉ誰が止めよ思ても止まらん。「あぁ感心ななぁ」と感心する間もない。わたしがもぉ....
■やかましなぁもぉ、早いこと行っといで。
●へッ、分かっとります。
●えぇ~、こんにちわぁ。
◆はい~。
●え~。こんにちわぁ。
◆はい~。
●え~.....。
◆はい~。
●その「はい~」っちゅうのんやめてもらえまへんか?出て来るのんが止まりまんねん。えぇ、口上を以って申し上げま~す。このたび、こちらさまには、めでたいことが起こりましたそうで。うけ……、うけたまが、うけたまがり、こんにちわぁ。
◆はい~
●うけ、うけたまがり、まがります、まがりますれば……、うけた、うけたぶ、こんにちわぁ。
◆はい~
●あの~、つまり何ですわ。早い話が。
◆早いことないで。どぉやいな?
●え~、そぉ、なんです。つまりその、お宅の小倅と長屋の坊ちゃんが。
◆そら、あべこべや。
●あべこべが、質屋の蔵の横手で砂なぶりやりやがって。土ん中でピカピカするのは何じゃいなぁ。あれは紀ノ国みかん船。なが、こんにちわぁ。
◆はい~。
●あ~....
◆あんた溜息ついて、どぉしたんや?
●へぇ、それが長屋の手に入らんと、お宅の手に入らんと、どこ行てもたんやろ?高いとこへ土運ぶのんは梯子がえぇやろか、飛行機で落とそかぁ、言ぅたりして、あ~暑い。
◆何や? 汗かいてるがな。
●ええ。ほなまた、のちほど。
◆分からんねや、言ぅてることが。
●ちょっとこれ、羽織とって、あぁ~、しんどかった。
■もぉややこしぃやっちゃなぁお前は。よぉあんな能書き言ぅたなぁお前、立て板にどこが水やねん。お前のん、横板にトリモチやないかい。あっちベッタリ~、こっちベッタリ。お前、ここで聞ぃてて脂汗が出たで、しくじらへんか知らん思て、なぁ?
■羽織こっち貸せ、今日はだいたいが挨拶しに来たんちゃうねん。一杯よばれに来たんやさかい、そぉいうことはあっさりと。
●さよか。
■そぉや、わし早いさかい、次のやつ待っとれよ。
■え~、こんにちは。
◆はい~
■さいなら。
◆な、何やそら? 何やいなあれは?これこれ番頭、見とぉくれ、何じゃ今日はおかしな具合やで。長屋みな挨拶するかしらん思たら、みな何じゃ上がらんとそのまま行ってしまうねん。ちょっと見とぉくれ。
(番頭、以下▲)へぇ、何でございますかいなぁ「見とぉくれ」言われても。あぁあぁあぁあぁ、旦さん、表でみな何じゃ知らんけど、一枚の羽織を引っ張り合いしてますがなあれ。
◆ええ?もぉそんなことせんと、みな入ってもらい。
▲へぇ、おいおい、お前らみなそんなもん大層なことせんと、入り入り入り。
■おい、見つかってんねん、見つかってんねん、もう羽織そっちやっとけお前。振り回しな、ばい菌が飛ぶさかい。振り回しな。みな入れてもらお。
「え~こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは、え~こんにちは、え~こんにちは、え~アイスクリン」
◆んなアホなこと、さぁさぁさぁ、こっちみなお集まり。
■このたびはまた、めでたいことで。
◆いやいや、わたしもあんまり心嬉しぃのんで、皆さま方と喜びを分かち合いたいと思いまして。とりあえずまぁ、床の間にお越しいただいた大黒さんを。だいたいまぁ走り元の神さんやけど、食べもんの神さんやけども、いっぺん皆、その、お参りだけしていただいて。
●あぁさよか、よぉ来とくなはったなぁ、これでやすかいな金の大黒ちゅうのは?
◆そぉや。
●「そぉや」ちゅたかて何や知らんけど、こぉ木槌みたいなん持ってまんなぁ?
◆あぁ小槌ちゅうて、あれを振ったら何でも出て来んねん、金銀財宝でも欲しぃもんが。
●あぁさよか。あれちょっと貸してもらえまへんか?
◆そんなもん貸せるかい。なに言ぅねん。
●袋担げて?
◆そぉじゃ、あそこへ宝もん入れてな。
●あぁ なるほどねぇ。俵の上へ座ってなはんなぁ?
◆そぉじゃ、食べもんの神さんやさかいなぁ、台所へお祀りをする。
●ああ、よぉ来とくなはった、ありがとぉございました。
◆さぁさぁこっち、だいたいまぁ、そのインドからお越しになったらしぃ大黒さんといぅのは。
●ほぉ、インドの?はぁ外国の神さん?
◆大黒さんや。
●せやから、外国からピャ~ッと来はってんな?
◆まぁまぁ、そぉいぅこっちゃけど。それからね、奥で宴席ができてある。で、お酒の燗しますから、 皆奥行っとくれ。
●へッ、ありがとう。
◆それから言うとくで、孫がちょいちょい長屋行ってな、悪さするちゅうこと聞ぃとりますけどもな。ああ、家主の孫じゃちゅうて気ぃ遣ぉてもぉたりすると、かえって子どもの教育のために悪い。どんどん叱ってやってくだされや。
●へぇ、そぉ思いましたんで、こないだちょっと叱らしていただいた。
◆叱ってやってくれたんか?
●へぇ、こないだわたし、ちょっと具合悪かったんで、もぉ仕事置こか言ぅたら、嬶が「そぉでんなぁ、あんただいたい働きでやさかいなぁ。根詰めて働くほぉやさかい具合悪いときに無理して、あとあと堪えたらどんならんさかい、今日は一服しなはれ」ほんだら、そぉさしてもらうわ。言うたことは言うたんでおますけどもあんた、あいだ体動かしてるもんが、何にもせんちゅな何や知らんけどもね、居場所がないのでしゃ~ない、町内のゴミ集めてな、向こぉの広場で燃やしておりましたところが、そ の、お孫さんがお立ちになって。
(家主の孫、以下「※)おっちゃん、何してなはんねん?」
●ちゅうさかい「ご覧のとおり、とんとしとりまんねん」
「※あぁ、とんとか。何でとんとしてんねん?」
●何でとんとしてるて、そこらのゴミ集めて綺麗にしまんねがな。
「※あぁそぉか。ほんならおっちゃん、このとんとわいがいっぺん消したろか?」
●と、こんなこと言ぃはりまんねん。「消したろか?」てあんた、わたしも腹立つさかい「まぁ消そと思うねやったら、消したらどないでっか」
「※あぁそぉか、ほな消したら」
●言ぅて、ほんで、あの、お孫さんがね。
◆どぉした?
●「どぉした?」ちゅうたかってあんた、何やトンガラシみたいなもん、可愛らしのん出してきて、ジャジャジャジャジャとおかけになったんで、トントが消えちゃってね。そこでおいらが。
◆何を言うてんねん。どぉした?
●叱っちゃった。
◆叱ってやってくれたんかい?
●ええ、「おいさんが一生懸命燃やしてるとんとをオシッコで消すなんざ、そらとんでもないことじゃおまへんやないかいな」と。
◆そんなややこしぃ叱り方しないな。
●ほんだらボンボンがわたしの顔見てね「イ~ッ」と、こんな顔しなはる。あんまり腹立つさかいボ~ンと一発。
◆「ボ~ンと」て何かい、拳骨でか?
●そんなん無茶せぇしまへんがな。そばにあった火箸で。
◆何をすんねん、そんな無茶したらどんならんなぁおい。こないだコブ作ってワァワァワァワァ泣いて帰って来たんあらおまはんかいな?
●へぇ、もぉほんの一つ。
◆一つでえぇねがな、そんな無茶したらどんならん。
●ボンボン、これリンゴあげまひょ。
◆あぁこれ、おじが「リンゴあげよ」とおっしゃる、礼言ぃなはれ。
●いやもぉ、礼言ぅてもぉたら辛い。
◆いや「辛い」て、わたしやないねん、これを育てた乳母に、人さんから物を頂戴すると、ちゃあんと礼言わさんと、あとからわたしが叱られますのんでな。さぁ礼お言ぃ。
●いやもぉ礼を言われると辛い、と言ぃますのんが、実はお宅のお手水お借りいたしまして、廊下から奥の間入って来ました床の間に、大黒さんお飾りしたぁります。その前へリンゴがこぉ山盛りになっとりまして「あぁ、こら旨そぉやなぁ」と思てね、ほんで二つほど袂へ今入れてまして、これはうちの倅に持って帰ろかしらんと。ほんで、これ一つ少ないけど。
◆何をすんねやいな。アホなことせんと、早いこと皆お膳の前へ。
■ほんだらまぁ、ちょ~だいをいたします。早いこと 呑むもん呑んで、食べるもん食べて入れ替わったげんと、あとからまたドン ドン来はんねんさかいな、分かってんな?
●しかし、何でんなぁ、ありがたいこっちゃねぇ。家賃の催促かしらん思たらあんた、ご馳走よばれられるやなんて、今年はあんた何だっせ。こらえぇ酒や、えぇ酒は腹の底へ染み渡るなぁ、こら珍しぃなぁ。
■何が珍しいねん?腹の底へ染み渡る酒て、そら普通でしょ。
●いや、わしらいつも呑んでんのん違う。いつも呑んでる酒はね、「あたピン」ちゅうねや。
■何やそれ?
●呑んだら頭へピ~ンと来まんねん。こら腹の底へ来るちゅうねな、ああ、こら旨い。どぉですか、この見事な鯛の塩焼き。
■やっぱりめでたいときやさかい。そぉそぉそぉ……、ちょっと見てみ、ちょっと来てみ。
●何です?
■ちょっと来て、これ見てみ。
●え?わっ、大きな金魚。
■金魚?これ金魚かえ?
●何です、これ?
■鯛やないかい!
●鯛でっかいな。大きな金魚、こんな大きな金魚鉢どこで買ぉてくるのんかいな思たけど、これ何ですか、頭から尻尾までみな鯛ですかい?
■お前何言うとんねん。「みな鯛ですかい?」てお前、頭が鯛で胴が鰤てなそんな。
●はぁ~、こらやっぱりみな食ぅて。
■食わんでえぇ、こんなもん見るだけや、箸付けんでよろしぃ。そっちでなんか美味しいもんがあったら。
●あぁさよか、ほな、わたいお豆さんよばれますわ、豆の煮いたやつね。しかしなぁ、家賃の催促やのぉてよろしおました、胸ドキドキ したがな。払わないかんかいな思たらどないしょ~かしらん思た(シュッ) (シュッ)だいたい豆っちゅうのは食いかけるとね(シュッ)(シュッ)やまりまへんわこれ(シュッ)(シュッ)邪魔臭いなぁ……(シュッ)(シュッ)そんな時には、こぉやって鉢から ゴソッと
◆これッ、行儀の悪い食べ方しないな……、そっちでまた何やってなはんねん?
●蓮根ですけど、何でこの蓮根といぅのは穴があるん?
◆もぉ、 しょ~もないこと考えな、みな食べなはれ。
■いただいてます、わたしコノワタ。んなもん酒呑みが、豆で酒呑むやなんて、そんなジャラジャラした……、こぉいぅコノワタでやりますと、一合呑めるもんが二合いけて、二合のもんが三合てなもんでな。
●お宅らあんたな(ジュル、ジュルルル~)こら結構な。豆で酒呑むやなんて(ジュル、ジュルルル~)ヘ、ヘ、ヘ~っくしょん!ちょっと、ちょっとすんまへん、鼻からコノワタ出た。
■汚いなぁ。
●ちょっと、ちょっとこれ、これちょっとそっち持って。
■そんなん持たれへん持たれへん。
●はよ、(ズルズルズル)ちょっとこれ、元へ戻しとこか?
■もぉそんなアホな、慙無いなぁ、みな。おい。ええ?みなそんなことしてんとな、陽気に踊れ、踊れぇ~! ♪あ、コリャコリャ、コリャコリャ、コリャコリャ、コリャコリャ、コリャ コリャ、コリャコリャ、コリャコリャ、コリャコリャ…… 豊年じゃ、豊年じゃ、百で米が三升じゃ。豊年じゃ、豊年じゃ、百で米が三升じゃ♪
さぁ呑みよった食いよった、ほたえよった暴れよった。なかで激しぃやつはフンドシ一貫なって町内走り回っとぉる。ええ、もぉ床の間の大黒さん、あんまり行儀悪いのんで嫌と思いなはったか、ス~ッとお立ちになって今まさに表へ出んとなさる。番頭さんが出て来て。
▲もし大黒さん。お嫌でもございましょうが、あぁたにお越しをいただきましたので、あんまり嬉しゅぅてみんなもぉ羽目を外しております。お嫌でもございましょうが、もうちょっとお座をお置き願いたい。
(黄金の大黒)いやいや番頭さん、そぉやないねん。今聞ぃてると皆さま方が「豊年じゃ、豊年じゃ、百で米が三升」とおっしゃる。あんまり安ぅならんうちに、踏まえてる二俵を売りに行くのじゃ。