赤色灯
祖父の膝に最後に座ったときの感触を私は覚えている。
外出するときはきちんとした格好をしていた祖父、やはりきちんとした格好で東京の我が家に来たときの祖父の、ズボンのざらざらした感触。
亡くなって20年近くたつが、祖父は妙にノスタルジックなかたちで、私のなかに記憶を残してくれている。
深夜のまっ暗闇の中、時計の秒針の音だけが聴こえている状態に、なぜだかわからない懐かしい気持ちがあったのだが、
そういう状態でいま、オレンジ色のレトロな感じの光に調光できるブックライトをつけた途端、このデジャヴが、鳥取にあった祖父母の家の二階で、祖父と一緒に寝るときの情景だと気付いた。
ほんとの田舎のほんとの静寂のなかの、秒針の音と、寝る前に少しのあいだつけていた、オレンジの光のブックライト。
その光をつけてるあいだ、祖父と話をしていたのだろうか。
覚えてないけれど。
祖父の書斎のにおいが大好きだった。
祖父の車に乗ると、ハンドブレーキのとこの物入れから取り出してくれるカラフルな飴。
貧しい境遇から努力してきた人なだけにちょっと自慢好きで、まめで、努力家で、私とは似ても似つかない性格だったように思うが、私は祖父にとても魅力を感じていたと思う。
なにがそうさせるのか分かるような年齢に私がなる前に亡くなってしまったのだけど。
身近な人の死をはじめて経験したのも祖父の死だった。