「エデンの園」の語源
ご存じの通り「エデンの園」とは、『旧約聖書』「創世記」に見られる楽園である。神によってつくられた最初の人間、アダムとイヴは当初、この楽園に住んでいた。この場所でふたりは、老いることもなければ死ぬこともない平和な生活を謳歌していた。
失楽園に至るまでの経緯は、あまりにも有名であるので割愛するが、この「エデンの園」が、実際の地理の中でどこに当てはまるのか、という問題が、長らく議論されている。
現状、多く流布している説は、チグリス川とユーフラテス川の源流、ザクロス山脈付近を「エデンの園」とするものである。
「創世記」の記述を辿れば、「エデンの園」は四つの河川の水源であったという。ザクロス山脈からは現在、三本の大河が流れ出ているが、過去にはもう一本、河川が存在した可能性が指摘されている。
また、チグリス・ユーフラテス川流域は、メソポタミア文明が栄えた地域である。『旧約聖書』にアッシリアやバビロニアについての記述がみられることも、この地域を「エデンの園」のモデルとすることの後押しになっている。
そのほかに、現在のペルシャ湾のあたりを支持する説も存在する。氷期であった12000年前ごろまでは現在よりも海水面が低かったため、「エデンの園」のモデルとなった地域は既に、ペルシャ湾の底に沈んでいるのではないか、とされているのである。
メソポタミアからアナトリア高原に至る近辺は、「ノアの箱舟」が流れ着いたアララト山など、『旧約聖書』に記された土地が数多く存在する地域である。何にせよこの付近が、ヤハヴェの神話が育まれた、重要な土地であることは間違いない。
さて。「エデンの園」――英訳では The Garden of Eden――の語源も、場所と同様に諸説ある。
「エデン“Eden”」はヘブライ語では、「喜び」を意味する。では、ヘブライ語の“Eden”の語源になったのは何だろう。
定説とまでは言えないが、ひとつ考えられているのは、シュメール語の“edinu”である。この語は、「土地」「平坦な」「低地」などを意味する。英語の“field”に近い語彙である。
シュメール語の“edinu”には、“Eden”のような「喜び」「楽園」のイメージは付与されていない。しかし、『旧約聖書』の歴史的背景を考えれば、シュメールの語彙が語源になったという説は、それなりに自然な考えであるように思うが、どうだろうか。
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