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持病の肋間神経痛

 幸運なことに私は、類まれなる頑健な肉体を持ってこの世に生を受けた。持久力と馬力に優れ、消化器官が強く、過酷な環境にも耐える身体は、幾度私の無茶を支えてくれたか知れない。

 しかし、私の体にもいくつかの欠点がある。
 そのひとつが、持病の肋間神経痛である。


 肋間神経痛とは、病名ではない。肋骨に沿った神経が痛むという、症状をあらわした名称である。
 私の場合、左胸の痛みという形で症状が出る。耐え難い痛みではないものの、呼吸時に肋骨が動くのに合わせて痛みも強まるので、一度痛み始めると面倒である。
 どうやら血流が滞ると、痛みも起きやすいらしく、体が冷えやすい秋から春先にかけては、不意の疼痛と共存せねばならない。

 記憶に間違いがなければ、症状が出始めたのは高校生くらいのころであったと思う。激しい症状ではない上に頻度も少なく、すぐに治まってしまうので、そのうち慣れっこになってしまい、病院にも行かずじまいであった(けして褒められた態度ではないので、真似しないように)。

 大学生になった年の冬に、今までよりも寒い土地に移り住んだせいか、症状が頻発するようになった。それでも能天気な私は、「何か痛いなぁ。困っちまうぜ」などとのたまっていたのだが、友人にぽろりと話した際に、病院に行けときっちりお説教を喰らった。返す言葉もなかった。


 とうとう観念した私は、休みの日に駅前の内科を訪れた。医師に症状を告げると、心電図を取ることになった。
 看護師さんの指示通り、胸にあれこれと吸盤をつけ、横になって心電図の波形を見る。やがて、ガガガッと私の心電図が印刷された。
 看護師さんがしげしげと、波形を見分している。

「どうですか?」
 おそるおそる尋ねる私に、看護師さんの素敵な笑顔が注がれた。
「とてもきれいな心電図ですね! 問題ないですよ!」

 その後、お医者さんからも改めて、心臓などの機能には何ら問題がないこと、痛みは特に処置が必要ないことを説明された。身体に悪いところがあるわけではないが、痛みだけが出る、というのは、ままあることらしい。

 健康体の太鼓判を押された私は、現在に至るまで、冬になると痛む胸を宥めすかしながら生活している。別件で行った血液検査などでも異常はなく、私の肉体に悪いところがないのは、これでもかと証明されている。

 まあ、私の心電図を看護師さんに褒めてもらえたのだから、良しとしよう。

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