列車の夢
冬至の少し前のころであったと思う。
一度寝入ったら滅多なことでは起きないのだが、その日は何故だか、夢うつつに目が覚めた。足元の窓からうかがい見るに、外はまだ暗い。枕元の時計は、午前五時を示していた。
その日は取り立てて予定もなく、もう一、二時間眠っていても、何ら問題はなかった。そのまま、眠りと目ざめの間を行き来していたが、妙な胸騒ぎがして、しきりに寝返りを打っていた。
とはいえ知らぬうちに微睡は訪れる。短い隔絶の後、またも意識が浮上した。最初に目が覚めてから、どれほど時間が経ったのか、よくわからない。
しかし、寝床の左側、足元の窓が仄かに光っており、先ほどよりも部屋は明るかった。夜明けが近づいているのだろう。
そこまで考えてから、はた、と体が動かないことに気付いた。所謂金縛りである。瞼と眼球以外、ほとんど何も動かせない。
疲れが溜まっているのだろう。このまま眠ってしまおうと、力を抜いて目を瞑った。
その時である。
ビル風のような低い轟が、寝床の左側を通り抜けた。それは私の部屋の扉から窓までを、貫くように吹き抜けた。
私の体の左半分も、駆け抜ける暴風にさらされているようだった。体の中を、頭からつま先まで、「それ」が通り抜けていった。
私は目を瞑り、布団の中で息を潜めながら、「それ」が過ぎ去るのをただ待った。目を閉じているのに、「それ」が青白い列車の形をとっていることを、何故か私は知っていた。そして、「それ」に起きていることを悟られてはならないことも、かといって意識を失えば持っていかれるだろうことも、知っていた。
五分も十分も経ったような気がしたが、実際には数十秒の出来事だったろう。ふ、と音が止んで、列車は走り去った。
いつの間にか金縛りもなくなっていて、私は風に晒された左半身をさすりながら、またも眠りの底へと落ちていった。
という怪奇短編のような夢を見た。
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