M&A交渉先の女子社員 (最終FRモデルBMW118dの見事なパーケージ)

俺は今、ティファニーの文字が入るロレックスエクスプローラ2を腕に、BMW 118dを軽快に走らせている。隣にはタイプの女の子を乗せて。

数十億円のM&A協議。先方のオフィスで会議室へ案内しお茶を出してくれた女性が今回のレディーだ。クロージングの目標期日も迫り、難しい折衝が続く中、交渉相手の面々が憎たらしく見えてくる頃合いでもあった。

こんな素敵な女の子との邂逅があるとは、捨てたものではない。小柄で、ショートボブヘアから、えも言われぬ、まるで”仲良くしてね”とでもうったえかけてくる様な愛想のある笑顔が俺の琴線に深く触れた。彼女と是非ともランデブーをしたい。

来客案内しただけの彼女とは名刺交換など行われずはずもなく、名前も知る由も無い。しかし、アポ入れした部署から出迎えてくれていた事から、何度か訪問すれば再会の可能性はあると俺は踏んだ。機密書類の持参などと適当に理由を付けて、後日に再訪したら、狙い通りに受付に彼女が現れたのだ。

その場で食事を打診すると、連絡先を快く教えてくれた。早速、直近の週末、そのオフィスからほど近いスウェーデン大使館での催しへの招待状があったので、そこへデートすることになった。
さて、当日、スウェーデン大使館での催しを回る間の会話で、タフな交渉相手リーダーの男が話題に上がった。長身で顔だちも容姿も恰好良い男である。彼女もその男には一目置いているらしい。 気があるのか確かめるため彼女の手を取ってみると、握り返してきた。これは中々面白い構図である。 

大抵のデートは車で迎えに行き、最初からドライブに出るのだが、様子見もかねた大使館を早々に後にして、彼女と軽くドライブに出た。

今回駆り出す車は、BMW 118dのMスポーツモデルだ。当時、コンパクト5ドアを探す中で、FRは唯一1シリーズだけで、また足車として利便性からディーゼルを選んだ。取り回しの良さと期待以上の走行性能から走りの楽しさも兼ねた秀逸なパーケージカーであり、大正解の車選びであった。
縦置きエンジンFRのハッチバックゆえに、鼻先が長く尻切れトンボなスタイルも特徴的だ。前後車重バランスの良さとMスポーツ仕様の少し引き締まった足回りが手伝ってか、FRの抜群な切れのあるハンドリングを見せる。
車のサイズに対して32.6kgmのトルク値は十二分に豊かで、アクセルへの踏力と同時に文字通りグッと押し出される低中速度域の加速感が実に心地よく、抜群に使い勝手がよい。200キロ付近の高速走行でのレーンチェンジでも安定性は高く、ノーマルブレーキでもその制動力には不安を感じえない。BMWエントリーモデルの1シリーズながら感嘆せざるを得ない。

次に、時計のコーディネイトだ。スポーツロレックスのコレクションから、エクスプローラ2の3世代目となるレファレンス16570を誂えて見た。
近年、評価が急速に高まっている白文字盤のトリチウム夜光、シングルバックル仕様だ。だが、特筆すべきは、俺のは希少なティファニーのダブルネームだ。彼女の可愛いらしさにティファニーブランドをなぞらえたのと、エクスプローラ2の実用性の高さがBMW118dと相入れると思えたからだ。
ロレックスではかつて、他ブランドとのWネームの時計を扱っていた。両ブランド名が文字盤に刻印されることから英語ではdouble signed とも言う。中にはポップなドミノピザのロゴを冠したコラボレーションもある。中でも名高いものとしてROLEX/TiffanyのWネームは1990年代中頃まで展開されていた。1950年代、まだブランドの知名度が薄かったロレックスが巨大市場アメリカへのマーケティング戦略としてニューヨークの高級ブランドのティファニーと組み、購買客の希望でTiffanyのロゴ入れをしたのが始まりらしい。
因みに高級ブランド時計の筆頭に挙げられるパテック・フィリップが手掛ける唯一のダブルネームがティファニーであることも付言しておく。

ティファニーのダブルネームには高額プレミアムが付くことから二次市場には偽物も出回っており、真贋を見極めるのはなかなか難しい。「本物」も偽物扱いされてしまうこともあるほどだ。というのも「Tiffany&Co」の書体パターンも複数ある上に、ロレックス自身ではなく、ティファニーが文字盤にプリントしているらしく、少し滲むような印字書体であり、むしろ濃く明瞭な書体のほうが「ニセモノ」と噂されるのだ。

彼女は可愛らしい顔つきからは想像つかないが、トレイルランを趣味にしており、休みは山を駆け巡っているらしい。 まさにエクスプローラーWネームに合うではないか。

このままホテル行きもOKであろうと確信をもって誘った。
その日、彼女とのランデブーは思いもよらず、「もっと頑張って」と彼女からけし掛けてきたのだ。トレイルランをしているだけありタフであった。

後日、M&A協議は無事、想定内の範囲で結実した。と、ともに彼女とも連絡をしなくなった。 
彼女にはティファニーという愛称を付けて記憶にはとどめておこう。

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