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船上のDJイベントに現れたレディ(疾走するライオン、プジョーRCZ)

俺は今、プジョーRCZ Rのマニュアルシフトをかき回して常時レッドゾーン領域でマシンを唸らせ疾走している。まだ早めの夜の首都高。腕のパテックアクアノートが20時半を指す。隣には今宵もまた新たなレディを乗せて。

プジョーで唯一のアルファベットの車種名のRCZ。このメーカーの通常のファミリーカータイプのラインナップからはおおよそ想像できない、コンセプトカーのようなデザインそのままに市場に放たれたスタリングに魅せられて、衝動的に買い求めた車だ。
実は、ハイスペック限定車の「R」は通常のRCZからの乗り継ぎだ。

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ノーマルのRCZではエンジンパワーの不足感があったが、「R」の1.6リッターのターボは270馬力でトルクは33.7kmgでありスポーツドライブを味わうには充分な域に達した。
だが、相変わらず6MTのシフトタッチとクラッチは拍子抜けしてしまう軽さで、もう少し重くても良いかと俺は思う。

特筆すべきはやはり足回りである。まずRCZは、ちょうど車軸の中心で旋回する感覚が実に心地よい。高速での直視安定性もあり、猫足と表現される、コーナーリングでの何とも言えない粘りを見せ、路面からの突き上げをいなして乗り心地の良さを両立する足まわりは素晴らしい。
Rでは、ハンドリングのクイックさ増したように思える。特にRでは不思議ながら、FFなのにアンダー色は薄く、コーナーではアクセル踏力のまま進んでくれて、むしろアクセルオフにする方が後輪の追従が劣るので攻めて楽しいセッティングには非常に感心させられる。

そんな実にスポーティーマインドに溢れたマシンRCZ Rの相棒としての時計には、パテック フィリップのアクアノート5167Aをチョイスした。
丸みを帯びた8角形のケースが特徴的であり、ポーティーで品格も不思議と伴う洗練された姿が、RCZのデザインとも似合うではないか。

また、トロピカルバンドと呼ばれるストラップがスポーティーかつ先進的な印象を与える。これは、ロケットや人工心臓弁まで、繊細なコントロールと強度を要する製品に採用されるハイテク・コンポジット素材らしい。
ちなみに機種名の5167とAの間にスラッシュが入り5167/Aとなると、ブレスレットタイプとなる。

今夜のレディとはお台場の船上DJイベントで知り合った。その頃、DJスクールに通っていた知人からの誘いで、DJに特段に興味があった訳でもないが、いつもの出会いの予感をもって行った先だった。

クラブDJというのは興味深いもので、巨大フェスティバルへの出演を主体に、ミュージシャン的に大物アーティストとの編曲プロデュースなど活躍の場もあり、欧米の著名DJだと年収数十億円をも稼ぎ出す。そうしたスターとしてのDJを目指しているのだろうか、複数のDJが個性を競うように楽曲を演出していた。

その薄暗い狭い船内の限られたテーブルで相席となった、DJ見習い中だという青い目のイケメン男と外資系企業に務めていそうなシャープな美人顔の日本人女性の二人組と世間話をほんの少しばかし交わした。今後のDJイベントの告知も受けるため、二人と連絡先を交換した。

後日、その彼女から俺に突如メールが来た。

「イベントの日、あの彼がさ、私があなたと話をしていたのが気に入らなかったみたいで、帰りずっと、その彼が不機嫌で。私、面倒くさいから気づかない振りしてバイバイしたら、メールで「あれは、僕に対する侮辱だ」って。私は、デートだと思ってもなかったし、彼氏彼女でものないのに、ジェラシーって。嫌になってそのままサヨナラ。連絡を絶ち切ったのよ。」

これは、遠回しにデートに誘ってほしいと言う事だろ。俺も彼氏彼女のつもりではないが、求められれば応対はする。夜の首都高ドライブに誘った。
その流れで、今、RCZ-Rにはそのスリムなボディの美女が乗っている。
船上DJイベントでの雰囲気から彼女が外資勤めのレディだと勝手に思い込んでいたが、実際は看護師だと言う。

ポルシェ964カレラ2と997GT3の走り仲間と合流して、首都高を攻め立てる。彼らのポルシェの走りについていけるRCZは大したものだ。RCZには室内へエンジン音を割り増しにして取り込む装置があり、DJがエフェクトをかけるかのようにスポーティーな走りの臨場感を演出する。
1.6リッターのプジョーだが、スポーツカーを駆っている高揚感を覚える。
俺の走りにカーステレオは不要だ。俺自身がDJとなりRCZを奏でる。

夜の首都高ドライブから彼女の家の近くだという池袋に降り立った。
明日、休みだし、いいわよ。
アクアノートは潜水探索家と言う意味があるが、船上で出会った彼女のベッドルームに潜る頃、俺のアクアノートは24時を指していた。

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