991の歴史を辿る -996 vol.1 前期型①-
911の歴史を振り返る、このシリーズ。
初回の本日は、996を取り上げたい。
なぜ、初回に996を取り上げたか。
背景には、個人的な思いがある。
996を語ることは、911の歴史を語る上で、避けては通れないと考えている。周知の事実であるが、911はこの996というモデルをもって、歴史上最も大きな変革を遂げる。
そう、エンジンの水冷化である。
何かと批判の対象となりがちなモデルであるが、時代の変革の波を一手に担い、自らを悪役に貶めることで、輝かしい911の未来を救った立役者であったことに、思いを馳せる時間があっても良いのではないだろうか。
996の歴史を、紐解いてみることとしよう。
996前期型の誕生
996は、356から始まる911 Carreraの5代目のモデルとなる。
四代目である993は、ご存知の通り空冷エンジンを搭載したモデルであった。
空冷エンジンの特徴として、構造がシンプルなこと、冷却水がないのでメンテナンスが楽、重量が軽い、など、メーカー側にとって有利な点が複数あった。後方にエンジンを冷やすためのファンが付いており、エンジンフードを開けて回転するファンを見ると、エンジンの調子がわかる、なんて言ったものである。
しかし、環境問題が空冷エンジンの存続を許さなかった。
空冷エンジンの問題は、エンジン全体を均等に冷やせないことにある。エンジンの冷却が不十分だと、当然だが燃費効率が悪くなる。こと現在においても、水冷エンジンの冷やし方を巡って各メーカーが躍起になっているのが現実である。
また、騒音の観点からも空冷エンジンは部が悪かった。現在では独特なサウンドとして楽しまれているが、エンジンの周囲をパイプで覆われている方が、遮蔽性が高いのも頷ける。
時代が、空冷エンジンを終焉へと追いやったのである。避けられぬ流れであったのだろう、と思う。
して時は、90年代。最大のマーケットであった米国での911の不信が経営難を呼び、ポルシェ社は存続の危機へと陥る。
そこで、経営の舵を取ったのが、ヴェンデリン・ヴィーデキング氏。経営難のポルシェを立て直した張本人である。
まず彼は、1992年に39歳の若さでCEOに就任すると同時に、コスト削減に取り掛かった。トヨタ社を引退した生産担当幹部を5人招聘し、一つの組立ラインで複数のモデルを同時に生産してコストを抑える、いわゆるトヨタ生産方式 (TPS)、および「カイゼン」を取り入れることによって、ポルシェ社はすぐに黒字転換を果たす。
1996年には、911の廉価版であるボクスターを導入し、これがヒット。この流れを受け、間髪入れず、翌1997年には、911初の水冷エンジンを搭載した996前期型を発売。
996前期型はコスト低減の流れを受け、ボクスターから涙目型ヘッドランプ、フロントフェンダー、フロントフード、バンパーのデザインの一部と、多くの共通部分を引き付いだモデルであった。
以上の経緯を経て、996は生を受けた。黒字転換を達成したヴィーデキング体制のポルシェ社の怒涛の勢いは留まることを知らず、2002年にはSUVブームの先駆けとなるカイエンを発表し、全世界の懐疑的なクルマ論者の度肝を抜かすこととなる。
繰り返すが、996は何かと批判を浴びる的であった。当時、明らかな廉価版であった(現在は、ボクスターは911の廉価版、という位置付けではあるまい)ボクスターとの共有パーツが多いこと、また丸目・空冷エンジンからの決別へのオマージュであろうか、ポルシェの意匠の賜物であった新型ヘッドランプは涙目と揶揄され、後に後期型にはシャープさを、997では丸目を取り戻すこととなる。
しかし、ご覧頂いたように、996なしにして911は語れない。
否、存在し得ない。
996は、現在200万円代から比較的良好な個体を探すことが可能である。しかし、それは996の真の価値を表しているか?
私は、そうは思わない。
昨今の空冷911の高騰は、イコールそれが価格に応じた優れたモデルであるということを意味しているわけではない。私は、そう信じたい。
996は、然るべくしてその価値を蔑まれ、時代に取り残されたモデルなのかも知れない。
しかし、その真の価値をこの目で確かめるのは、紛れも無い我々である。
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(画像引用元)
https://www.autoexpress.co.uk/89813/2002-porsche-996-carrera-targa-pictures
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