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718、その本質に迫る

718と聞いて、貴方は何を思い浮かべるだろうか。

現行のボクスター・ケイマンだろう?
確かにその通り、正解である。

しかし、ポルシェが718に賭ける思いは、それだけに止まらないように感じる。

ボクスター・ケイマンは、ポルシェの『優等生』

ボクスター・ケイマンはポルシェ市販モデルの中で唯一ミッドシップ・レイアウトを担うモデルであり、カブリオレがボクスター、クーペがケイマンである。

ポルシェ初の市販ミッドシップ・カーは、1969年にまで遡る。
モデル名は『914』(写真は以下)。タルガトップにVW製の4気筒エンジンを搭載した『914/4』、ポルシェ製の6気筒エンジンを搭載した『914/6』が市販され、これらはMRレイアウトであるという点で、ボクスター・ケイマンの祖に当たる。

911がスポーツカーらしからぬRRレイアウトを維持し続けてきた、いわゆる「出来のすこぶる良い異端児」であるのに対し、ボクスター・ケイマンは「正統派の優等生」に当たる。どちらがグッと突き刺さるのかは、あなた次第であろう。

718のモデルリリースは2016年から

話を戻す。
ポルシェは、2015年12月に当時の次期ボクスター・ケイマンに『718』のコードネームを付け、2016年より順次モデルリリースを行うと発表した。
前世代モデルの981型が誕生したのは2012年、それから4年後のこと。通常6年ペースでのフルモデルチェンジに比べると、比較的短期での新型の登場であった。

718のネーミングは、1950年代終盤から1960年代前半に活躍した、水平対向4気筒エンジン(フラット・フォー)を搭載したレーシング・カー『ポルシェ718』に由来する(写真は下記)。面影は、どことなく有るようで、無いようで…

981型から982型718(以下718)への外見上の変化は、実は大幅に刷新されているものの、基本骨格やルーフラインに変化なく、パッと見ではあまり主張するものではない。
外見上の最も大きな変化は、リアスポイラー下部に位置した黒色帯のロゴ入りストリップであろう。718を除く現行の全てのモデルではテールライトストリップが一文字を呈しており、718ではテールライトこそ左右でセパレートされているものの、このストリップが近しい存在感を示す。

718への最も大きな進化は、エンジンにある。

ご存知の通り、水平対向6気筒から4気筒へのダウン・サイズである。2気筒のダウンにより、従来の2.7L/3.4Lの排気量は2L/2.5Lに縮小された。加えてターボエンジンが搭載され、出力自体は300ps/350psへと引き上げられた。このエンジンを、ポルシェ・ジャパンは『ライト(Right)サイジング・ターボ』と呼ぶ。正しさの中に、正しさを見出す。ポルシェらしいと言えばポルシェらしい。

従来、ボクスターに比べてケイマンは、同じ『フラット・シックス』を搭載しながらも、僅かに出力が高められてきた。
例えば、981ボクスターは265ps、ボクスターSは315psを発揮するのに対し、981ケイマンは278ps、ケイマンSは329psを発揮する。
このため、ケイマンはボクスターの上位モデルである、という認識が浸透してきたのは否めないであろう。MRレイアウトであるという点ではボクスターとケイマンは比較対象であり、クーペでやや高出力あるという点では、ケイマンと比較すべきは911なのかも知れない。

しかし、これらの曖昧なモデル間での『ねじれ』は、718になり払拭された。搭載するエンジンは718ボクスター・ケイマン共に『フラット・フォー・ターボ』であり、出力は共にベースモデルで300ps、Sモデルで350psと統一された。また、価格こそボクスターのほうが僅かに高価であるが(税込でボクスター¥7,180,000、ケイマン¥6,800,000)、その性格の違いは、「カブリオレか、クーペか」という点に集約された。
ユーザー側の正直な意見としては、純粋な気持ちでモデル選択が出来るようになった、と言えるのではないだろうか。ボクスターかケイマンか、ではなく、カブリオレかクーペか、である。
選択の容易性はモデル間での迷いを取り去り、自らの718へのイメージをより具現化していく。カブリオレならソフトトップと内装色を思い切って少し派手にしてみよう。クーペなら電子制御にこだわってみようか、PDCCやPTV plusなんてつけてみたり。PASMはどちらでも必須だナ…なんて。考えるだけでもワクワクしないだろうか。

718への進化から読み取る、ボクスター・ケイマンの今後

718への進化は、ポルシェのユーザーへの真摯な意思表示であると考える。

選びたいものを選べば良い。そこに恣意や横槍はひとつもない。
718GT4は、ケイマンの衣を脱ぎ去った。718スパイダーは、ボクスターの色を取り去った。至って簡単だ、我々は好きに選べば良いのである。

SUV市場の拡大に連れ、スポーツカーの販売台数がSUVのそれに抜かれて久しい。911以下、もちろん911も例に漏れず、今後の在り方が問われている。
ポルシェにとって911はシンボルであり、真髄である。RRレイアウトを崩すことは許されず、逆に今まで頑なにこのスタイルを続けてきた先に、ポルシェはポルシェにしか見えないものを見ているのであろう。
911を考えることは、ボクスター・ケイマンを考えることと同義である。911は、ボクスター・ケイマンが今後進むべき道を照らす。ポルシェはそこに、よりシンプルな、我々に寄り添う718の在るべき姿を見たのであろう。

911が我々に寄り添うように、718もまた、我々に寄り添う。
私は、ポルシェが我々に、また我々の日常に、今までもこれからも、共に在り続ける存在であることを確信し、ひとしきり安堵を覚えている。

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