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嗚呼、スペックよ何処へ行く 60年の時を超えて

本日は雑感を。

スペックは、日々進化する

ポルシェに限らず、各自動車メーカーは厳しい環境基準に晒されながらも、自社車両のスペックを日々向上させている。

ひと世代前のクルマを、振り返ってみよう。

こと911に関して言うと、今から10年前 (2009年) は997後期が現役
当時は、NAと言えばNA、ターボと言えばターボの時代。こんなこと言うと、当時の人にはキョトンとされるかも知れない。今やベースグレードからターボを搭載する時代である。
997後期のベースグレード、いわゆる「素のカレラ」の搭載する3.6L フラット・シックスは345ps/6,500rpmを発揮。997といえば、後期よりツイン・クラッチであるPDKが搭載され、0-100km/hの到達時間はPDKがMTを0.2秒 (4.5秒vs4.7秒) 凌いでいる。ポルシェ・ドップルなんたらなんて聞き慣れないポッと出のキカイが、登場と同時に人々を負かせたワケである。
人は、汝が生み出したものに次々と抜かれていく。摂理であろう。

それから10年が経過し、時は2019年。
主役は992へとバトンタッチされた。997後期からカウントすれば、マイナーチェンジを含めて3度目の進化である。
992の「素のカレラ」は、お得意のフラット・シックスこそそのまま、排気量は3Lに縮小され直噴ツインターボの搭載により385ps/6,500rpmを発揮する。0-100km/hは4.2秒でこなし、これは997後期でいうとカレラSのスペックと同等。
およそ10年(1.5世代)をかけて、ひとつ上のモデルに追い付いたこととなる。

シリンダー数は変えず、排気量を落とし、ターボを積み、車重を落として…
メーカーは日々,地道な努力を重ねている。

一方で、我々は『スペックは進歩して当然』と考えている節はないだろうか?

ポルシェDNAのひとつ『エンジン・サウンド』

少し話が逸れるが、ポルシェは、音作りに社運を賭している。
ポルシェDNAのひとつ、と呼んでも良いのではなかろうか。


この御仁,いわずもがな、ポルシェと25年以上、アンバサダー・開発者としての契約を続けてきた、伝説のラリー・ドライバー、ヴァルター・ロール氏である。
ロール氏は初めて購入した車が、中古の356であるとのこと。以後ポルシェとの関わりを絶やさずに今に至る。

氏の偉大さに関しては、別の機会に振り返ることとするとして、ここでは以下の記事を見て頂きたい。ポルシェ公式HPに記載されている、コラムである。

かつて、この世界王者は、大指揮者であったフェルベルト・フォン・カラヤン氏にドライビングにおける美しいライントレース方法を伝授し、その御礼として世界屈指の素晴らしいコンサートに招待され、最高の音楽を堪能した経験を持つ。彼がマシーンの音にうるさいのも納得だ。
最高の音楽を生で体験したことのあるワルター・ロールは、良い音がいかにして奏でられるかという原理をきちんと体で理解している。
〜中略〜
彼にとって重要なのは、自らの故郷であるバイエルン州の森を駆け抜ける際、エンジン音がいかにして大自然とのハーモニーを奏でるか、であるという。
-エンジン協奏曲 Porsche.comより-

ポルシェは、『世界最高のアンバサダー』を持ってして、『世界最高の音作りの評論家』に据え置いている
ポルシェがいかに『音作り』に尽力しているかを、垣間見ることができる。

エンジン・サウンド、それは過去と未来を繋ぐモノ

エンジン・サウンド、この抽象的で主観的なモノは、往年のポルシェ愛好家たちの心を鷲掴みにしてきた。
一般に、シリンダー数に応じてエンジン・サウンドは甲高くなり、官能性を増す。しかし、ポルシェのエンジンは、フラット・フォーを基本とする時代から、素晴らしいサウンドを奏でてきた。

見るからに古そうなクルマ。
356?いや違う、550スパイダーである。

1954年にローンチした550スパイダーは、絶妙に甲高く、円やかで心に響くサウンドを奏でる。
同年、同車は、ミッレ・ミリア初登場で6位入賞、ル・マンで4位入賞(クラス優勝)を飾り、華々しくデビューを飾る。空冷1.5L 4気筒エンジンと小排気量ながら、110ps/6,200rpmを発揮し、0-100kg/hrを10秒以内でこなす、当時としては画期的なパフォーマンスであったという。ご存知の方もおられるかと思われるが、このモデルは米国俳優のジェームス・ディーンが購入し、奇しくも運転中に24歳の若さで命を落とす原因となったことでも知られている。
ポルシェ公式動画でそのサウンドが公開されているため、他のモデルと比較して、お気に入りの一台を探して見てはいかがだろうか。


スペック向上は『止められない使命』、我々はどう受け止めるか

スペックは、日進月歩で進化する。メーカーは、その歩みをひと時も止めるわけにはいかない。
成長は課せられた使命である。
一方で、昨今のスペック至上主義は、少なからず危険性や弊害を生んでいる。機械は進化しすぎたことにより、人間の技術を軽やかに上回る。それが一定差に至った時、ヒトは機械を安全確実に操ることが出来なくなる。
いずれどこかでストップがかかるであろう、しかし、それがいつかは誰にもわからない。ましてや、この流れを誰も止めることなど出来やしない。

では、変わらないものとは一体何なのか?
そのひとつは、過去である。

550スパイダーのエンジン・サウンドは,実に60年の時を超えて私と出会い,心を打ったわけである。実に感慨深くはなかろうか。
同じように、ナローを見て心昂ぶる御仁もおられることであろう。

古き良き、の問題ではない。今も昔も、心に響く良いものは良い。

『最新のポルシェは、最良のポルシェ』、たしかにその通りだと思う。
しかし,最良のポルシェは、最新のポルシェだけではあるまい。

熾烈な生存競争の渦中に身を置く自動車メーカーが「未来」を見ざるを得ないからこそ、
我々は逆に、「過去」を温かく見守り続ける存在であっても良いと思う。

飛びっきりお気に入りの一台を見つけ、心の底から愛でてあげれば良い。

今日は、そんなお話。

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