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ポルシェ電動化への道程 vol.1

911のハイブリッド化が噂されて久しい。
噂の域を出ないが、そう遠くない未来に実現されるのは間違いないであろう。
ポルシェは、2025年には製造販売車の5割以上の電動化を発表している。911もその例外ではあるまい。

電動化の過程において、911に手を付けるのが最後になろうことは想像に難くない。その前に、ポルシェにはやるべきことが山ほど控えているからである。

世界初のハイブリッド車はポルシェ製

この御仁、そうポルシェの創業者、ポルシェ博士ことフェルディナント・ポルシェ氏(1875-1951)。氏の天才的な逸話は数知れず残されており、そのひとつが電気自動車への先見の明である。

氏は1893年から1898年まで、オーストリアはウィーンにある電気機器製造会社、ベラ・エッガー社で見習いとして勤務した後、1898年にヤーコプ・ローナー社に主任設計士として就職。そこで開発したのが、かの有名な『ローナー・ポルシェ』である。


ローナー社において氏が製造したモデルを総じてローナー・ポルシェと呼ぶため、それには複数の電気自動車やハイブリッド車が該当する。ここでは初期に開発されたバッテリ式電気自動車について取り上げたい。
1898年に発表されたこのローナー・ポルシェは、前輪操舵の2輪駆動方式。ここで氏の凄さが語り継がれるのは、その斬新な発想である。

ローナー社は元来、宮廷馬車を製造する会社であり、1896年より自動車の製造にも携わっていた。当時のエンジンは騒音が大きく、静粛性を求めたローナー社は電気自動車の製造に取り掛かった。
氏がローナーポルシェに組み込んだのは、インホイール・モーターと呼ばれる、ホイールひとつに対してモーターがひとつ組み込まれており、ハンドル操舵が可能な前輪の二輪を直接駆動させるシステム。いわゆる、トランスミッションを要しない二輪駆動のダイレクト・ドライブである。一回の充電で50kmの走行が可能であったというのだから、ただひたすら驚くばかり。

ポルシェ博士はその他にも、電気自動車やハイブリッド自動車を試作している。
このローナーポルシェの記事作成において、参考にさせて頂いた論文がある。ポルシェの電気自動車について詳しく書かれており、関心があれば是非一度ご覧頂きたい。

ハイブリッド市場への本格的な参入は2010年から

時は過ぎること100年余り。ポルシェのハイブリッド車の近代史は、2010年のコンセプト・カーで幕を開ける。
その名も918スパイダー・コンセプト

ポルシェは2010年のサロンで、918スパイダー・コンセプトを発表。0-100km/hが3.2秒以内、最高速度320km/hというスペックもさることながら、二酸化炭素消費量70g/km、公表燃費はわずか3Lで100kmを走りきるというのだから驚き。
509ps/9,200rpmを発揮するV8エンジンをミッドシップに据え、加えてフロント軸に2機、リア軸用トランスミッションに1機、合計3機のモーターを配置(220ps)。これに7速PDKが組み合わされたMRレイアウトを踏襲するプラグイン・ハイブリッドである。
ボディ、シャーシの基礎はカレラGTを踏襲しており、販売目標に達しなかったカレラGTのパーツを上手く利用したとのこと。

これに次ぐ形で、918スパイダーは2013年9月より市販化され、2015年までに販売台数918台の全てがラインオフされた。4.6L V8エンジンは612psを発揮し、システム総合出力は887psとなる。

ちなみに918スパイダー・コンセプトの原型となったのは、1971年にル・マン総合優勝を勝ち取った917K(写真は以下)。ポルシェが始めてル・マン総合優勝を果たしたのは1970年、その翌年のことであった。

ポルシェ市販車初のハイブリッドはカイエン

ローナー・ポルシェの開発から約110年の時が経ち、満を持してポルシェがリリースした初めての市販ハイブリッドの白羽の矢は、カイエンに降り立った。

その名も、カイエンSハイブリッド(2011)
V型6気筒エンジンをスーパーチャージャー加給し333ps、さらに47psのシングルモーターを追加し、システム総合出力は380psを発揮。特徴としては、電気モーターを含むハイブリッド・モジュールがエンジンとトランスミッションの間に挟まれ、高速走行時にはトランスミッションが切り離されてモーターのみで走行(EV走行)し(ポルシェはこれをセーリング・モードと呼ぶ)、ブレーキ時や高速走行時に回生エネルギーを得てバッテリーを充電する仕組み
当時の958型前期カイエンは,V型6気筒のベースグレードで300ps、V型8気筒のカイエンSで400psを発揮し、パフォーマンスとしてカイエンSに匹敵することから、『S』の冠が施された。
モーターは発進時にサポートをするのみであり、アクセルを踏み込んでの走行にはエンジンが主たる動力源となる。

その後、2012年には同ユニットが採用されたパナメーラSハイブリッドが登場。搭載されるV型6気筒スーパーチャージャー+シングルモーターは、システム総合出力でカイエンと同じ380psを発揮する。

EVの進化は止まらない

カイエンが市販ハイブリッド第一号車となった理由は、想像に難くない。

カイエンは初期の955より一貫してトルクコンバータを採用し、2009年よりディーゼルエンジンをポルシェ車で初めて採用(後にパナメーラおよびマカンにも採用、共に日本での販売はなし)。共に大きな躯体を駆動するためには、確かに安全かつ効率的なシステムである。
しかし、総販売車の約15%を占めていたディーゼルエンジンは、958型後期カイエンでのディーゼルモデル販売終了のアナウンスと共に,ポルシェのラインナップから姿を消すことが正式発表された。2018年2月のことである。厳格化の一途を辿る欧州のCO2排出規制を前に、2トン前後の大型車を引っ張るエネルギーをエンジンのみに求める時代は終わったのである。

一方で、Electric vehicle(EV)の進化は留まるところを知らない。当初はモーター走行と言っても始動時にサポートを行う程度であったが、現ラインナップでは40-50kmのEV走行も可能である。
EVのパフォーマンスは、その登場以来、年単位で大幅に更新を続けている。

次回以降で、プラグイン・ハイブリッドのラインナップをご紹介することとしよう。その中にはもちろん、先日発表されたばかりの完全電気自動車、"Taycan"も名を連ねている。

※参考論文:森本雅之、稲森真美子『ポルシェ博士の電気自動車』
http://www.ei.u-tokai.ac.jp/morimoto/docs/ポルシェ博士.pdf

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