サラットナさん 第五章
大盛りのジャガイモに玉ねぎ。
人参もお肉も何もかもビックサイズだ。
「ジャガイモは4分の一くらいにカットして、この大鍋を利用して冷蔵庫へ入れてください。玉ねぎは串切り、人参は細かくしてお肉と一緒に炒めてください。こちらの玉ねぎは、アメ色になるまで炒めて。それからそれから・・・」
すでに頭が真っ白になりそうな私。でも大丈夫、すぐそばにサラットナさんがいる。
「お菓子類は、五枚のお盆に上手に分けて、その上に布巾をかけておいてくださいね。」
「お米も計っておいてください。私が後で洗います。以上、よろしくお願いしますね。困ったことがあったら、いつでもお電話ください。」
初めてお会いする宮司様の奥様はとても美しい方だった。お正月には数日前から準備をはじめて、世にも美味しいお雑煮を振る舞ってくださるのだと巫女さんたちが話していたことを思いだした。
嗚呼、そんなお料理上手な方のサポートなんて、恐ろしい。
気がつくと手が震えている。
サラットナさんが私の手をつかみ震えを止める。
「はい、わかりました」としか言えない私。
宮司様の奥様が台所から出て行くと、やっと息ができた。死ぬかと思った。
さぁ、始めるわよとサラットナさん。
虹色の綺麗なエプロンをつけている。ちょっと可愛い。
もうジャガイモの皮をむいている。
あっという間にタワシと水で土の汚れ取り、今まさにジャガイモの薄い皮たちは、まるでワルツを踊るかのようにヒラヒラと舞っている。
貝塚さんカットは出来るでしょ、やってみて。
おそるおそるジャガイモに包丁を入れる。
ゆーっくりで大丈夫よ。私、作業早いからと言うサラットナさんをみると、もう玉ねぎの皮をむき終えていた。シャキ、シャキ、綺麗な串切りがボールに山になっていく。
人参もほぼ同じ大きさにカットされていく。
頭としっぽの太さが違うのに器用なものだ。
それにしても本当に美しい包丁さばきの音。
私は気がついた。美味しいお料理は、きっと素敵な音を奏でている。それならば、他の作業も一流のプロは、常に美しい音を生み出しているんじゃないかしら。
そういえば、もうずっと旦那の料理中、別の部屋にいる私。音も思い出せない。反省した。
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