『小説家になろう』全作品分析レポート ~ファンタジー・文芸・SFジャンル~
今回の分析ではファンタジー・文芸・SFの3ジャンルについて分析を行う。
ファンタジー特有の接続詞の分布が確認された他、物語の方向性を示す言葉である程度の傾向が見られた。
もちろん『このワードが人気だからこれを書こう!』というわけではなく、物語のキャッチコピーとも言える『あらすじ』にどんな雰囲気を出させるのかという形で見ていただけると幸いだ。
これは例えるならば『ニートが異世界に転生して最強になる』話を書いた時、あらすじに『彼がどんなニートであったか』を書く必要があるか? というのに近い。
ここで強調すべきは『転生』や『最強』であろうし、どんな『ニート』であったかは読者の関心が集まる所ではないからだ。
【目次】
・はじめに
・目的
・分析方法
・先行研究について
・ジャンルの割合比較
・あらすじ文字数・頻出単語比較
・『恋愛』ジャンル分析
・『ファンタジー』・『文芸』・『SF』ジャンル分析 ◀今回はココ
・『総合』分析・『あらすじ』文字数分析
・小説内会話率、一話当たりの文字数の比較
・投稿年度から見るトレンド比較
・結論
・参考サイト
今回の目次は以下のようになっている。
・作品数分布
まず分析を行う上で重要な作品数の分布を以下に示す。
なおグループ6を入れると、グループ1から5までの変化がほとんど見られないものとなったため外している。
青で示した『ファンタジー』はやはり全体的に作品数が多く、ポイント範囲の狭いグループ4で作品数の減少がある。
緑で示した『SF』もグループ4での作品数が減少しており、グループ3以降のポイント分布がなだらかになっていると考えられる。
オレンジの『文芸』については3から4でほとんど横ばいであり、実際42作品の増加がある。
【ファンタジージャンルの分析】
・異世界への行き方
『小説家になろう』で人気な異世界モノは特にファンタジーで顕著である。
異世界への行き方はおおまかに分けて以下の3種類あり、それぞれの分布は下図のようになった。
・転生
現世から赤ん坊として生まれ変わるor現地人が前世を思い出す展開が主。
前世での人間関係や立場に縛られにくく、現世での血縁関係等がある。
・転移
ある程度成長した状態で異世界に移動する。
前世の経験などが活かせる他、現地での関係が一から構築出来る。
・召喚(転移の1ジャンルともいえる)
誰か(主に人間)から異世界に呼ばれ転移する。
召喚主からの要望がある場合が多く、集団召喚などで元の世界の関係を活かしやすい。
青が転生、オレンジが召喚、緑が転移である。
グループ6でも転生は10%以上、転移や召喚は5%以上存在しており、異世界転生・転移の人気が伺える。
グループ5から先を見ても全体的に平坦であり、飽和状態にあるため重要度はかなり低い。異世界転移だから(転生だから)面白そうで読む、ということはほとんど無いだろう。
召喚は転移の一部とも考えられるが、召喚の方が全体的に人気があり、転移が減るグループ3でもほとんどその割合を変化させていない。
召喚は異世界転移と比べて、召喚者の庇護が受けられるという点で諸々の展開(市民権だったり言語問題、常識についてなど……)が楽になるのではないかと考えられる。
召喚主に従わない場合も、『悪役』という存在を書きやすいという利点があり、展開として単純な転移よりも書きやすいのではないかと考えられる。
転生は転移や召喚と比べ、現世(異世界)での人間関係を構築しやすく、また常識や言語などについての展開も自然に書くことが出来る。
転移や召喚と比べてある程度『一般人』として物語をスタートできるので、突然転移あるいは召喚されて活躍していく、というよりも物語をゆったりと進めることが出来るのも利点と考えられる。
前述した通りこれらのワードは重要度が低く、オリジナリティを出すことが重要だと考えられる。
・仲間! 成長!
少年漫画的とも称されるような、成長要素、仲間要素は下図のような割合となった。
青が仲間、オレンジが成長である。
仲間、成長ともにグループ5→3の増加があり、ある程度需要があるワードではないかと考えられる。
しかし増加量が少ないために重要度はそこまで高いと言えないだろう。
特に『仲間』に関する言及はグループ6でも5%以上と、飽和気味にあると言える。『仲間』の存在は当たり前の要素のような形で扱われているのだろう。
・旅、決意
異世界などに転移した(あるいは何かのキッカケがあった)上で、『決意』によって行動していくか『旅』という形である程度自由な行動をするのかを上図に示した。
オレンジが旅、青が決意である。
『旅』の要素についてはグループ5→4での減少などもあり、全体的にグループ5側が高くなっていることからも、重要度が低いワードと考えられる。
あらすじの文字数分布からも文字数が少なく抽象的なあらすじは受けが悪いと考えられたが、同様に行動の曖昧さがその要因ではないかと考えられる。
決意の方はグループ3、2と行くにつれて上昇しており、グループ1で一定数存在することからも重要度が高いワードではないかと考えられる。
変化量は少ないものの、何らかの『決意』を見せることは重要だと言えそうだ。
・そしてーしかし分布
今回の分析は初めのnoteにも記載したように、かずなしのなめ氏のツイートの影響を受けて始めたものである。彼(あるいは彼女)の分析内で『マイナス要素からプラス要素へのパターン』があったために、今回の分析でもそのパターンが見られるのではないかと分析を行った。
以下が『そして』と『しかし』の分布である。
青が『そして』、オレンジが『しかし』を示している。
なお『総合』での分布は上図を薄めたようなものになっており、『恋愛』や『文芸』などではこの分布は確認されなかったために『ファンタジー』で特有のものだと考えられる。
『そして』も『しかし』もありふれた接続詞であるが、グループ1から5において『そして』が±2%程度かつグループ3→4などで増減があるのに対し、『しかし』は±5%程度でありグループ5に向かうにつれて減少傾向がある。
つまり『しかし』という接続詞は重要度が高いと考えられる。
これは『小説家になろう』でのあらすじが、起承転結までを書くものでは無く『起』あるいは『起承』までを書くものであることが原因だと考えられる。
『あらすじ』の書き方としては以下の2パターンが考えられる。
起(何かが起きる) ⇒そして⇒ 承(このような展開になる)
背景説明 ⇒しかし⇒ 起承
つまり、『そして』のみでは単なる展開紹介のみであるが、『しかし』によって背景からの何らかの転換が起こる事を示唆できるのである。
鬱展開やピンチからの主人公の巻き返しというものは『ウケる展開』である。ピンチに陥るも何とか解決! というのは緩急も付き、盛り上がりを演出するために不可欠とも言えるだろう。
しかし一般的に連載型のネット小説において、『鬱展開』というものはウケが悪い。
これは対象読者や連載という形式の都合なども考えられるが、他のエッセイなどで分析されているためこの理由の分析は省く。
『鬱展開』はウケが悪いが、マイナスからプラスの状態への盛り上がりというのはウケるものである。
その部分を解決するために、いわゆる転結の続きのような形で序盤にその盛り上がり方を持って来る書き方が重要なのではないだろうか。
『起』でマイナス状態からプラスへの盛り上がりを見せ、いわゆる『最強』モノの展開に続ける。そのような書き方が特に『最強』モノでは人気と考えられる。
それを『あらすじ』の『そして』と『しかし』の分布が表しているのではないだろうか。
・3ジャンルの『最強』分布
オレンジが『文芸』、青が『ファンタジー』、緑が『SF』ジャンルを示している。
『文芸』や『SF』ではグループ1、2の割合が高く出ているが、これは単に作品数が少ないためである。
作品数という意味ではファンタジーでの『最強』人気が高いと言うことが出来るだろう。
『文芸』のグループ3で著しく減少していることを考えると、『文芸』としては『最強』系がさほど人気でないことが分かる。
『SF』ではグループ2以降で緩やかな、ファンタジーと似た推移を見せているが、それは後述する『VRMMO』の影響が強いと考えられる。
【SFジャンルの分析】
・VRMMO
青が『VRMMO』、オレンジが『ゲーム』を示している。
『ゲーム』は『VRゲーム』を指している他、『ゲーム』そっくりの〇〇といった形でも使われるために多くなっていると考えられる。
ここで注目したいのはグループ5、グループ3での『VRMMO』の増加である。
『VRMMO』モノでアニメ化した作品もあり、SFジャンルでサブジャンルが作られているほど人気があるが、グループ5やグループ3で増加していることを考えるとその部分で停滞しやすいのではないかとも考えられる。
ある程度『VRMMO』は展開として似通ったものになりやすいと考えられる。
強職などを主人公が選んでしまうと、主人公の個性が出にくかったりバランス調整などで弱体化、などが考えられる。
つまり、『弱職(不遇職)で(極振りなど)変態プレイをする!』ような展開が多いといえる。
類似した作品が多いほど停滞は起きやすくなるため、それがグループ5(および3)で増加している要因ではないだろうか。
・VRMMOのスタイル
『VRMMO』が停滞する理由を上述したが、『戦闘』メインで進むのもあれば『生産』系として活動する主人公も多い。
また、商業作品で大ヒットしているような『デスゲーム』モノも考えられる。
オレンジで『生産』、青で『戦闘』、緑で『デスゲーム』を示した。
『SF』ジャンル内の割合であるため『戦闘』は宇宙戦闘であるかもしれないし『生産』も生産技術(空想科学)のようなものかもしれないが、『ゲーム』の割合から考えるにVRゲーム以外での使用による誤差は少ないと考えられる。
今回は5%以下の割合も調べたためグループ5までのグラフとなっている。
『デスゲーム』は商業作品に大ヒットがあるからか、全体的に割合が低めである。ただしグループ3で増加しているため、一定の人気はあると考えられる。
生産と戦闘に関しては『生産』の方がワードとしての重要度は高いと考えられる。
『異世界』でも戦闘は書けるのもあり、『生産』系は『VRMMO』のユニークな点を活かすことができるというのが理由ではないだろうか。
あるいは、明示的に『戦闘』を書かずとも『VRMMO』からある程度のバトル要素を感じられるため重要度が低くなっているとも考えられる。
どちらにせよグループ4での停滞は両方で起きており、『VRMMO』自体の停滞も考えるとジャンルとして飽和状態にあるとも言えるだろう。
・宇宙、未来
では『SF』ジャンルの『VRMMO』ではないものの分布を見る。
5%以上で見られたのは『宇宙』と『未来』であった。どちらも『SF』らしい要素と言えるだろう。
青が『宇宙』、オレンジが『未来』を示している。
グループ1と2の割合については作品母数の低さの影響があり、全体的に作品母数が少ないことからも飽和はしていないと考えられるが停滞は見られる。
『VRMMO』のような大きな割合での停滞ではないため、これは単純に読者数の少なさによるポイント限界があるのではないかと考えられる。ある程度他ジャンルの読者を取り込めた作品が飛び抜けているのだろう。
日間ランキングのポイントを見ても分かるように、『ファンタジー』ジャンルと比べて『SF』はそもそもの評価する人数が少ない。
それを踏まえて考えると、『宇宙』および『未来』のワードの重要性は高いと言えるだろう。
【文芸ジャンルの分析】
・転生
『文芸』というと『小説家になろう』であまり活動していない方は『純文学』など現実世界での人間関係を書いたものを想像されるかもしれないが、実際は『転生』というワードの重要性が高くなっている。
グループ1と2で傾きが急であるのは作品数の少なさが影響していると考えられる。
とはいえ、グループ3や4でも高い割合で存在することから、『転生』の重要度は比較的高いと考えられる。
グループ6では5%以下であり、減少傾向であることからもこちらでは飽和しているとは言い難く、他ジャンルからの取り込みとして『転生』というワードを使うことは有用ではないかと考えられる。
・戦国、時代、歴史
『転生』というと『異世界』を想像するが、こと『文芸』においては『歴史』モノの人気もあるようである。
堅く、なかなか感情移入が難しい『歴史』モノであるが、『転生』と組み合わせることで現代人的な感覚を持たせることが出来、感情移入しやすくしているのだろう。
歴史と戦国、時代の分布から、戦国はグループ1で多いが、それ以外の時代もグループ2では戦国の半分、グループ3以降では同等程度存在すると考えられる。
全体的に飽和状態にあるとは言えず、『歴史』関連は『文芸』ジャンルで重要度の高いワードと言えるだろう。
作品数は比較的少ないものの、『SF』ジャンルと比べると多く、停滞も特にみられないため『ポイント限界』についてはあまり考えられない。
ジャンル全体として『ファンタジー』などでも現れる要素を含んでおり、他ジャンルの取り込みが容易であるということも要因であろう。
・日常
『ヒューマンドラマ』などで使われるのか、作品数が多く割合が低くなりやすいグループ6にて『日常』の割合が5%以上となった。
グループ6で現れたことやグループ5での停滞から飽和しているのではないかと考えられるが、グループ3や2では増加している。
このことから、『日常』自体の重要度は高くないが、『日常』に何かを加える、あるいは『日常』の否定の重要度は高いのではないかと考えられる。
実際『異世界』などの非日常に関連する重要度は高い傾向にあるため、『日常』自体の重要度は低く、単体では逆効果となってしまうことも考えられる。