
焼売おじさん
昔々、ある小さな町に「焼売おじさん」と呼ばれる男が住んでいました。彼の本名は誰も知らず、ただみんながそう呼ぶだけ。おじさんは毎日、ボロボロの自転車に小さな蒸し器を積んで、町のあちこちを回っていました。蒸し器からはいつも湯気が立ち上っていて、ふわっとした焼売の香りが風に乗って漂ってくるんです。
チリンチリンと自転車のベルを鳴らすのが合図です。
焼売おじさんは背が低くて、顔はシワだらけ。でも、その目はいつもキラキラしていて、まるで子供みたいに純粋でした。彼の焼売は特別で、普通のものとは違いました。皮は薄くてモチモチ、中の具はジューシーで、豚肉とエビと野菜、そして秘伝の調味料が入っています。一個25円と安いのに、食べると幸せな気持ちになる不思議な焼売でした。
おじさんはお金を取るのが下手で、よく「まあ、いいよ」とタダで配っちゃうこともありました。特に子供たちには優しくて、お腹を空かせた子を見つけると、焼売をそっと渡して「大きくなれよ」って笑うんです。町の人たちはそんなおじさんが大好きで、誰かが困ってると「おじさんの焼売でも食べて元気出しな」なんて言うのが合言葉みたいになってました。
でも、ある日、おじさんがいつものように町に現れなくなったんです。自転車も蒸し器も見当たらない。心配した町の人たちが探し回ったけど、誰もおじさんの行方を知りませんでした。ただ、古い倉庫の隅に小さなメモが落ちていて、そこにはこう書いてあったんです。
「焼売はみんなの笑顔のために。」
おじさんが書いたメモなのかはわかりません。でもみんなこれはおじさんのメッセージなのだと思いました。
それから、町ではおじさんの焼売を真似して作る人が増えました。でも、誰もあの味を完全に再現できなかった。時々、風が吹くと、どこからか焼売の香りが漂ってくる気がして、みんな空を見上げてこう思うんです。
「おじさん、元気にしてるかなぁ。」
その街は、いつしか焼売の街として有名になりました。
「焼売はみんなの笑顔のために。」これはこの街のモットーになっています。
おしまい