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【ショートショート】ししゃも食べて死者を思う

秋の夜長、男はふと、無性にシシャモが食べたくなった。

「まったく、年を取ったせいだろうか」

そう呟きながら、男は近所のスーパーへと向かった。

鮮魚コーナーで、男はふっくらとしたシシャモを見つけた。

「今夜は冷酒もつけよう」

男はそう思い立ち、酒屋で日本酒も購入した。

家に帰り、男は早速シシャモを焼き始めた。

ジュージューと音を立て、香ばしい匂いが部屋中に広がる。

こんがりと焼きあがったシシャモを皿に盛り、冷酒を注ぐ。

男は、静かに箸を取った。

「いただきます」

そう呟き、シシャモを口に運ぶ。

香ばしい風味と、ほろ苦さが口の中に広がる。

冷酒を口に含むと、シシャモの味がさらに引き立った。

男は、ゆっくりとシシャモを味わいながら、物思いにふけった。

亡くなった祖母のこと、昔の恋人のこと、亡くなった犬のこと、そして、若かった頃の自分のこと。

様々な思い出が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

「もう、若かった頃には戻れないんだな」

男は、そう呟き、少し寂しさを感じた。

しかし、同時に、今の自分の人生に満足していることにも気が付いた。

「これも、年を取ったからこそ思えることなのかもしれないな。それに昔はししゃもの美味しさにも気付けなかった」

男は、そう呟き、残りのシシャモを口に運んだ。

冷酒を飲み干し、男は静かに目を閉じた。

秋の夜長、シシャモと冷酒を片手に、男は亡き人を偲び、静かに夜を過ごした。

おしまい。