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憎しみと悲しみと刺し身

男は、憎しみに生きていた。

幼い頃に両親を亡くし、親戚にたらい回しにされた。どこに行っても歓迎されず、蔑まれ、孤独だった。

男は、勉強も運動も不得意であった。同級生はもちんろん、先生にも馬鹿にされた。

男は、精一杯頑張った。みんなに気に入られたかった。

しかし、何をやっても失敗続きだった。

世の中は不公平だ。なぜ自分だけがこんな目に遭うのか。

悲しみはいつしか憎しみとなり、男の心を蝕んでいった。

そして社会を恨んだ。

俺は何も悪くないのに。

俺は被害者だ!俺は社会の被害者だ!

男は、ゆく当てもなくさまよった。

そんなある日、男は小さな漁村に流れ着いた。

村人たちは、よそ者である男を温かく迎え入れた。

男は、生まれて初めて優しさに触れた。

男は、生まれて初めて刺し身を食べた。

彼はもう一人ではなかった。

おしまい。