クリスマスが終わる夜に
クリスマスは、あっけなく終わる。
君が教えてくれたこと。
私は振り返って、つい2分前にくぐった改札を駆け抜けた。
再びクリスマスの夜へと歩き出す。
帰りの電車のことなんて、どうだっていい。
なくたって構わない。
ついさっき、君と歩いた街を、
ひとり、ただ歩く。
まだ、帰りたくない。
クリスマスを、終わらせたくない。
駅前の大きなクリスマスツリーを片付ける人たちを眺め、やっと気付く。
時計の針は、午前0時を過ぎた。
クリスマスが、目の前で終わってゆく。
これまでそれは、寝て起きたら終わっているものだった。
けれど今、それがまさに終わるところを、初めて目にしている。
キラキラしたツリーを片付けたら、きっと飾るのであろうお正月飾りも、そこにスタンバイしている。
ベンチに腰掛けながら思う。
なんていうか、あっけないな。
今の気持ちを表すのにぴったりなことばを探してみても、見つからない。
悲しくもない。切なくもない。
感情的でも、感傷的でもない。
ただ、もう少しだけ、もう少しの時間だけ、
クリスマスだったら良いのになと思う。
まだ、次へと進まないで。
終わりと始まりの間に、居させてほしい。
私はただ、そこに漂っていたい。
別に、終わるとか終わらないとか、そんな間柄でもなかった。
未来への約束なんて何もない。
だから、さよならを言う必要もない。
でも、もう連絡はしない。そう決めた。
それでも、すぐに違う方向へ歩き出せるわけでもない。
何分経ったのだろう。
クリスマスを終わらせる作業は、容赦なく淡々と進んでいった。
そして早々と、お正月の飾りが施されていった。
この街は足早に、次の季節へと向かう。
もう少し、待ってくれたっていいのに。
東京の街は、せっかちだ。
よく歌詞に書かれているような、世界の色が変わって見えるだなんて、信じていないけれど。いつもより明日が楽しみだと思えたのは、君のおかげだったと思う。
それとも、この夜が明けて初めて、私はようやく気付くのかな。
世界の色が、ほんのり違って見えていたことに。
あっけなく終わるクリスマスの夜に、君と見たこのせっかちな街の色も、
あっけなく、忘れてしまえればいいんだけど。