「母親の知能が子供に遺伝する」みたいな話をX上で定期的に見聞きする。いつも責められがちな母親をますます追い詰めてくるような言説で見かけるたびにムカつくのだが、根拠は?論文はどこに?と思っても誰もソースを提示する人がいない。なので調べてみた。
以下は検索するとヒットする、イギリスのオンライン紙インデペンデントの記事。「母親の知能が子供に遺伝すると科学者が言ってます」みたいなことが書いてある。こういう記事いくつかあって、それが日本でも紹介されてバズったんだと思われる。
しかしこちらでも出典元は?科学者って誰?論文は?と軽く調べたたけでもこの言説は信憑性が低いっぽいという検証記事が出ている。ただし英語の記事なので、「あの話あてにならないよ」という認識は日本語圏には届いていないようだ(というか誰も興味ないのかも)。
もしくは、教育格差を語るときに使われることの多いSES(家族の社会経済的背景)の話と混ざり、「賢い母親の子は環境や教育方法がいいから賢いよね」みたいな話と一緒になってしまっているのかもしれない。
検証記事
これはKQED(アメリカの公共ラジオ放送局の記事)の2016年9月29日付の記事。「子供の知能は母親由来という説をぶっ潰覆す」というような頼もしいタイトルだ。 経緯や取材内容がわかりやすくまとまっており、早々に「これデマやで」って書いてくれている。
以下引用。
この言説が広まる発端はブログ記事だったらしいけれど、現在はそのブログは削除済みで見られないので、どのような形で紹介されたのか不明だ。インデペンデント(イギリスのオンライン紙)の記事内に一応URLが残っているが。
ちなみにインデペンデントの記事は2019年12月23日。バズった日から3年経過しているが、単なる更新日なのか英米圏でも定期的にこの話が蒸し返されているのか?記事のコメントでも「この記事の根拠は?」みたいの突っ込みも入っている。
ブログ記事のもとになった論文
KQEDの記事によると元になった論文は以下のもの。
Effect of breast feeding on intelligence in children: prospective study, sibling pairs analysis, and meta-analysis
KQEDの記事では、この論文の共著者にも取材している。以下引用。
つまり、そもそもの論文には父親の知能のデータが入っていない。この論文の主旨は母乳育児が知能とどう関係するかということだったようなので、母親の知能と子供の知能の相関を調べた側面的なところが取り上げられてバズってしまったのかもしれないけれど、「母親の知能が子供に遺伝する」っていう言説がいかに乱暴で適当な話であるかということだ。
賢い人たちにはこんな話がデマなのは常識なのかもしれないが、誤った言説が簡単に広まってしまいがちな世の中で、「その話は間違いではないか」と微力ながら発信することにも意義があると思いたい。