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Cabbage1

《your side》

「来週から田舎暮らし、してみない?」

締切明け。出勤するなりレイ編集長のデスクに呼びつけられたと思ったらコレだ。
優美に組まれた指の上に顎を置きながらニッコリ笑ってる。ニコニコポワポワ癒し系に見えるけど、レイ編集長が「してみない?」と言ったらそれはすなわち命令で、すでに決まった事というわけ。

「田舎っていうと…」
「ちょっと僕の先輩のツテがあってね。地元に戻って村おこし事業をしてる人なんだけど、古い一軒家を無料で貸し出してくれるから誰か住まわせて暮しぶりを記事にしてみないかって話があってね」
「で、私ですか?」
「そう。むさ苦しい野郎が行くよりも女性が行った方が記事として目を引くでしょ?」

レイ編集長の目が私の後ろに広がる締切明けの死屍累々の編集室に移る。
資料の山の間で椅子をベッドに寝ていたミンソク先輩がムクリと起き上がる。

「ちょっとぉ、誰がむさ苦しい野郎なんですかぁ」

とひと言文句を言ってまたバタリと倒れる。
他の先輩方は言わずもがな、普段は清潔感の塊のようなミンソク先輩もこの期間だけは…
レイ編集長が「分かっただろ?」とばかりに形の良い眉をクイッと上げる。

「うちもさ、新しい読者を開拓したくてね〜。これは我が老舗アウトドア雑誌SOTODEROの躍進を期待しての新企画なんだよ。行ってくれる?」

うぅ…必殺のキラースマイル。何と麗しい。美形ってズルい。
別に田舎は嫌いじゃないし、編集長が言い出したらどうせ行くことになるのは分かってる。分かってるんだけどちょっとくらい抵抗したい。だって悔しいじゃない、こんな風にペガサス、もとい鶴の一声で生活の全てを変えられちゃうなんてさ。勇気を出して沈黙してみる。

いーち、にーい、さーーん…

もう迷ってなんかないけど、唇を思案げに軽く噛んで見せる。
編集長の目は期待に満ちている。

しーーい、ごーーお、ろーーーく…

普段は編集長の前でこんなことしないけど、腕も組んで見せる。
思った反応と違ったのか、編集長が不安げにググっと乗り出してくる。

しーーーち、はーーーち、きゅーーーーーう

私がNOと言うと思ったのか普段はあまり感情を見せない編集長が焦った様子で

「そうだっ!特別手当を忘れてた!君には負担をかけるからね!会社に掛け合っていっぱい出してもらおうね!」

思わぬ提案を引き出せたところでタイムリミット。こっちも限界。私にしては頑張った。

「分かりました。行きます!」

かくて私の人生初の田舎暮らしが決まった。

※・・・※・・・※

家から新幹線と電車を乗り継いで6時間。降り立ったのは無人駅。
辞令から引越しまで時間が無かったので必要最低限の私物と仕事道具だけを詰めて来た大きなリュックを足元に下ろして一息つくと、急に力が抜けた。

駅前には申し訳程度の小さなロータリーと大きな桜の木。今が満開と咲き誇っているけれど、私以外に見る人も無くその向こうには一面のキャベツ畑が広がっている。こんなに大量のキャベツ初めて見たな…

仕事の引き継ぎと引越しの準備に追われて深く考える暇も無くここまで来てしまったけど、私、ここでやっていけるんだろうか…考えたらずっと実家だったし、ちゃんと一人暮らしするのすら初めてだ。実家のジィちゃんバァちゃんの顔が浮かんで今更ながら目頭が熱くなる。

※・・・※・・・※
《Kyung-soo side》

無駄に広い村役場の駐車場を足早に横切り、目当ての車のだいぶ手前で開錠スイッチを押す。ここですよ!と言わんばかりに電子音が鳴り、ハザードが点滅する。
約束の時間が迫っていた。

「雑誌の記者が越してくることになったから、世話役ヨロシクね」

上司のスホさんからウィンク付きでそう言われたのはわずか数日前。
それからは通常業務に加えて受け入れ準備に大忙しだった。
こんなに短期間にバタバタ越してくるとか、移住ナメてるのか?
この仕事は好きだし誇りもある。けど、雑誌だか何だか知らないけど、こういう迷惑な移住者に振り回されるのは御免だ。

使用申請を出していた来客用の公用車にスホさんが乗って行ってしまったので、急遽土木部に借りに行かなくてはならず予定より遅くなってしまった。申請の意味。
イライラしながらもう一度時間を確かめようとポケットのスマホを手に取ると、タイミングを見計らったかの様に電話が震える。チャニョルからだった。この忙しい時に。つい不愛想な声になる。

「何?」
「おー、ギョンス。お前のとこに女の子引っ越してくるんだって?いつ?いつ?ねー、紹介してよー」
「は?お前何でそれ知ってんだよ?」
「スホさんだっけ?お前のとこのお偉いさんから聞いた~。飲み屋で意気投合しちゃってさぁ~」
「いいか、その話まだ誰にも言うなよ。それから俺のとこに引っ越してくるわけじゃない。俺んちが貸してる空き家に引っ越して来るだけだ」
それってつまりお前んとこじゃんとブツブツ言う声が聞こえていたが、そのまま無言で電話を切った。
まったく、守秘義務はどうなってんだよ。ユルすぎるだろ。制服である作業着のジャケットを乱暴に助手席に投げて車に乗り込んだ。と、また着信。今度はジョンデからだ。

「ヤーー! ギョンスヤーー!! 女の子越してくるって聞いたぞ」

テンションが上がってるのかいつもより更に声がデカい。思わずスマホを遠ざける。

「だから何で知ってるんだよ!?」
「だからって何?さっきチャニョルに聞い「誰にも言うなよ」
「んー」
「またな」
「んー」

チャニョルのおしゃべり野郎……
ふぅ、と一呼吸ついてからエンジンをかける。無駄な時間を使ってしまった。まったく。が、ハンドルを握ったところでまた着信。ベッキョンからだった。何だあいつら?示し合わせてるのか?

「何なんだよ?」
「ん?何か怒ってる?そんな事よりギョンちゃ~ん、聞いたゾ。女の子引っ越してくるってね?」

俺の不機嫌を一切無視して、からかうような猫なで声。

「チャニョルに聞いた?」
「んー。紹介、ヨロシク。青年会に連れてきなよ。抜け駆けはダメよん」
「青年会?そんな寄り合いに行きたがるか分かんないだろ」
「そこはお前の話術で」
「俺に話術なんてあるかよ」
「ないな」

にんまり笑ったベッキョンの顔が目に浮かぶ。
くそっ、馬鹿にして!

こいつらの異様な盛り上がりには理由がある。
この村、元々若者が少ないのに加えて、女性は進学や就職で村を出たきり街の人になってしまう人が多い。まぁ、村に戻っても仕事は農業や畜産ばかりで、体力勝負のキツイ仕事だから嫌がるのも分かる。結果、村に残った男共はいつも出合いに飢えている。

だからまぁ、若い女性が越してくると聞いて色めき立つのも分かる…けど、いくら何でもがっつきすぎじゃないか?都会から来る雑誌記者なんて。まだ、どんな人かも分かんないのに…。

※・・・※・・・※
《your side》

編集長に到着のラインを送るとすることも無くなり、立ったままぼんやりノラ猫を眺めていた。じっと見られていることに気付くと、猫はダルそうに伸びをしてどこかへ行ってしまった。うららかな春の昼下がり、駅前には正真正銘、私一人。
う……心細い。

到着時間、ちゃんと伝わってなかったのかな…。
引越し前の怒涛の仕事量に加えて長距離移動の疲れも手伝って、半ば放心しながらどこまでも続くキャベツ畑を眺めていた。うーん、編集長の言いなりに引越しまでするのはさすがにやり過ぎたかな?でも連載が持てるなんてスゴいことだよね。後悔と期待を行ったり来たり。はぁ、疲れた。考えるのヤメよ。
ぼんやりしていると、遥か遠くに太陽の光を受けてチカチカ光るものが見えた。徐々に近づいてくるそれはどうやら車らしい。やっと現れた第一村人に感動して、つい大きく手を振りそうになるが仕事で来ていることを思い出して止めておいた。

ん?軽トラ?

近付いてくるのはどうやら軽トラらしい。
迎えに来るのって役場の人だよね?人違いかな?考えている間にも軽トラはどんどん近付いて来て、ついに私の目の前に滑るように止まった。ドアには緑色の文字で『エクソ村役場 土木部』と印刷されていた。土木部?

エンジンが止まると、焦った様子で役場のジャケットを羽織りながら眼鏡の男の人が出てきた。スラックスにワイシャツ、そこに作業着のジャケットを合わせるよくある公務員スタイルだった。肩のラインがやけに丸っこい。
 
「お待たせしてすみません」

小柄で少年的な印象とは裏腹に、低い声だった。

「エクソ村役場の移住推進係長のド・ギョンスと申します。移住者の世話役みたいなものだと思って下さい」
「アウトドア雑誌SOTODEROから参りました。お世話になります」

名刺を交換しながらペコペコする一連の流れの中、ライターの性でついつい観察してしまう。
…うわぁ〜、手が綺麗!でも爪短〜い。ついでに髪も短〜い。目が大きいなぁ、顔の半分位あるんじゃない?あ、眉毛そのまんまなんだ。いいですね、いいですね。わ!唇、綺麗な形してるなぁ。肌もツルツルだぁ、スキンケアは何をしてるんだろう?この辺、水が良いのかなぁ、はぁ〜、どこもかしこも……清潔感が服着て歩いてるような人だぁ。

「では、役場にご案内します。荷物は荷台に載せますね」

そう言ってなで肩のド・ギョンスさんは私の登山用の大きなリュックを意外にも軽々と持ち上げた。

※・・・※・・・※
《Kyung-soo side》

時間に遅れてしまったことを詫びつつ急いで車から降りると、パーカーにデニムにスニーカーというシンプルな恰好の女性が居た。学生みたい。それが第一印象だった。足元には自分の身体の半分位ありそうなドでかいリュックが置いてある。これ一人で担いで来たの?記者って言うから、もっとこう「都会から来ました!」みたいな人を予想してたから飾り気の無さが意外だった。

軽トラは運転席と助手席しかないから必然的に隣に座ってもらうことになる。車に乗り込んだ時にフワッと良い匂いがして、ちょっとソワソワした。

「すみません、こんな車で。狭くないですか?」
「いえ!軽トラって一度乗ってみたかったんです。なかなか機会が無いですから」

キョロキョロと車内を見回して興味深げに観察している。社交辞令?本心?

「ではまず、役場に行って転居の手続きを済ませてしまいましょう」

畑の中の道を一直線に走っていく。今はキャベツやブロッコリーの収穫時で、黄色い収穫カゴを載せたトラックがあちこちに停まって作業している。

「お若いのにもう係長さんだなんて凄いですね」
「人手不足なだけです。SOTODEROさんの影響力には村長も期待していますので、村を挙げてバックアップさせていただきます。困ったことがあったら言って下さい。必要なら取材も同行します」
「わー、助かります!地元の方がいて下さると取材申請が通りやすいんですよ」

ペコリと頭を下げたのが横目に見えた。

※・・・※・・・※

「いやぁ~、編集長っていっつもムチャ振りで……」
「男所帯の編集部なんで出版社といっても華やかさとは無縁なんです」
「ホントですよ~、周りは筋肉自慢の猛者だらけなんですよ~」

この村に来ることになった経緯や編集部の個性的なメンバーの話を面白おかしく話してくれる。どうやら移住ナメてるというより、上司の思いつきに振り回される被害者と言った方が良さそうだ。畑の中をひた走る役場までの短いドライブは会話が途切れることがなかった。
名刺交換のときは遅刻したから焦っていたし、今も運転してるからしっかり顔を見ることは出来ないけど、とにかく感じが良い人だってことは分かった。記者という職業柄なのか、人の懐に飛び込むのが上手くて、口下手な俺がごく自然に話していた。
それに、車が揺れる度にほのかにいい匂いが…。いや、やめろ、俺。
チャニョル達に紹介したら騒ぐだろうなぁ…。まぁ、後でいいよな。

※・・・※・・・※
《your side》

ギョンスさんが運転する軽トラは制限速度を守って田舎道を走っていた。自己紹介がてら披露したグチ半分の編集部の話を楽しそうに聞いてくれて、時々声を出して笑ってくれる。低い笑い声が心地良い。良い人そうで良かった〜。

話しながらこっそり運転中のギョンスさんを観察してみたけど、横顔がすごく…すごくイイ。クリクリと大きくて幼く見える目の上にある男らしい眉毛、高いけど先が丸くて温かみのある鼻、ぽってり唇を引き締めるしっかりした顎のライン…大人と子供、甘さと辛さ、剛と柔、正反対のパーツが絶妙に混ざり合っている。

この人…眼鏡で隠されてるけど、すっごい美形なんじゃない?もっとずっと見ていたい。けど初対面だしあんまりジロジロ見たら失礼か…でも見たい。ダメ。いやちょっとだけ…

一人で葛藤しているうちに村の中心地が近付いてきたらしく、民家が増えてきた。
車のスピードを緩めて、あちこち説明してくれるのでギョンスさんをガン見するのをいい加減諦めた。

「あれが村唯一の商店で、最低限の物は置いてあります。あっちが診療所でその隣が食堂兼居酒屋、むこうに見えるのが村役場です。以上です」
「えっ?あー、以上なんですね。以上…かぁ…」

車で100m程走る間に村の紹介は終わってしまった。こんなに何も無いとは思わなかった。コンビニも無いとは…ここでやってけるかな…不安な気持ちが蘇ってきて黙り込むと、不穏な空気を察知したのかギョンスさんが励ますように

「隣町に行けば大きなショッピングモールもホームセンターもあります。みんな大体そっちで買い物していますよ。車で1時間位ですが、あ、車はいつ持ってきます?」
「えっ…車は持ってないです。こっちで中古のスクーターでも買おうかなと思ってたんですけど…」

車かぁ。都内に住んでると必要無かったけど、ここではやっぱり必需品みたい。買わないとかな。でもなぁ…移住と言ってもいつまでここに住むか分からないし、実家に帰った後に支払うことになる高額な駐車場代を思うと躊躇してしまう。

「あぁ、そうでしたか。スクーターなら友人が高校生の頃乗ってたのをまだ持ってるかもしれない。聞いてみますね。しかし、隣町まで出るとなると大変だなぁ」
「どの位かかりますかね?」
「うーん、スクーターだと2時間近くかかるかもしれませんね。買い物したら荷物も増えるし…」
「往復4時間かぁ…」

日用品を買うのに半日がかり。田舎ナメてた。車は後で検討するとして、しばらくは村の商店とネットで買い物済ませるしかないか…

「あー…、もし良かったら1週間に1回になりますけど、僕が買い出しに行くときに一緒に乗って行きますか?」
「えぇっ!いいんですか!?」

予想外の嬉しい申し出につい飛び付いてしまいバツが悪い。

「あ、図々しくてすみません…」

顔が赤くなるのが分かる。穴があったらってやつだ。

「大丈夫です。家も近いですし、ついでです」
「家近いんですか?」
「今に分かります」

チラッと目だけでこちらを見てフフッと笑った。
あ、いけない。こんな綺麗な目で流し目されたら好きになっちゃう。キケン、キケン。

※・・・※・・・※

村役場で諸々の手続きを済ませると、

「お疲れ様でした。それでは、家に行きましょう」

役場から家までは車で30分。ギョンスさんの説明によると、エクソ村では移住者招致用に空き家を格安で貸し出していて、その内の一軒に私が住むことになるらしい。

「今回は引っ越しまでの時間も限られていたので、特例ですが私どもで先に家を決めさせてもらいました。気に入ってもらえると良いのですが…皆さん、古い家でもお洒落にリフォームして住んでらっしゃいますよ」

う…覚悟はしてたけど古い家かぁ。古いってどれ位?お化け屋敷みたいじゃない?下見も無しに引っ越すなんてすごいドキドキする。

初めての一人暮らしがいきなり山の中か…
あぁ〜、今夜から一人なんだよな。いよいよ現場が迫ってくると益々実家の家族が恋しくなった。

ギョンスさんの運転で山道をスイスイ登って、更に雑木林に囲まれた砂利道を少し走ると急に開けた場所に出た。

「ここです。あの白い家です」

ギョンスさんに続いて車から降りると、道を挟んで右手には大きくて黒っぽい古民家、左手には小さな白い洋館風の平家があった。
わわわ!さっきまでの不安はどこへやら。子供の頃大好きだったアニメに出てきた夢のお家がそこにあった。

「う……わ……、か、可愛い!可愛い!可愛い!ト〇ロのお父さんの書斎じゃないですか!」

そう言ってギョンスさんの方を振り向くと、びっくりしたように眼鏡の下の大きな目を見開いて

「おぉ!分かります?僕もずっとそう思ってました!」

と嬉しそうにクシャッと笑った。
あぁっ!いけません、いけません。まともに正面から見てしまった…何という破壊力。大きな目は三日月の様に細くなり、ハート型に開かれた口からは白い歯がこぼれる。ほっぺがぷにっと出てきて福々しい。こんな赤ちゃんみたいに笑う成人男性がいるなんて…もう一回その笑顔が見たい。私はもうギョンスさんにハマッてしまったのかもしれない。

※・・・※・・・※
《Kyung-soo side》

俺にはどんなに良い家に見えていても、やっぱり古い家には変わりはないから嫌がられたらショックだなと思ってたけど、それは杞憂に終わったらしい。
両手を口にあてながら可愛い、可愛いと連呼しながら歩き回っている。ト○ロのお父さんの書斎にそっくりだと言う感想は俺と同じだった。
ここは亡くなった曽祖父母のかつての隠居所で、その昔、都会で油絵をやっていたという曽祖父のハイカラ趣味が散りばめられていた。実はこの家を移住者用の貸家に登録するとき、本当はちょっとイヤだった。移住推進係長という立場上、仕方なく登録したけど、どんな人が住むか分からないし。自由に改装していいことになってるから今の雰囲気を滅茶苦茶にされちゃうかもしれないし。でも、この分だと大丈夫そう。この人ならこの建物の良さを分かってくれるはず。

「家の中を見てみましょうか」
 
緩やかな階段を登って玄関に案内する。のぞき窓の代わりに小さな琥珀色の曇りガラスがはめ込まれた玄関扉を開けるとキッチン、リビング、寝室スペースが一度に見渡せる造りになっている。東側の窓には素朴な造りのステンドグラスがはめ込まれていて、その下には作り付けのデスクと本棚。ステンドグラスに朝日が当たると部屋の中に映って綺麗なんだよな。
さっきから「わぁ~~」とか「はぁ~~」とか時々「これはたまらん」とか聞こえてきて可笑しい。

「大丈夫そうですか?」

どう見ても大丈夫そうだけど、一応聞いてみる。ちょっと涙目でコクコクと頷く。
え?何で涙目?

「はいっ!もちろんです」
「良かった」
「古い空き家と聞いていたので、どんな家なのか不安だったんです。そ、それがっ、こんな素敵なお家だなんて……」

みるみる目尻が赤くなったかと思うと、目の端から涙がポロっと落ちた。慌ててハンカチを差し出すと素直に受け取って目元を抑える。

「いや〜、お恥ずかしい」

少し冗談めかして泣き笑いでそう言った顔が可愛く見えて、ガラにもなく心臓がキュンとした。

Cabbage2に続く→

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