妙大声〜松原温泉〜
正月は無料開放していると聞いて初日の出を拝んだあとそのまま松原へ向かった。高校1年生が、1人で、1月1日に、温泉へ行くなんていとをかしではないか。そんな自惚れたことを考えていたので置かれている状況下が1ゾロ目とは気付く由もなかった。
少しだけ開いているドアの隙間に手を入れると、指の先だけが湿気に包まれる。無料開放、といえどなんか申し訳なく、とりあえずカバンから財布を出してみる。無性に不安になっていた時に、後ろのドアが開いて、おじちゃんが入ってきた。おじちゃんが私にお辞儀をしてそのまま男子風呂へ消えていったことにより、私は今日が無料開放であることを確信した。
松原には廊下と脱衣所を、脱衣所と浴室を仕切るものがなく、暖簾越しに脱衣スペースと温泉がある。暖簾の手前に靴がないことを確認して、[2019年、1番乗り!]と勢いよく暖簾をくぐった。ら、ラスボス感漂う待ち構え方のおばちゃんが湯船からこちらを見ていた。松原の番台さんである。気さくでおしゃべりで愉快なおばちゃんだ。
今日は、無料です!!
お金を払わず暖簾をくぐった行動に、妙にでかい声ではなまるをもらった。
あ、そうなんですね〜。
「知ってましたよ!」というのは嘘であるし、「迷ったんですよ〜」というのは「なんち?!」と聞き返されそうであったし、「そうなのかもしれないけどどうだろうと迷ったんですよ〜」と詳しく言うと最後まで聞いてくれなさそうだったので、これに落ち着いた。
あんた新年からついちょんな〜!!
妙にでかい声だ。さあお入り、のような、私のテリトリーということは気にしてね、のような面持ちで、湯船を我が家のこたつみたいに支配していた。
そのうち近所の若そうな女性が来ておばちゃんと話していた。
そりゃーーゆかちゃんそりゃいいでな!!
温泉にいるおばちゃんというのは、我が名を名乗らないが、相手の名前はぼこぼこ放出する。妙にでかい声で。まあつまりそのおばちゃんの名前は未だにわからないのに同席(同湯?)しているお客さんの名前は覚えてしまうわけだ。名前だけではないのだが。
ゆかちゃんの上のお姉ちゃんもう6年かえ!
6年生の子がいるのか。最低3人兄弟か。末っ子から見たら姉が2人いるのか。もう、ということはこの人はかなり前からここを利用しているのか。おばちゃん、自分の情報も教えてください。妙にでかい声でおばちゃんの情報公開もお願いします。
私は次行く温泉もあったので早々にそこを出ることにし、急いで着替えて湯船に向かって、失礼しました、と一礼したのだが、まったく届いていなかった。
そうか届かないのか、
妙にでかい声でないと。