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心臓漬けるな令〜海門寺温泉〜

別府の温泉には多い形態であるのだが、ここはぬる湯とあつ湯の2つに分かれている。一旦ぬる湯を経由したあとあつ湯に入ったら、ぬる湯につかっているおばちゃん3人からびっくりするような雰囲気を感じ取り、というのも、風呂の中は真っ白と言っていいほど湯気が立ち込めているのに加え、奇跡の裸眼(裸眼で生きていけることが奇跡)、と言われるほど視力の悪い私からは顔や表情は受け取れなかったという状況だったからである。が、とりあえず数秒間はびっくりされた。

あーー、あちくないーーん?!

経験論だが、別府の温泉のおばちゃんは、大半のことはキレ気味にしゃべる。というか、使いこなされた流暢な大分弁のおかげで、アグレッシブな印象を受けるから、ついついびびってしまう。

はい!熱くないです!

心臓はあっためると良くないけんな!胸から上はあげちょきよ!!

初めて聞いた知識であったが、やはり口調の威圧に負けて、膝を少しばかり曲げて、胸から上を浮かすという、これまた初めてする格好だったのだが、はて、これは正しい入浴なのか?という疑問が絶えず湧き出、湯気の中に溶け込んでいった。おばちゃんはその後も私を気にかけてくれて、幾度か心臓浸けるな令を発令してくれた。

ちょーちょーちょー、こん子あちくないんっち!

すぐ人に伝えたがるのは日本人の特性だ。しかしまあ「彼女はあつ湯あちくないんち」という報告はだけなんの極みである。反響がひどく、子音をうまくキャッチできない浴室で、私は、全力の笑顔とそうですね〜だけで会話を成立させる術を身に付けた。

でもねーちゃん、心臓つけちゃいけんで!

また油断していた。

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