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【短編小説】 雨の予告

雨は、夜空を落下させようとするくらいに、凄まじい音を響かせて地面に打ちつける。テラスに敷かれた板のひとつひとつは木琴の鍵盤のように、雨粒を受けて音を鳴らす。しかし、乱雑に打ち鳴らされる音の数々は、音楽と称するにはなにかが欠けている。けれどもわたしはその欠けているものが何なのかを、うまく言語化することができないでいる。それは、所詮わたしの感覚に過ぎない。旋律? 旋律があるかどうか。……いや、旋律がない音楽だってあるだろう。

その邸宅の南側、テラス越しに見える景色、どこまでも広がる田畑。そこにももちろん、雨は降りしきる。田畑は泥濘で溢れかえる、というよりも土地一帯が水で覆われてしまった、それくらいの表現をしても過剰ではない。むしろ適切なくらいだ。

「いつまで降り続くんだろう?」

不安そうに君が訊く。

夜のあいだ、しばらくは降り続くことになるだろう。雨は強くなったり弱くなったりを繰り返しながら。

僕は答える。

「このまま降り続いたら、この家のなかにも水が、入ってくるんじゃないかな?」

「その心配はないと思うよ。雨は、日の出までにはきちんとやむだろうから。そして明日も」僕はここで一呼吸置く。「一段と暑くなるみたいだ」

ここ数日、そんな天気が続いている。それでも僕たちは一縷いちるの望みを頼りに、星空を待望した。テラスで、キャンドルを焚いて、食卓を広げたがった。ワインセラーにしまわれたボトルたちもまたそのときを静かに待っていた。ちょうどチーズが、この家の主人によって、皿に盛られ始めた頃に雨は降り始めた。君はその雨を唐突に感じたかもしれない。しかし雨はお構いなしに天から落ちてきた。

予告しただろう。予告通りだろう。雨がこの時間に降ることは。

雨の声が聞こえたような気がした。低くうなるような声が。

雨雲の到来を予告する声は確かに聞こえていた。僕たちが車で、その邸宅へ向かうとき、遠くのほうで雷鳴が聞こえていた。そのかすかな声を、僕は確かに聞き取っていた。そしてその声が聞こえる方角には、黒くて重たそうな雲が、地平に張り付くようにして在った。


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