「我が青春のドイッチュラント」(11)番外編 バシュカへ
マリンスカ 4日目
「どこか、おすすめの場所、ありますか。」と、バルビス・パパに訊いた。
「バスターミナルに行ってごらん。長距離バスで色んな場所に行けるよ。」
行ってみたら、行き先を選ぶことはできなかった。月曜日はA、火曜日はB、という風になっていて、その日はバシュカという所だった。地図を見ると、クルク島の南端に位置する村だった。往復チケットを買った。2時間のバスの旅。
クロアチアはアドリア海に面しているが、意外と山が多い。クルク島も同様で、車窓から見えるのは山と森と畑。乗客は少なく、終点で下りるのだから眠っていてもいいのだけれど、「この景色、二度は見られない。しっかり頭に刻み込もう。」という思いで、一瞬も目を離すことはなかった。
バスの終点は何もない、広い空き地。ルリタマアザミが咲いていた。ドライフラワーになりかけていた。
運転士さんと車掌さんが下車して伸びをしていた。私を見ると手招きして、バスストップを指差した。帰りのバスの時刻。1本しかない。乗り遅れたら帰れない。次に指差して教えてくれたのは簡易トイレ。「フヴァーラ!(ありがとう)」はしょっちゅう使おう。
海に向かってぶらぶら歩いていたら、ロバを引いた男性と4歳くらいの男の子がやって来た。「ドバル・ダン!(こんにちは)」と私が言うと、男性はニッコリ笑って挨拶を返し、小さな息子は目を見開いて固まっていた。初めてアジア人を見たからだろう。
この親子に出会ったときのことは、今でも鮮やかによみがえってくる。まるで絵本から抜け出てきたような二人とロバだったから。
海が見えてきた。陽光を受けてキラキラ輝いていた。ふと右に目をやると、白っぽくてゴツゴツした山脈が海まで続き、突然没していた。初めて見る光景だったので、軽く衝撃を受けた。
ビーチはきれいに整備されていて、たくさんのバカンス客が大自然の恵みを享受していた。その一方で、村人は農業と漁業に従事している。リゾート地って不思議。
お土産屋さんでは貝殻や、木工細工の灯台や船が売られていた。粘土で作られた小さな天使の像を買った。顔はないが翼はある。(帰宅して見たら首が折れていた。誰かにあげることは止め、ボンドで接着して飾っている)
発車10分前にバス停に戻った。再び山や森や畑を眺めながらマリンスカに帰ってきた。
「お帰りなさーい!」 バルビス・ファミリーが笑顔で出迎えてくれた。
どうしよう・・・。このままずっと、ここにいたい。でも、帰国の日は決まっている。その前にはドイツに戻らなければならない。その前に首都のザグレブにも行ってみたい。どうしよう・・・。
迷い迷って眠れなかった。