私を食べて?
人肉を食うのが大好きだ。
泣き叫ぶ声を聞きながら食うのが大好きだ。
恐怖に震える人を襲うのが大好きだ。
俺はグール。人食いの化け物。
今日も森を彷徨いながら手頃な人を探していた。
そして、手頃な人間の女を見つけた。
さぁ食おうとしたが、そいつは俺を見つけると、嬉しそうにこう言ったのだ。
「やっと見つけた。さぁ私を食べて?」
なんだこいつは……。
何故、笑顔でそんなことを言うのか。
何故、怖がらないのか。
不思議な女だ。
なんだか食う気が起きず、俺は食べることを拒否した。
「お前は食わない」
そう言えば、女は驚いた表情をしながら、嬉しそうな、悲しそうな顔で微笑んだ。
それからと言うもの、女は片時も俺の側から離れなくなった。
よくもまぁ、腐臭のする俺の近くにいられるものだ。
本当にこの女はおかしい。
馬鹿なのか? それともアホなのか?
わからん。
煩わしいと思うのに、女に出会ってから、食べても食べても満たされない空腹が、少しだけ満たされていた。
だが、それでも俺は人を襲う。
肉が欲しい。食いたい。食いたい。食いたい。
この衝動だけは止められるものではない。
なのに、俺が人をおそうとすると決まって女が「私を食って?」と言って邪魔をしてくる。
俺がお前は食わないと言えば、女は「じゃあ私以外を襲うのは駄目よ」と言ってくる。
俺がその言葉を聞く必要はないが、何故だがその言葉に逆らえなかった。
……なんでだろか?
そうして、1日、また1日と時間は進み、人肉を食いたいと飢餓感が増していく。
肉が、血が、欲しい。
この空腹感をミタシタイ。
我を忘れそうになる感覚が段々と多くなり、その度に女は私を食って? と言ってくる。
なんなんだこの女は、どうしてそんなに俺に食って欲しいなんて言うんだ。
疑問に思い、聞いたが女は頑なとして理由を話さない。
月日が経つに連れて、自分の意識があるのかもわからなくなった。
肉、食いたい。
血、飲みたい。
食いたい。
クイタイ。
ぼんやりとした意識の中、俺の両腕が女の首を締め上げていた。
女は苦しそうな顔でも、悲しい顔でもなく、パッと花が開いたような笑顔を俺に見せていた。
愛おしそうに、俺の腐りかけた頬を優しく撫でる。
「もう、だいじょう、ぶ、よ」
その声がした時、女の首の骨が折れた音が辺りに響いた。
そして、俺は飢えから逃れようと、あんなに拒んでいた女の肉を食い始める。
肉を胃に入れる度に、今まで感じていた空腹感が消えていく。
満たされていく。
あんなに苦しんでいた飢えが、感じなくなっていく。
初めて、初めて俺はその時、お腹が満たされた。
なのに何故だろうか……。
こんなにも胸が締め付けられるのか。
枯れたはずの涙が溢れてくるのか。
心がぽっかりと穴が開いたような感覚がするのか。
俺は……新たな飢えに悩まされた。
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