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シンプルさが胸を打つ「梨泰院クラス」

見るのが遅い!と言われそうですが。今更ながら梨泰院クラスを見ました。最初3話くらいまでは展開もゆったりめで、似合っていない高校生姿を見るのもしっくりこなくてなかなか歩みが遅かったのですが、4話くらいから一気にスピードアップ。楽しんでみる事ができました。

あらすじ

大都市ソウルの中でもひと際ホットな街で、小さな飲み屋を開店させた前科者の青年とその仲間たち。成功をつかむため、大物相手に無謀ともいえる戦いを仕掛ける。

Filmarks

成り上がりストーリー

あらすじの通り、前科者であるパク・セロイが仲間たちと共に飲み屋を経営、そして悪縁の相手である長家を潰す為に奮闘する…というシンプルストーリー。なにがこんなにもシンプルにさせるのかというと、主人公のパク・セロイが目標に対してまっすぐで、それだけにフォーカスしているというところ。あんまり他の要素に振り回されたりしないんですよね。

THE SWOONより。この不思議な髪型も段々かっこよく見えてくる不思議。

もちろん恋愛要素やその他の色々な描写もありますが、セロイは基本的には変わらない。ここまでブレずにひたすら突き進める人ってそうそういないと思います。セロイを見ていると、ここまで自分の信念を持って生きていけるってすごいな…となんだか勇気をもらったり。

少年漫画的な盛り上がり要素

韓国ドラマは次回への引きがめちゃめちゃ強くて毎回感心するのですが、梨泰院クラスは少年漫画のラストの様にアツい展開を期待させるラストが多くて。ついつい連続して夜更かししながら見ていました。3話か4話くらい(セロイが梨泰院に最初のお店をオープンするまで)はちょっとテンポが遅いかなあと感じましたが、そこからはハイペースでした。イソやグンスが関わってくる事で大きくストーリーにうねりが生まれて楽しくなった気がする。タンバムメンバー対長家という図式もスタンダードながらも、やっぱり見ていて楽しかった。

予告編より。このシーン、めちゃめちゃ好きです。

セロイの復讐の大きな手助けになったお金とその運用について、学生時代のいじめられっ子、イ・ホジンがファンドマネージャーとして登場した時はめちゃめちゃ少年漫画してましたよね…アツすぎる展開でした。
こうやって定番の少年漫画的爽やかさが表立っているけど、その内側にあるのはセロイの強烈な執着と復讐心で。そのギャップも大人が見て楽しい要素だったのかも。

複雑な人間模様と、自分

ザ・成り上がりストーリーではありますが、超競争社会である韓国でのマイノリティの描き方、働く事に対する信念、何があっても自分を貫くという事の難しさと美しさが徹底的に目をそらさずに表現されていてよかったと思っています。後ろめたくて見たくないもの、自信がなくて向き合いたくない事、たくさんあるけどドラマの中ではどんな事も容赦なく描かれるからこれまた面白い。特にパク・セロイ、オ・スア、チョ・イソの3人は全く違う特性を持っていて、同じ様な事件に対しても対処方法が全然違う。

予告編より。このシーン、なんだか微笑ましくて好き。

私を含めたほとんどの人たちがオ・スアの気持ちが分かってしまうと思うし、無意識に同じ様に長いものに巻かれて考えるのをやめてしまっている可能性があるけど、だからこそ「理解はできるが自分の信念は曲げない」パク・セロイや「理解はできるが空気は読めないんじゃなくて読まない」チョ・イソが疎ましく感じたり、眩しくて羨ましく感じる事もある。私はパク・セロイの様に自分も他人にも正直にブレずに生きていけるのっていいなあと思うし、ああいう生き方ができたら良いなあと思います。(という事は、今はできていないという事)

魅力的なキャスト陣

主人公のパク・セロイを始め、登場人物が全員最高にイイ!タンバムメンバーも全員良いし、長家側のキャラクターもみんな魅力的。

オフィシャルより。とても良いポスター。

タンバムのメンバーはみんな仲良さそうで、仲間!という感じが良いですね。全然違うキャラクター達なのですが不思議な結束力とバランスの良さが素敵でした。初期の頃の、右も左も分からない3人で必死だった頃もよかったし、軌道に乗ってきてバリバリ店を回していた時もよかったし、株式会社になって偉くなってもあんまり変わらないのも良かった。

なので、チャン・グンスが途中で長家に行っちゃうところは結構ショックだったし、一番最後にメンバーになったキム・トニーの登場シーンが微妙に少ないのもしょんぼり…(最後のシーンは一緒にいたので良かったけど)

登場した当初は容赦なくて、見ているこっちもちょっとカチンときてしまう様なキャラクターだったイソもだんだんと変わっていく部分もあり、セロイとイソの並びがしっくりくるから不思議。

オフィシャルより。まだ憎たらしかった頃のチョ・イソ。

キャラクターとして「ソシオパス」と設定されているので、発言も容赦ないし、人を食った様な態度でわざわざ相手を怒らせる様な事も多いし…でもど正論だから納得しちゃうし、結果がちゃんと付いてくるから周りもイソを認めてくれたんだろうなあ。一番彼女に振り回されたのはグンスでしたね…純粋で素直そうなグンス…闇堕ちするとは思わなかったよ…笑

そんなタンバムメンバーの中では、特にスングォンとヒョニが好きでした。

JTBCオフィシャルより。この2人ホントに良い。

スングォンは私が好きなリュ・ギョンス氏が演じているというのもありますが、シンプルに本作でのキャラクターがとっても魅力的でした。ちょっぴりおバカで、一生懸命でまっすぐで、ちょっと短気だけど基本的な筋は一本通っている感じ。15話、16話でイソを助ける為に親分のところに殴り込みにいくシーンはかっこよかったですねえ…本部長になっても「俺に合っているのはホールスタッフだ」っていうところも良い。現場に戻してくれって言ってたもんね。でもスーツ姿めちゃめちゃ似合ってるよ、スングォン。

予告編より。まっすぐでアニキ一筋なスングォン。

ヒョニは登場した時からそのビジュアルが好きでしたが、クラブで見せるロングヘア姿も、イソに言われて染めた黒髪ショートも、現代でのミディアムヘアも、どれも似合っていました。演じるイ・ジュヨンは割と中性的な雰囲気でスクリーンの登場する事も多い様ですが(「野球少女」もそうだった)ハスキーな声も相まってクールな印象があります。でも意外とキャーっと喜んでいる演技や、イソと引っ付いている時の姿なんかはめちゃめちゃ可愛かったり。ギャップが良いですねえ。ヒョニに関するエピソードは結構グッとくるものが多くて、トランスジェンダーであるというだけで、あんなにも非難されるなんて…と衝撃でした。(実際、韓国ではネガティブイメージが強いんだとか)個人的な事である性自認をアウティングされて、非難されて、傷ついているはずなのに、立ち上がってくる姿はかっこよかったです…!自分がマイノリティでなくても、勇気づけられるシーンだったんじゃないかなあ。

予告編より。この時のヒョニオンニ、めっちゃかっこよかった。

因みにスングォンとヒョニの2人、最終話のエピローグ的なところで映画見に行くシーンがあって(しかもちょっと小競り合いするという超かわいいシーン)なんだか嬉しくなっちゃいました。

THE SWOONより。無邪気なスングォンと無気力なヒョニ。

長家側はほぼ全員ヴィランなのですが、これがまた一筋縄ではいかない魅力的なヴィランでして…
チャン・デヒは1話から圧倒的パワーでありつつ、強烈なヴィラン。何が恐ろしいって基本的には彼が自ら手を下す事はないんですよね。セロイが退学になったのも自ら土下座を拒否したからであって。一応、チャン・デヒは「退学!」って言っている校長をなだめて「土下座してくれたらなかった事にするよ」って言ってくれたけど、それを拒否したのはセロイの選択な訳です。そういう要素もいくつかあったので、最初はセロイがチャン・デヒに対して恨み節なのがいまいちしっくりこなかったんですよね…君が怒っているのはチャン・グンウォンであってチャン・デヒではないのでは?と思ったり。まあ、全話通して見るとやっぱりチャン・デヒも悪かったなと思うんですけど。ちなみに私は、本作より先に「ヴィンチェンツォ」を見ていたので、「弱者の味方で素晴らしい人柄だったホン弁護士が…悪者に…泣」とか思っていましたけど、世間の皆さんは逆でしたね。

オフィシャルより。ヴィンチェンツォの時とは別人です…

そして息子のチャン・グンウォンは父のチャン・デヒとは違って暴走しちゃう自制の効かない暴走車タイプ。後先などなーんにも考えていないのですが、だからこそ何するか分からなくて怖い。劇中のビジュアルがジョーカーっぽいなあと思ったら、ご本人も意識していた様です。

オフィシャルより。この表情!

細い顔と体型にパープルのコートを着ていた時は、表情も相まって本当にジョーカーでしたよ。甲高い声で笑う感じとか、セロイ達を挑発する感じとかは「ザ・小物!」って感じだったんですけど、刑務所から出てきて→イソを誘拐あたりは、もう歯止めが効かなくなってしまっている感じがあって、前半での小物感よりもやばすぎる雰囲気の方が強かったなあ。演じるアン・ボヒョンは本作が初見で、1話の高校生時代は「無理があるのでは…?」とか思ったりしたけど、あの頃はグンウォンとしても未完成であって、大人になってから洗練された悪になっていく感じが良かった。アン・ボヒョン自身は穏やかな人っぽくて、バラエティ番組「知ってるお兄さん」に登場していた時は、ニコニコしている時と悪役を演じる時の切り替えが見事すぎて、演技だと分かっていてもちょっと怖かったな…

そして長家側におり、でもセロイの初恋の人であり、ほんでお前はどないしたいねん!とツッコミを入れたくなるのが、オ・スア。

オフィシャルより。正統派美人であるスアにはヤキモキさせられました…

1話〜3話くらいは、意思が強くハッキリとしていて、自立した女性になっていくのかなあと思っていたけど、大学の奨学金を長家に出してもらったあたりから彼女は段々と「長いものに巻かれていく」という立場を取った様に見えました。そりゃあ、長家は悪い事やってんな〜とは思っていても、被害にあったのはパク・セロイであり、自分は幼少期からずっと長家にお世話になっていて、大学も行かしてもらって、就職もできて、昇進もできて…そのある種恵まれた状況から自ら離れていくのは勇気がいるよね。ほとんどの人がその決断はできないはず。セロイの事も好きなんだろうけど、よく分からない態度で彼を翻弄している様に見えたりもして、どっちつかずだなあ…と、イラついたりしたのは内緒。とはいえ最後は自ら大きな決断をして、セロイの為ではなく、父の様に大切だったおじさんの無念を晴らすために長家に牙をむいてくれたのは良かった。きっとここから、スアの本当の人生が始まるのかも、と思えた瞬間でした。


全16話とボリュームがありそうに見えますが、4話くらいまで進んだら一気に見れるのでぜひ年末年始のお休み期間にも見てみていただきたい。私ももう一回見たいな~と思っています。

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