リバーシブル(8)表

第8章 鼓動

「…以上の理由から、今回の法案について決議したく、皆様にご説明となります」

麻由里は男性収入抑制の解除と少子化に関する一連の法案について国会内で演説した。

「では、賛成の方は挙手願います」
当然平等党で過半数は取れるのだが、今回に限っては他の党内からも賛成の声があがる。

「賛成の多数で法案可決となります」
(よかった…
これで、あとは最後のピースをはめれば終わり
長かったわ…)
麻由里は安堵の表情を浮かべていた。

本来であれば専門家や閣僚といった人とすり合わせを行いながら進めていくのだろうが、麻由里はスピード感を重視。
また既存組織については旧態依然という感覚から避けてきた。

そのため、すべて並行させながら綱渡り状態で進めていた。

それも、いよいよ大詰めとなり、ようやく安堵の表情が出た。
「総理、お疲れ様でした。
今回は他の党内からも賛成の声があり私も嬉しく思ってます」
「ありがとう、速水さん。
きっと私が男性を虐げる事しか考えてないと思っていたのだと思う。
でも、それは強引だったから仕方が無いと思ってる。
それが今回の演説で誤解だと理解してもらえたのかしらね」
「私も先日のお話で驚きました。」
「あら、速水さんも?
やっぱり強引過ぎたかしら…」
「いえ、スピード感があって良かったと思います。」
「ありがとう
ここからラストスパートだから、フォロー頼むわね、」

そういって麻由里はその場を後にする。

〜〜〜〜〜〜〜〜
法案可決によって企業単位で男性の待遇も改善され、社内の女性上位という風潮も少しずつ緩和され始める。
ただ、前政権と違い、やはり女性が社会の中心にいるという事には変わりなく、
社内でも男性の待遇は改善されつつ、女性主導で会社を回すという環境の中、男性にも少しずつ気持ちの変化が現れ始めていた。

「数年前は会社の役員なんて、ほとんど男が占めてたのに、女性役員が増えてどうなるかと思ったけど、前より活気が出てるよな」 
「私は今の上司好きだな。
前の上司は高圧的で。てもこれと言った具体的な指示もなくただ偉そうってだけで」

ランチの帰りに、ふと街中でそういう会話が聞こえてきた。
(確かに。
叱責させると、確かに厳しい事は言われるけど、ちゃんと何がダメでどうしてほしいかを明確に伝えてくるから、嫌な気持ちにならないんだよな…)
俺は、今の会社で街中で聞こえた話に共感していた。

(このなんか『嫌じゃない』って気持ち、俺だけじゃなかったんだな)

あの日生野に思い切り叱責されて以来、マメにコンタクトを取り、時に顔色を伺いながら自分の求められる資料を作るようになった。
最初は屈辱を感じながらも生活のため耐えていたが、今はそれが常態化している。
(俺も変わったんだな…)
そう思いながら帰社した。

昼休憩も終わり、早速生野から呼び出された。
『新垣くん、ちょっと。」
「はい、なんでしょうか」
「来週、会議があるの。
今回はかなり大掛かりな案件ね。
だから、今から伝える内容で資料をまとめてくれる?」
「わかりました」
「不明点や方向性の相談はいつもみたいに連絡頂戴。」
「ありがとうございます」 
「じゃ、頼んだわよ」

あれから生野からも頼ってもらえる人材になれたのか、よくこういった指示を受けるようになった。

「咲、あの子すっかり従順になってるじゃない。」
小林が意地悪く生野に話しかけてくる
「でしょ?
今は私のお気に入りなの」
「あんまり社内で噂になるような事にしないほうがいいよ。
私も経験したけど、あれめっちゃめんどいから」
「あら、自分の噂の事、知ってたんだ。
大丈夫気をつけるわ、ありがとう」
(いまの総理には本当に感謝だわ。
男を従えるのは気分がいい。
でも、男の待遇が戻るから気を引き締めないとね)

男女共に今回の法案で慢心さを改めるきっかけになっていた。


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