リバーシブル(7)裏

第7弾 弱者

「新垣くん、この資料どういうつもりかしら?」
俺はあのあと生野に合わせるような資料を作り、提出していた。
「課長が次の会議で発表しやすいような資料を心がけて作成したのですが、不備がありましたか?」
「不備?
そんな言葉では済まないわよ。
ホントに私に合わせた?
この情報はどこから出たの?
確証がないんだけど?
君の資料を見て、私は追加で調べなきゃダメなわけ?」
「あの…その確証はこちらに…」
「このデータで何がわかるのよ!
もういいわ。
この前の話は無かったことで」
「あ、そ…それは…困ります…」
「困る?
言ったことができないんだから仕方ないでしょ?」
俺は泣きそうな顔で生野を見つめていた
「何その顔。
年下の上司にこっぴどく罵倒されて泣きそうになってんじゃん。 
仕事も出来ない、何も言い返せない… ほんと惨めね」
俺は生活もかかっているため、ダメ元で生野に頭を下げる
「申し訳ありません。
どうか…もう一度だけチャンスをいただけませんか…?」
「………
ねぇ、謝るのってそんな姿勢じゃ無いよね?
謝罪もロクに出来ないのかしら」
俺は泣きながらその場で土下座し
「申し訳…ありません
どうか…どうかもう一度…チャンスをいただけませんか」
「ふふ、ちゃんと謝罪できたわね。
私も鬼じゃないから、ちゃんと謝罪出来たなら許してあげる。

でも、また同じ結果になりそうだから今日例の店に来なさい。
何が必要かみっちり教えてあげるから」
「ありがとうございます…!」

気がつけばうちの会社は男性社員が普通に女性上司に土下座をするシーンが目立つようになっていた。

男性がどんどん弱者となり、女性に支配されている会社…
そんなイメージが近いと感じる。

それなのに男性社員は離職をしない。 もちろん収入面の影響もあるのだが、理由はそれだけではなかった。

(最近、課長に思い切り怒られて泣きながら土下座させられてるのに、なんだ…この胸の高鳴りは…)
(嫌で辛いはずなのに…)

俺はまだ自分の変化を素直に受け入れることができなかった。

就業後、俺は生野の待つ店へと向かった。

「新垣くん、こっちよ」
声の方に向かう
「では、行きましょうか。」
この店は会員制のため、会員が同伴でないと入店出来ないため、毎回店の前で待ち合わせて一緒に入店している。

気が付けば、この店も度々訪れるようになっていたが、未だに会員にはなっていない。
というより、会員の条件を満たせておらず会員になれない。
「君は絶対ここの会員にはなれないから、面倒だけど仕方ないからこうして入口で待ち合わせるの。
他の店だとあんまり落ち着いて話できないから、私がここを指定してる以上仕方ないんだけどね」
「すみません…」
「いいわよ、別に。
収入面は別として、そもそもの規約が女でないと会員になれないから。
君が女装でもして会員になるなら話は、別だけど」
俺は相変わらず意地悪いと思いながら
「俺が女装なんてしても、モロ男だから無理ですよ」
と冗談と捉えるように答えた。

店内に入るといつものオープン席ではなく、半個室のような場所に案内された。 

「今日はこういう席の方が話しやすいと思って、ここにしたのよ」
生野がこの場所を店側に指定していた。「お気遣いありがとうございます」
素直に俺は礼を述べた。

「さて…と、じゃ本題に入ろうかしら。」
軽くアルコールが入った所で生野が切り出した
「お願いします」
「まず、君は私がどういう立ち位置か理解出来てる?
君より若いけど、今の課をまとめてる立場で君を含めて部下が準備した資料やプロジェクトの進捗を確認して、計画の進捗管理や新規プロジェクトの立案や計画をしてるの
その中で、【資料】は君のパートになるのよ。
そこは理解出来てる?」
「はい、大丈夫です。」
「その資料とプロジェクトの進捗状況を確認して報告するって言ったけど、君の資料だとプロジェクトとの関わりが弱く、結局私が再調査して確証にできるような資料を作ってるのよ」
「はい…」
「君の言いたい事はわかるわ。 
そういう橋渡し的な所は私のような管理職の仕事だって。
私も理解してる。
でもね、君は言ったよね?
『私に寄り添った資料を作る』って。」
確かに言った。
収入をキープするためだと考え、口にした。
「はい、言いました」
「それなのに、いつもの資料と対して変わらないものを準備してきたわよね?
君は自分の範囲内だけで私に寄り添えてるって思ってる?
それなら、ダメ。
話にならないわ」
俺は何も言い返せなかった。
確かに自分の範囲でしか物事を見てなかった。
ただ、越権行為にならないか…
そんな気持ちもあり
「申し訳ありません。
仰る通り自分の範囲でしか見れてませんでした。
範囲外のものは越権行為に当たらないかと考えてしまい…」
「あら、言い訳?
それに、君は資料を作成するために私に何度もすり合わせの時間がほしいと言って来たわよね?
その私の貴重な時間を取ってるんだから、そういう部分は相談すべきではないの?」
返す言葉がない
「これが、私が叱責した理由。
で、社内で土下座させたわけだけど、今考えたら君とすり合わせした時間の事を踏まえると腹が立ってきたわ。
ホントはあの土下座謝罪で今回は許すつもりだったけど、気が変わりそう」
アルコールが入ったせいか、理不尽な事を言われてしまう。
「あ、あの…
どうすれば、許していただけますか…?

俺、できる事はなんでもします。
だから、お願いします!」
生野が意地悪く笑う
「うふふ、必死ね。
ホントに惨め。
そうねぇ、ホントになんでも出来るの?」
「はい」
「じゃ試そうかしら。
ここで全裸になって、会社の時みたいに土下座してよ。
できるでしょ?」
「は…い…」
俺は返事してしまった。
全ての服を脱ぎ、全裸になり
土下座で謝罪した。
「課長、申し訳ございませんでした。
今後、このような事にならないよう努めますので、どうかお許し下さい」
「あはは。
本当にしたね。

じゃ、そのままの格好でこう言いなさい
『歩を咲様の奴隷にしてください』って。

ほら、さっきより簡単だから当然できるわよね?」
俺は動揺した
「え、奴隷??」
「あら、言えないならこの話は無かった事にするから、服を着て店を出て良いわよ。
お疲れ様、口だけ君」
退路を絶たれた気がした。
「課長…
いや、咲様…
歩を咲様の奴隷にしてください」
(もう、後戻りできない…)

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