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海外旅行の代わりに、世界中の児童書を読むなんてどうでしょう?  ――編集者おすすめの1冊

なかなか海外旅行に行けない今日この頃。様々な国の文化に触れることができるのが海外旅行の醍醐味のひとつですが、翻訳作品を読むことでもそれに近い体験ができるかも? そこで今回は、読めば旅をしたかのように楽しめる作品や、日本から世界へと視野を広げるきっかけになるような作品をご紹介したいと思います!

今回登場するのは、こちらの7作品。気になるタイトルを見つけたら、見出しをクリックしてみてくださいね。

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【From タンザニア】
おもしろすぎて心臓が高鳴る!
『しんぞうとひげ』


(再話/しまおか ゆみこ 絵/モハメッド・チャリンダ)

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いよいよこの作品をご紹介できるチャンスがやってきました。

アフリカに伝わる民話を絵本にした『しんぞうとひげ』です。 

刊行されたのは今から6年ほど前ですが、初めて読んだときから大好きな作品なのです。

まずは、見返し(表紙をめくってすぐのところ)にご注目。

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アフリカの昔ばなしは、

「きにいったなら もってきな。いらなきゃ 海に すてとくれ」

と言っておわる、と書かれています。

なんて勢いのある言葉! 人々のおおらかさまで感じ取れるではありませんか。

私はこの時点ですでに心をつかまれているのですが、肝心のお話はこれから。アフリカに思いを馳せつつページをめくると、

「むかし むかし、あるところに、しんぞうと ひげが おりました」とい
う一文からはじまります。

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しんぞうとひげ。

組み合わせが面白いですし、どちらも見事に擬人化されています!!

「ひげ」が「しんぞう」を食べようと追いかけまわしたり、「しんぞう」が通りすがりの男の人の体の中に隠れたりと、想像を超える展開の連続に驚きが止まりません。こんなに先が読めないお話にはなかなか出会えるものではありません。

読み終わる頃にはすっかりこの絵本が大好きになっていました。

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▲作中より。「しんぞう」が空腹すぎて悶々としている場面

本作の絵は、タンザニアで誕生した絵画スタイル「ティンガ・ティンガ」で描かれています。ティンガ・ティンガは6色のエナメルペンキで色鮮やかにのびのびと描く、アフリカを代表する現代アートです。

絵を描かれたモハメッド・チャリンダさんはティンガ・ティンガ界の大御所。「日本のこども達に、タンザニアの事をいっぱい知ってほしい」という思いをこめられたそうです。そのお言葉の通り、たくさんの動物たちや、カシューナッツ、マンゴーの実、キリマンジャロなど、タンザニアの豊かな自然や風景がいたるところに描かれています。

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鮮やかな画面からアフリカの日差しや自然、人々のおおらかさまで感じ取れる『しんぞうとひげ』。ぜひたくさんの人に読んでいただきたい作品です!
(富山なつき)


【From カナダ】
文字のない絵本の世界を味わおう!
『おはなをあげる』


(作/ジョナルノ・ローソン 絵/シドニー・スミス)

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次に紹介するのはカナダの絵本、『おはなをあげる』

自粛生活が続くこのご時世、ふと身近な草花に心が癒された瞬間、ありませんでしたか? そんな道端に咲く花のように、読む人の心に優しい彩りを与えてくれるのがこの作品。文字なく描かれていくストーリーに、思わず惹き込まれるんです…!

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お話はモノクロで描かれた街並みから始まります。歩いているのは女の子とお父さん。赤いコートが特徴的です。

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女の子は街の色々な場所からお花を集めていきます。文字のない絵本のページをめくっていく感覚は、映画のワンシーンを観ているかのよう!

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そして、横たわる小鳥にお花を添えるこの場面。ここから、モノクロだった世界がだんだんと色付き始めます…!

色使いと共に表現されているのは、お花をあげることで広がる女の子の優しさでしょうか。色々と自由に想像しながら本を楽しめるのも、文字のない絵本の魅力です。

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たくさんのお花が描かれた見返しもステキ! 漂う外国の雰囲気を味わいながら、静かな、でもあたたかいストーリーを堪能してみてください!
(長谷川舞)


【From 東ティモール】
東ティモールという国を知ること。そして、日本という国を考えること。
トイレをつくる 未来をつくる


(写真・文/会田法行)

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印象的なタイトルのこの絵本は、写真家の会田法行さんが、東ティモールを訪れて撮影し、文章を書いた作品です。
東ティモールは2002年に独立した、アジアではもっとも若い国だそうです。

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「トイレ」が「未来」をつくるとは、一体どういうことなのか? この言葉と、美しい空と緑の風景に興味をひかれ、自分はこの本を手に取りました。

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せっせと穴を掘るフランシスコさんの姿。これは、トイレを作っている様子です。日本では当たり前のように、街のあちこちにあるトイレですが、東ティモールでは独立前後の混乱によるインフラの未整備や、屋外排泄の習慣により、まだまだトイレの数が十分ではありません。

屋外でうんちをすると、蠅を介して食べ物についてしまったり、飲み水となる川を汚してしまったりします。そうした不衛生な環境のため、今も多くのこどもたちが感染症で命を落としているそうです。
清潔な「トイレ」を作ることは、東ティモールの「未来」と直結した問題で、独立したばかりの国を築いていくこどもたちを救うための、大切な場所が「トイレ」なのだと知ることが出来ました。

こうした現実や、それを変えるために活動支援を行う人達が沢山いることは、普段の生活を淡々と続けているだけでは、知り得ないことです。遠い国の問題を自分の生活に引きつける、これも読書の大切なことのひとつではないでしょうか。
しかしそれは、本当に遠い国の問題なのでしょうか?
この本の素晴らしさは、東ティモールの雨の夜に、会田さんが記憶をたどる場面にあると思います。

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東日本大震災を取材した会田さんは、津波ですべてが流された被災地で、小学校の仮設トイレの大切さに気づいたそうです。当たり前に存在するものが、実はこんなに大切だったということ。東ティモールで起きている問題を、自分の体験や記憶に手繰り寄せて書いているので、とても現実感があります。
日本では空気のように存在するものが、別の国では命を左右するほど大切なものであること。だとしたら、それは、決して「トイレ」だけに限らないはず……と、読みながら私はそんなことを考えました。

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この絵本は、2008年から始まったネピアの「千のトイレプロジェクト」に会田さんが感銘を受け、それをきっかけにして東ティモールのマヌタシ村で取材が行われたものだそうです。絵本刊行後も、現在まで着実な活動によって成果をあげているとのこと。
この絵本を読んだり、プロジェクトのウェブサイトを見るなどして、まずはこの取り組みにについて知ってみることをおすすめします。
(齋藤侑太)


【From フランス】
17世紀、フランスが舞台の大冒険物語
『三銃士』


(A.デュマ・作/松原秀行・文/佐藤真紀子・絵)

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お話の舞台はルイ13世時代のフランス。国王を守る銃士隊に入ることを夢見てパリへやってきた青年ダルタニャンは、パリで一番強いとされる三銃士と出会うたびに、タイミングが悪く決闘を申しこまれてしまいます。

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決闘の後、三銃士とダルタニャンの間には友情がめばえます。
ダルタニャンと三銃士はその後、王妃様のピンチを救うため、イギリスへと旅立ちます。
行く手を阻む恐ろしい敵と巧みな罠。
四人は無事にイギリスへたどり着き、王妃様の危機を救うことができるのでしょうか。

子どものころ、いちばんドキドキハラハラしながら読んだのが「三銃士」の物語でした。
迫りくる敵に恐る恐るページをめくったり、自分よりも仲間のために行動する四人の姿に胸が熱くなりました。

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「みんなはひとりのため、ひとりはみんなのため!」

この作品のキャッチフレーズともいえるこの言葉は、大人になった今もたびたび思い出し、子どものころのまっすぐな気持ちを思い出させてくれます。

暑い夏に、ぜひ熱い熱い友情冒険物語を読んでみていただけたら嬉しいです。
(浪崎裕代)


【From イギリス】
きょうも世界のどこかで働いている、機関車たちのお話
「新・汽車のえほん」シリーズ

作/ウィルバート・オードリー
絵/レジナルド・ダルビー<1~11巻>、ジョン・ケニー<12~17巻>、ガンバー&ピーター・エドワーズ<18~26巻>
訳/桑原三郎、清水周裕

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『新・汽車のえほん』は、人気アニメーション「きかんしゃトーマス」の原作。1巻目はイギリスで1945年に刊行されました。

世界のどこかにある島で、一生懸命はたらく機関車たちの物語です。

ちなみにトーマスは2巻で初登場。

今回のテーマが「読めば旅をしたかのように楽しめる作品」なので、12巻『8だいの機関車』をご紹介します。

この巻に収録されている「ふとっちょ局長の機関車たち」が、イギリスに行くお話なのです。

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"ふとっちょ局長"とは、機関車がはたらく鉄道の責任者。厳しくも愛情深く、機関車たちからの信頼も厚い方です。

局長は、「汽車のえほん」を読んでいるイギリスの人々に、えほんに登場する機関車を実際に見てもらおうと考えました。

イギリス本島に行けると聞いたトーマスたちは、汽笛をならして大よろこび!

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ところが、浮かれすぎたトーマスは、仕事の引き継ぎ中にうっかり事故を起こして故障してしまいます。

局長には、あしたの出発時刻までに直らなければ留守番だと言われ……。

果たしてトーマスは、イギリス行きに間に合うのでしょうか?

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『新・汽車のえほん』の表紙は、収録話の中で印象的なシーンの挿絵を使っています。

この12巻の表紙はどのシーンか、ぜひ探してみてください!

(新村みづき)
©︎ 2021 Gullane (thomas) Limited.


【From アメリカ】
スピンオフと侮るなかれ
「グレッグのダメ日記」シリーズのスピンオフ第2弾
『ロウリーのいい子アドベンチャー』


(作/ジェフ・キニ― 訳/中井 はるの)

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スピンオフの、しかも2巻目……。紹介するには中途半端?と思われそうですが、そんなことはありません!

子どもの日の記事でもご紹介した『グレッグのダメ日記』でおなじみのグレッグは、ちょっとずるくて皮肉っぽくて、でもどこか憎めないダメな男の子。そんなグレッグの親友ロウリーは、優しくて、パパとママがだいすきないい子。正反対なふたりですが、なんだかんだいつも一緒にいます。

スピンオフ第1弾の『ロウリーのいい子日記』では、ロウリーがグレッグの伝記を書きました。

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↑ふたりの初対面のシーン 上は『グレッグのダメ日記』、下は『ロウリーのいい子日記』より。イラストのタッチが違うのも見どころ


グレッグシリーズといえば日記ですが、本作はなんと日記ではありません。ロウリーが冒険物語を書いたのです!

いい子の少年ローランドが、魔術師ホワイトにさらわれたママをすくうため、親友ガーグと冒険の旅に出る!というお話です。なんともいい子のロウリーらしいお話ですが、一筋縄ではいきません。ロウリーの頭の中はこんな風になっていたんだ!とびっくりするような展開の連続です。

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 ↑ガーグとローランド。誰かに似ているような……?

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 ↑なにやらおもしろそうな冒険の地図 

この冒険物語だけでも十分おもしろいのですが、これだけでは終わりません。

ロウリーがお話を1章書きおえる度にグレッグに見せて、グレッグがダメ出しを連発するのです。これが妙に的確で、思わず笑ってしまいます。

たとえば、

たくさんキャラクターがいた方が、ファストフード店のおまけにするときに便利

後で映画やゲームにもできるような話の展開にすべき

人のけんかを見るのはみんなすきだから、登場人物に本気のけんかをさせるべき」etc
※あくまでグレッグの見解です。     

これらのアドバイスを受けつつ、ロウリーはお話を書き進めていきます。

このやり取りを通して、「グレッグってロウリーが相手だと必死だな」とか「ロウリーって意外と頑固だな」など、ふたりの新たな一面が見られるのが本作の楽しいところです。「ダメ」だけど、「いい子」すぎるけれど、誰にでもどこか共感できる部分があるふたりの魅力が、さらに深まっています。

ついに日記をとびだしたグレッグとロウリーの世界。ファンのみなさんはもちろん、今まで読んだことがないという方にも、これからのシリーズを楽しむうえで、ぜひ読んでほしい1冊です。
(どうやら第3弾でも、ロウリーはお話を書いているようです👻こちらもお楽しみに!)

(百瀬はるか)


【From イギリス】
身近なものから世界を感じる!
『旅でみる 世の中のしくみ大図解』

(作/リビー・ドイチュ、絵/バルプリ・ケルトュラ)

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なかなか旅行もできない昨今。この状況がよくなったら、どこ行こうかな~ここ行きたいな~と、ガイドブックや旅行サイトを見ている方も多いのではないでしょうか。(わたしもその1人!)

さてそんなふうに世界へ思いを馳せるのにぴったりな、イギリス発の絵本をご紹介します!

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スーパーのバナナやチョコレートはどこから来たの? ネットショッピングやGPSのしくみって? 身近な物事の普段は見えない裏側の流れを、「旅」に例えて紹介する図解絵本です!

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チョコレートの旅。そのほか、紹介されている「旅」はぜんぶで20!

手紙牛乳バナナなど身近なものから、電話映画お金など、大人も実はよく知らないしくみも、ポスターのような1枚絵で図解されています。

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GPSの旅。おばあちゃんのスマートフォンで、コンサート会場を探しますが…? というストーリー仕立てになっています。

ジーンズ

ジーンズの旅。社会見学気分を味わえるのも魅力です!

ネットショッピングで何かを買った時、仕事の合間にチョコレートをつまんだ時、朝ジーンズをはいた時。

あれ? これってどんな旅をしてきたんだろう……? 海を渡って、空を飛んで、ガタガタ電車に揺られて…… そう想像すると、ちょっと視界が開けて気持ちも軽くなりませんか?
外出もしづらい今はひとまず、絵本で世界を感じてみるのはいかがでしょうか!

バナナ

つるされ、洗われ、海を越え、熟成され…世界をぐるっと回るバナナの旅。

(上野 萌)