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12月10日、アニメーション映画がついに公開! ロングセラー絵本「ティラノサウルス」シリーズの魅力を紹介させてください。

『おまえ うまそうだな』からはじまる「ティラノサウルス」シリーズ(宮西達也/作絵)は、2003年3月に第1巻が描かれ、最新刊の『キラキラッとほしがかがやきました』まで、15冊が刊行されています。

 恐竜好きのお子さんから、大人の方まで多くの方に愛されてきたシリーズの魅力をあらためて考えてみたいと思います。

まずは、目を引くかっこいい恐竜のデザイン

 シリーズには毎回主人公として登場するティラノサウルスと、そのティラノサウルスと関わりをもつことになるいろいろな恐竜が登場します。
 主人公のティラノサウルスは、強く恐ろしそうに、堂々としたかっこいいデザインです。

主人公のティラノサウルス

 出会う恐竜たちは、とても柔和で、優しそうな顔をしています。

各巻で出会う恐竜たち

 作者の宮西達也さんは、描いてきた恐竜たちについて、こうおっしゃっています。

「恐竜は、大昔、確かに実在した生き物なのに、まだ、あまり多くのことがわかっていない。指の本数や大きさはわかっても、どんな色をしていたかなどは謎につつまれていて、ミステリアスな存在。だから、自分の想像を膨らませて僕の恐竜を作り上げることができるんです」

 ティラノサウルスは、最大級の肉食恐竜。宮西達也さんの描く絵もとても力強くて怖いイメージの強いキャラクターです。まさに、出会ったら最後すぐに食べられてしまうと思うのですが、そのイメージをくつがえす絵本のストーリーに毎回涙をこらえることができません。

 絵本のティラノサウルスたちは、毎回ちがうティラノサウルスなのですが、小さなあかちゃん恐竜や、純粋無垢なこども恐竜、やさしい恐竜たちに出会うことで、はじめて愛や友情を知ることになるのです。

描かれる愛のリアリティ

 第1巻の『おまえ うまそうだな』では、食べるつもりであかちゃん恐竜におそいかかろうとしますが、「おとうさん!」と間違えられて、思わずおとうさんのふりをしてしまいます。最初は<ふり>のつもりだったのに、どんどんあかちゃんを愛しく思うようになっていきます。

表紙
食べようとするシーン。怖い顔。
優しい表情に変化!

 宮西達也さんは、このシリーズを描こうと思ったきっかけについて、こう語られています。

「お金や権力を持つ人、力の強い人が本当にえらいのかな? 力はないけれど純粋なあかちゃんとどちらがすてきだろう。そして、一見怖そうに見える人の心の中にもきっと優しさや思いやりの心はあるはず。権力の象徴としての世界最強の恐竜ティラノサウルスと、あかちゃん恐竜を出会わせたら、どんなお話がうまれるだろうと考えました」

 こうしてうまれた『おまえ うまそうだな』以降も、宮西達也さんは、この[ティラノサウルス]シリーズの中で父と子の愛、母と子の愛、友情といったさまざまな形の愛を描いています。それらの愛は、自分のことよりも相手を想う深く強い愛です。宮西達也さんは、以前打ち合わせの中でこう語ってくださいました。

「自分のことよりも誰かを想うくらいの強い愛はすてきですよね。実際にもし、自分が大変な状況になったとき、相手を守れるのか、自分よりも相手を守れるのかはわかならいけれど、絵本では理想を描いてもいいじゃないかなと思うんです」

 私たちは、自分もこうありたいという気持ちをティラノサウルスに重ねて読んでいるのかもしれません。
 けれど、理想を描くとはいえ、描かれている愛はあまいものではなく、最後には、決別の時を迎えます。

『あなたをずっとずっとあいしてる』より決別を予感させるシーン


 愛し愛されたとしても生きる道が違うティラノサウルスと草食恐竜たちは、「仲良くくらしました」という結末にはならないのです。
 想いあうからこそ別れなければならないというところまで描くことで、リアリティを感じ、より深く感動する物語になっているのです。

せつない物語にかくされたユーモア

 このシリーズは、どれもせつない愛を描くお話なのですが、かならずどこかでクスリとわらわずにはいられないシーンが描かれています。

 ティラノサウルスが、出会った恐竜と、どう接してよいのかとまどったり、まじめに話しているセリフでも読者から見るととてもおもしろく思えたりするシーンがあるのです。

『おまえうまそうだな』よりあかちゃんを育てるシーン
『ずっとずっといっしょだよ』よりプテラノドンに翻弄されるシーン

 宮西達也さんは、「どんなに悲しいお話でも、少しでも、あははと笑えるところを作りたいんです」とよくおっしゃっていますが、これは、宮西さんの優しいお人柄からにじみでるものだと思います。誰かと話しているとき、宮西さんは、相手を笑顔にさせようと、一言一言話されて、周囲はいつも笑顔と笑い声がたえません。

いつもニコニコ笑顔の宮西先生。講演会ではパペットを使った寸劇も披露します。

『おまえうまそうだな』が発売されてすこしたったとき、ある書店員さんが、<せつなくも優しい涙があふれだす>というキャッチコピーを書いてくださったことがあります。

 このフレーズは、15冊続いてきた今も、この[ティラノサウルス]シリーズの全体の魅力を伝える言葉となっています。
 どうしようもない別れがくるとしても、だれかと心を通じ合うことのすばらしさに気づかせてくれるこのシリーズは、深く私たちの胸をうつのだと改めて感じています。

 この「ティラノサウルス」シリーズは、絵本をとびだし、現在アニメーション映画「さよなら、ティラノ」が公開中です。宮西達也さんのデザインとはちがうアニメーションの恐竜たちが、愛の力でさまざまな困難を乗り越えていきます。

2021年12月10日(金)全国公開

 なんとオープニングには絵本の絵が現れ、ナレーションを宮西達也さんが行うという珍しい始まりになっています。絵本の世界からアニメーションの世界にすっと入っていける美しい導入部です。

 ぜひ絵本と映画で、寒い冬に心を温めて、あらためて身近なひとの思いやりや、やさしい気持ちを感じていただければと思います。

 そして、2021年12月19日までは、静岡県三島市の佐野美術館で、<宮西達也の世界ミラクルワールド絵本展>が開催されています。

佐野美術館の入り口

 この絵本展では、「ティラノサウルス」シリーズだけでなく、これまでの宮西達也作品の原画・複製原画や、ラフスケッチ、大学生時代の絵などなかなか見ることのできないものも展示されています。

[ティラノサウルス]シリーズの複製原画
[ずっとずっといっしょだよ]ラフスケッチ
間にいる恐竜たちはなんと宮西さんの手作り!
時間を見つけて読者に会いにくる宮西達也さん

2021年12月19日までに、お近くにいらした方はぜひ足を運んでみてください。もしかしたら宮西達也さんに会えるかもしれません。