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「ポプラズッコケ文学新人賞」大賞受賞作を徹底紹介&選考の裏側まで語ります!【児童書作家デビューへの扉#01】

子どもが自分で考え、動き、成長するものがたり。
子どもたちが自分で選び、本当に読みたいと思えるものがたり。
そんな作品を、子どもたちに届けられる新たな書き手に出会えるよう、2011年にスタートした「ポプラズッコケ文学新人賞」。
これまでの大賞受賞作を、選考に関わってきた編集の担当者たちが各回の選考会の記憶や記録を振り返り徹底的に紹介、選考の裏側までを語ります。
いま、子どもたちに届けたい作品、求められている作品が、ここから見えてくるかもしれません。児童書作家デビューをめざすみなさん、必読です!

ズッコケ受賞作_トップ見出し

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今回は、第3回大賞受賞作「焼き上がり5分前!」(作・星はいり)第4回大賞受賞作「さくらいろの季節」(作・蒼沼洋人)を紹介します。

焼き上がり5分前書影

▲『焼き上がり5分前!』作/星はいり 絵/TAKA

さくらいろの季節書影

▲『さくらいろの季節』作/蒼沼洋人


★第3回大賞受賞作
「焼き上がり5分前!」作/星はいり

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「ズッコケ三人組」のような主人公たち

この回の応募総数189編の中で、一次、二次選考を経て最終選考に進んだ作品はこの受賞作1編のみでした。
それだけ、他の作品を凌駕する魅力ある作品と評されたこの作品は、ズッコケ三人組のような行動力のある3人の小学生、俊足でせっかちだけれど器用な男の子めぐると、めぐるの同級生、あかりとさとしという酒屋の跡取りらしく商魂たくましいふたごの姉弟が主人公です。

めぐるがスニーカーを買うためにもらったお金でゲームを買ってしまったピンチをきりぬけるため、3人で、おじいちゃんのパン屋さんでアルバイトを始めるところから話が始まります。
最初はお金を稼ぐために始めたアルバイトでしたが、「創作パン大賞」に応募することをきめたところから、パン作りに夢中になっていきます。
そんな中おじいちゃんが倒れたり、存在すら知らなかった伯父と名乗る人物が現れたりと、ハプニングももりだくさん。

ワクワク感と飽きさせない文章力

この作品の一番の魅力は物づくりのワクワク感と、読み手を飽きさせない文章力、そして大人にはできない突飛な発想を現実に変えていく子どもならではの恐れを知らぬ行動力です。
那須正幹先生も、選評でこう語っていらっしゃいます。

一般に物づくりの物語というのは、作り手も読み手も大いに興味を掻き立てられる題材ではある。アンパンづくりという、一風変わった素材をうまく作品化していた。文章も読みやすく、三人が苦労しながら昔ながらの味に挑戦するプロセスも、思わずハラハラドキドキしながら読ませてもらった。また結末の付け方も、それなりにカタルシスがあった。

主人公の3人は、パン作りのアイディアを出し合い、まわりの大人もうまく巻き込んで自分たちのパンを作り上げます。

子どもの考えや行動力を信じる精神

那須先生は、「子どもには子ども時代にしかできないことをたくさんさせてあげたい」と思われていたそうで、「ズッコケ三人組」の三人も、いろいろな事件に遭遇したり、思いついた冒険をしたりするときも、子どもならではのアイディアと行動力できりぬけていました。
そういう子どもの考えや行動力を信じる精神が「焼き上がり5分前!」にも受け継がれていたように思います。

ただし、そんな子どもたちの行動力、頑張りには拍手を送りつつ、その行動の発端は、元々は使いこんでしまったお金を親に気づかれないように稼ぐという目的から始まったこと。きちんとダメなことにも気づかせて、子どもたちに新しい一歩を踏み出させる結末には清々しさを感じ、作者の凛とした考えが通った作品でした。

(文・浪崎裕代)


★第4回大賞受賞作
「さくらいろの季節」作/蒼沼洋人

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リアルで繊細な描写、鮮烈なイメージの応募作!

つづいて、第4回「さくらいろの季節」を紹介します。
2014年度の第4回目の選考会は、もう7年前になります。けれど、「さくらいろの季節」から受けた鮮烈なイメージは今もくっきりと残っています。

主人公である小学校6年生のめぐみ、低学年の頃からの親友の優希、そしてかつては仲良し3人組だったのに、今では距離ができてしまった理奈――3人の少女たちを中心に描いたこの物語には、揺れ動く少女たちの心情が繊細かつリアルに描写され、心をつかまれました。

少女たちに寄り添う感性と共感力

作品は、学校生活の中の心弾むエピソードから衝撃的な事件まで、光と影が激しく交差するように展開し、めぐみたちを取り巻く空気や人間関係は徐々に息苦しいものになり、終盤、一気に緊迫感が増します。

読む者をひき込む巧みな文章力はもちろん、当時34歳の作者、蒼沼洋人さんの12歳の少女たちに寄り添う感性と、想像し共感する力に高い評価が集まり、これからも是非子どもたちに届く作品を書いてほしい! というのは、ポプラ社編集部の選考委員ほぼ全員に共通した思いでした。

ズッコケ文学新人賞らしさとは?

ズッコケ文学新人賞といえば、多くの人は「ズッコケ三人組シリーズ」のようなユーモア読物や冒険物語のイメージを持たれるかもしれません。私たち選考委員も「那須正幹先生は、『さくらいろの季節』は賞のイメージに合わないと思われるかもしれない」と心配しながら本選考に臨みました。

ところが、那須先生は「応募作品を読了した時点で『さくらいろの季節』が大賞だと決めていた」とおっしゃったのです。選評でこう語っていらっしゃいます。

登場人物が生きていること、ストーリーに作り物めいたものを感じさせないことが第一の理由。作品は、いわゆる学級ものと呼ばれるもので、主人公「めぐみ」のクラスでは、かつての友人である理奈がボスとして君臨し、担任教師ともいざこざが絶えない。教師に好意を持つめぐみは、理奈グループに抵抗し、いじめのターゲットにされる。クラスの確執を通して、自我に目覚め成長していく主人公の心の揺らめきを丁寧に追っているところに好感を持った。

ズッコケ文学新人賞について、ポプラ社HPでは、今を生きる子どもたちが「お腹を抱えて笑い、そして心から泣ける」児童文学作品を心よりお待ちしております! と呼びかけています。けれど、それは必ずしも、ジャンルやテイストを限定する言葉ではないのです。子どもたち、そして自分自身にまっすぐに向き合い、子どもたちの心をいきいきと動かし、生きることを励ますすべての作品に対して等しく、ズッコケ文学新人賞は大きく開かれています。

ズッコケ文学賞といえば、ユーモアや冒険活劇のみが対象と誤解されるかもしれないが、現在の子どもをきちんと描いた作品なら大歓迎である。
――那須正幹

(文・松永緑)


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