「どうせ公開するならプロットだけではつまらない!」――作家と編集者のやりとり、全部お見せします。
きっかけは、なにげないツイートだった。
「すでに書籍発売済みの作品プロットってnoteで公開したら需要ありますか?もちろん、版元の許可が要るので公開できるかは不明」
作家デビューして痛感しているが、書籍が完成するまでには長い道のりがある。
商業出版である以上、好きなことだけ書くわけにはいかないし、編集さんのフィードバックを受けて、色々と調整する必要もある。
最終的には、最初のプロットからかなり形が変わっていることだってある。
そんな「本の設計図」を知りたい人はいるだろうか。
いるかどうかわかんないから、とりあえずツイッターでアンケート取ってみるか。
そう思ってなにげなく呟いたところ、ポプラ社の編集さんから超速でメールが届いた。こちらから聞く前に。ツイートから1時間も経っていない。
「めっちゃいいですね。やりましょう!」
反応早! ヒマか! ツイッター見てないで仕事しろ!
とおののきつつ、やっちゃっていいらしいので、2019年11月に刊行された『執筆中につき後宮ではお静かに』のプロットを公開してみることにした。
どうせ公開するなら、プロットだけではつまらない。
企画がどうやって始まって、プロットになったか。プロットに編集がどんな細かい指摘を入れてきたか。それを受けてどう修正したか。
そういうの全部公開しちゃったほうが面白い!
と、ノリノリで掛け合って許諾も得たので、企画の発端→企画書→プロット→編集フィードバック→修正プロット→プロットから原稿で変わった点など、作品が完成するまでの裏側を包み隠さずお見せします。
「本の設計図」は作家の手の内でもあるので、有料記事とさせてもらいました。
原稿がどんなふうにして完成しているのか。また編集がどんな指摘を入れているのかなど、製作の裏側にご興味あるかたは、よかったらご覧ください!
※当然、作品のネタバレがございます。ご了承ください※
田井ノエル
『執筆中につき後宮ではお静かに』
<内容紹介>
小説家を目指す娘・青楓(ただし才能は皆無)は、自分の部屋を持てて引きこもれる、という理由で後宮入りし、日々執筆にいそしんでいた。ある夜、原稿応募のために出歩いていると、謎の襲撃者たちに遭遇する。間一髪のところを助けてくれたのは、なんとこの国を統べる皇帝だった。
創作活動でムダに蓄えた知識を買われた青楓は、執筆の平穏を条件に、後宮で起きた不審死事件の真相を掴むべく、囮になることを命じられるが――。
愛憎渦巻く後宮にて、変わり者妃が謎を解き明かす!
<田井ノエル プロフィール>
愛媛県在住。『道後温泉 湯築屋 暖簾のむこうは神様のお宿でした』で「第6回ネット小説大賞」を受賞しデビュー。主な作品に「道後温泉 湯築屋」シリーズのほか、『松山あやかし桜 坂の上のレストラン《東雲》』『前世悪役だった令嬢が、引き籠りの調教を任されました』『おちこぼれ退魔師の処方箋 ~常夜ノ國の薬師~』など。
《打ち合わせ》
まずは打ち合わせから。
場所は都内某所。
初対面の作家と編集さんのこんな会話から企画がはじまる。
田井「調べ物は嫌いではないですよ。初挑戦ジャンルを書くときは、たいていがんばって調べています」
編集「もしかして……中華とか、書けますか?」
田井「書いたことはないです……読んだのも、昔の『彩雲国物語』とか『十二国記』くらいで。あと、自分と同じ出版社さんから出ている新作は最近読みました」
編集「中華なかなか書ける作家さんいらっしゃらないんですよね……」
田井「ですよねー。むずかしそうですもん。あ、でも、後宮には入りたいですよ。だって、皇帝に見初められる事故さえなければ、暇を持て余していそうじゃないですか。部屋もたぶん個室でしょ。三食昼寝付で、お給料もらえる環境に入って執筆がしたいです! 執筆部屋がほしいです!」
編集「 そ れ だ 」
田井「!?!?!?」
編集「それで、書き物のために集めた無駄知識で妃をバタバタ倒したり、皇帝の役に立ったりするわけですよね。絶対面白いです」
田井「え、まって」
編集「できましたら、企画書にまとめてください! お待ちしております!」
田井「おい」
編集さんと作家の打ち合わせとは、本来こういうものではない気がするので、参考にしないでいただきたい。
たいていは、すでに決まった企画について顔をあわせて話しあう。このときは、それもなかったので、作家が企画書を提出し、その場で意見をもらいながら内容について検討していた。
前述のやりとりでわかるように、もちろん事前に用意した企画書は全没されたあとである。敗戦し、アフタートークの雑談中にポロッと漏らした一言によって、企画が動くことになった形だ。
このとき
編集「中華は書いたことないと言ってたけど、後宮ネタを出してくるってことは謙遜してるんだろうな。まあ大丈夫だろう」
と、思っていたが、
田井「まって。中華書いたことない。ロクに読んだこともない。やばい。詰んだ」
と、思っていたので笑い話だが、笑えない話でもある。
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