POOL SIDE TALK Vol.1(4)
POOL SIDE TALK
すでにあるモノゴトを広告するだけではなく、事業の根幹や、社会の仕組みづくりからイノベーションに参加するPOOLinc.代表「コニタン」こと小西利行があらゆる領域で活躍する「越境クリエーター」をゲストにお迎えし、22世紀型クリエイティブとその可能性についておしゃべりします。進行はPOOLinc.副社長、且つコミュニケーションデザイナーの是永聡。第一回のゲストは博報堂ケトル取締役の嶋浩一郎さんです。
POOL SIDE TALK vol.1(3)の続きです。今回は、イノベーションのヒントについて。様々な角度からイノベーションの種を育む方法について迫ります。そして、これからの未来に求められる力。それは効率化と最適化ではありません。二人が語る、ロジカルかつぬくもりある答えにはっとさせられました。POOL SIDE TALK vol.1の最終回、どうぞお楽しみください。
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ビジョンからの逆算でイノベーションをつくる
小西
世の中の流れを目ざとく抽出しておもしろがれるかということは勝負にはなってきているよね。
シンガポールでは、ビルの間に森(グリーン)があるんです。「すごいデザインだなぁ」と思って、政府の人にどうしてそうなったのか聞いてみた。シンガポールでは敷地面識に対して数十%グリーンを入れなければいけないと決まっているらしい。だからみんななんとかそれを達成しつつ、面白がろうとしてる。
先にビジョンを提示して、そこをなんとかしないといけないから結果に追いつく過程でクリエイティブを生むということがあの国の発想にある。
今年「2025年までに食料自給率を30%に」ということを発表した。今はまだ数%くらいなんです。土地がないし、みんな慌てだした。そこから食のベンチャーに大きな投資が動き、実際に大きく伸びはじめた。日本のクリエイトとはまるで逆です。「決めました!」とビジョンを先に提示して、その後に「さぁ、みんなどうするんだ?」という流れ。
これに似ている話でもあるけど、孫泰蔵さんから聴いた、孫正義さんの話が印象的でした。ある日、正義さんに「12ヶ月かかるプロジェクトを10ヵ月で終わらせようとするにはどうすればいいか?」と聞かれ、泰蔵さんは「例えば、みんなの士気を上げて、がんばって期間を縮める」と答えた。すると「そんなんじゃダメだ。6ヵ月以内にでやれと言うほうがいい」と言われたと。
12ヵ月を10ヵ月にしようと伝えると、みんながんばろうとする。家に帰らなかったり、睡眠時間を削ったりして、働く時間を増やすことで解決しようとする。でもそれは働く人に無理を強いるし、何度も通用しない。逆に、「半分以下でやろう!」と言われたら、正直途方に暮れるだろうけど、今までの方法ではどうしようもないことに気づくので、なんとかイノベーションを起こして解決しようとする。そうすればプロジェクトは完遂し、彼らは早く帰ることができるし、今後はずっと短い期間でやれるようになる。今のままの方法だと手の施しようがないとみんなが気づいたときに、イノベーションは生まれのだという教え。すごい経営者はすごいビジョンを出すんだ、と震えた瞬間でした。
是永
ビジョンを生み出すときに、なにか、心得みたいなのってあるのかな?
小西
最近は「ビジョンが提示されなければ、結局イノベーションは起こらない」と思っていて。ビジョンは無理な未来の提示から始まるというんももあるけど、その時「世の中の潮流と真逆のもの」や「起こりそうにない風潮」を提示した場合は失敗すると思う。だから「こちらの方向性に行くんじゃないか」という世の中の見方を修得しておかないと何もできない。
嶋
そういう意味では、広告の人よりもPR的な視点をもった人の方が潮流を読む力があるんじゃないかな。
大いなる無駄
みんなが検索しているワードはみんなが「価値がある」と思っているから検索しているわけで。そんなの見に行ってもしょうがないじゃんって思う。
嶋
ケトルをつくった時から「越境は大事だよね」と言っていて。あと、「端っこ好き」がすごく大事。イノベーションは必ず端っこから起こる。みんなが掘る真ん中を掘ってもあまり進化はなくて。とにかく端っこ。
無駄なものが大好きだから、無駄を世の中に撒き散らしたい。僕は「雑」がつくものが大好きで。雑学、雑談、雑誌……「雑」の何がいいかというと、分類できていないということ。「分類できていない」というものはまだ整理整頓されていないから価値が認められていないわけですよね。ミスセラレアンスという概念が好きで。分類できていないものにこれから価値があると言われていて、辺境と一緒なんだけどね。
是永
Googleのルールの中の「20%の仕事は別のことをやっていい」というのは福利厚生というよりも、他のことをやった方が実はすごいクリエイティブになれるということがわかっているからなんだよね。
嶋
21世紀になって、コンテンツに効果効能を人が求め過ぎていると感じていて。「泣ける映画が見たい」とか「ビジネスに役立つ本がほしい」とか。損したくない人がたくさんいる。リクルートの取材で「一言で平成はどういう時代でしたか?」と聞かれた時に「日本人がコスパを感じるようになった時代です」と答えた。損したくない感情が日本に充満した時代です。
今の人がドストエフスキーを読まないのは、読んだ時に役に立つものではないから。でも、本来のコンテンツというのはそういうもので。一見「それ何の役に立つの?」というような無駄なものを知っている人の方がイノベーションを生み出すパワーを持っていると思うんです。まだみんなそれが何の役に立つのかを発見していないから。無駄なものに価値を与えることがクリエイティブなんですよ。
大いなる不満
小西
「アイデアを考えましょう」という時、良いことを考えようとしますよね。それって難しいんですよ。人やモノの良いところを言おうとすると中途半端になる。でも、不満は山ほど言うでしょ。だから、最初に考えるのは〝愚痴〟。ネガティブや不満。「それを改善して、解消すれば全く新しいものができる」というシンプルなロジックに持ち込んだ方が考えやすい。
嶋
文句言っている人って本当大好き。スーパーで店員に文句言っているオバサンや地下鉄の職員に文句を言っているオジサンに近づいて行って「何を言っているんだろう?」と聞き耳を立てちゃう。
小西
最近すごく好きなのは「そもそも」と言う人。打ち合わせで企画が決まりかけて「これでOKですよね」という段階で、「そもそもなんですけど、こんなやり方でいいんですかね?」と言い出す人がいますよね。あれ、悲惨でしょ?
嶋
人生ゲームでゴール前まで行ったのに振り出しに戻るみたいな人ね。
小西
少し前に〝デザイン思考〟というものが流行った。アイデアを考えながらプロトタイプをつくって実験的に制作と検証をぐるぐる回していく。あれは、課題解決のシステムなんです。実は最初の課題設定が一番難しいのに、そこを飛ばしてやっている人がたくさんいて。「これに決めました」と設定してから、課題設定の反芻に戻らずに繰り返すわけ。
完全に空想ですけど、Uberは〝そもそもシンキング〟でつくられたのではないかと思っていて。タクシーは邪魔くさい。「タクシーのサービスを改善するプログラミングを考えました」ということではなく、「そもそも何でタクシーに乗るんだっけ?」という課題設定から考える。
「移動したいんじゃない?」
移動したいのであれば、友人に乗せてもらえばいい、空いている車もいっぱいある、という発想。
Airbnbにしても「そもそもどうしてホテルに泊まらなきゃいけないの?」という課題設定。「オレ、アムステルダムに友人いないわ」となったら、「友人の友人の友人くらいはいるでしょ?」というところからはじまっているはずで。「そもそも結局何がしたいの?」の答えは「泊まりたい」ということですから。〝そもそもシンキング〟で考えると結構楽なんですよ。
嶋
ビジネスをやっていると「今あることをどう変えるか」という積み上げ式で考えがちだよね。そうすると「あれも問題だ」「これも問題だ」と、たくさんハレーションが起こる。目的を設定して、そこに行き着くためにはどうすればいいのかを考えることの方が重要だと思っていて。
小西
デザイン思考は課題解決プロセスで、そもそもシンキングは課題設定プロセスなんだ。「答えより問の時代」とか「課題設定(問いの立て方)が時代を変えていく」というようなことを最近よく周りとはなしてますが、それって実感ありますよね?PRでもクリエイティブでも全部そうだよね。
嶋
わかる。正解は積み上げで考えて、別解は未来から考える。「アートは未来から考える」という思考に置き換えることができそうだ。
是永
全然違う文脈から未来を考えている。
嶋
クリエイターとアーティストの違いみたいなところだよね。
小西
両方できたほうがいいね。
嶋
抽象と具象を行ったり来たりできる人は一番賢いと思う。具体しか興味がない人は本当にダメなわけ。事例をたくさん集めてそこで終わり。でも、「この事例はこういうことだよね」と一回抽象に戻せる人は他の事例に落とせるからすごくいい。事例ばかりや抽象ばかり言っている人よりは、行ったり来たりできる人の方が優れている。そういう意味では、例え話ができる人は能力が高いよね。
小西
例え話が巧い人というのは、具体を抽象化して、それをまた別の具体に落とし込むという特殊能力だよね。
コンビニエンスとラブ
人間は、自分が言語化できている欲望に応えるものに対して、それほど感謝しないんです。その一方で、自分が気付いていない欲望に対して「これ欲しかったでしょ?」と言ってくれる人に深く感謝する。
嶋
ケトルは下北沢にB&Bという本屋を経営して7年になります。7年前に「本屋をつくるんだ」ということをいろんな友人に言ったら、「今さら本屋なんてつくる意味がわからない。お前はビジネスセンスがないのか?」とみんなに言われた。彼らは親切心で言っていることもわかる。「ネット書店で買うだろう」と。でも僕は、リアル書店はネット書店と違う役割があると思っていて。
ネット書店は常に買いたいものが決まっている時に利用する。「村上春樹のあの作品を読みたい」となれば、すぐ明日に届くという便利さがある。欲望が既に顕在化、言語化している時には便利だよね。リアル書店のいいところは、「買うつもりのなかった本を買ってしまう」という点。自分が気付かなかった欲望に対して「あなたこれが欲しかったでしょ?」と言語化してくれている行動なわけです。
「自分はこれが欲しい」と理解しているものに対して応えてくれるサービスではなく、自分が気付いていない欲望に対して「実はこれが欲しかったでしょ?」と言ってくれている。これはブランディングにおいて大事なことなのですが、コンビニエンスとラブは同じ概念ではないんです。ネット書店のことは便利だと思う。だって、翌日届くから。でも、便利がラブを生むとは限らない。
「何か知らないけどここ来ると必ずほしい本がある。よくわからないけど、この本屋すごいよね」
そのように、自分が気付かなかった欲望を発見してくれるものに対して、人はラブを感じる。
雑誌はそれが明確で。本人たち(読者)が言語化できていない欲望を先回りして捉えて書いているわけ。すると、それを読んだ人は「この雑誌には私が思っていたことが書いてある」と感じる。そんなこと昨日まで一度も言語化したことがなかったはずなのに。
人間は不器用で、自分の欲望を言語化できない。でも、都合がいいから、それが目の前に現れると「そうそうこれが欲しかったんだ」と平気で言ってしまう生き物なんです。
効率から愛着へ
是永
数年前から小西は、「効率から愛着へ」という言葉がキーワードになってるよね?
小西
そうだね。僕たちは街づくりの仕事もしていて。効率重視で高い建物を建て、細かいものを全て入れていくと、結局誰も行かなくなる。つまり、効率的に物事を進めていくと、結局は愛着のない街になる。それは「コンビニエンスとラブは違う」という考え方と「効率から愛着へ」という考え方は全く同じスタンスなのだろうと思った。
嶋
それをわかっていない人がたくさんいる。みんなテクノロジーを使って、とにかく効率化と最適化を目指す。
この前Preferred NetworksというAI専門の会社の社長と対談したんですよ。社長の西川徹さんは人工知能業界で第一人者です。彼は工場用の工作機械を動かすAIを作っていた。工作機械というのはいろいろなものを組み立てるのだけど。その場合、最適化と最速化をした方がたくさんモノを生産できる。
彼はその後、家庭用ロボットをつくりはじめた。そこで工場にあるロボットと家庭にあるロボットの違いについて聞いてみた。すると、工場のロボットを家庭に持ち込むと人は恐怖を感じるらしい。最速で最適化を求めるものが人にとって最適なものではないんだよね。
「この動き、こわい」
工場にあるロボットは最適化と最速化の動きをするように教育(指令)されています。それが人間の生活の場所に入って来ると、人はそれを受け入れることができない。もちろんテクノロジーが世の中を変えるということはよくわかっています。ただ、そこに人間がそれを受け入れる〝チャーム〟のようなものがないとサービスとしてうまくいかないんじゃないかな。
小西
メディアが24時間常時接続する世界が頃、ものすごい勢いでいろんな情報が届くことになる。「効率」だけを考えると、それは受け手にとって恐怖でしかなく、拒絶することになる。そこにストーリーか愛着がなければ馴染まない。
つまり、「ラブ」のようなことが生まれる状況が求められる。「オレのことを探ってきたな」と思うのは嫌だけど、「よく考えてくれているね」というのはうれしい。そういうことは全てにおいて言い得ることなんじゃないかな。
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POOL SIDE TALK vol.1おわり
文:嶋津亮太