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POOL SIDE TALK vol.1(3)

POOL SIDE TALK

すでにあるモノゴトを広告するだけではなく、事業の根幹や、社会の仕組みづくりからイノベーションに参加するPOOLinc.代表「コニタン」こと小西利行があらゆる領域で活躍する「越境クリエーター」をゲストにお迎えし、22世紀型クリエイティブとその可能性についておしゃべりします。進行はPOOLinc.副社長、且つコミュニケーションデザイナーの是永聡。第一回のゲストは博報堂ケトル取締役の嶋浩一郎さんです。


POOL SIDE TALK vol.1(2)の続きです。今回は、 5Gが訪れる近い将来のお話です。あらゆるものがメディアとなり、企業と生活者の常時接続が実現する社会において求められる力とは。キーワードは「ラジオ・添い寝・タイミング」。そして、そこに込めるストーリーについて深掘りします。



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これからの企業コミュニケーションの形

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是永
先ほど、嶋が「90~00年代くらいまでは企業における広告コミュニケーションはテレビCMや新聞広告などのマスメディアだった」と言っていたよね。それから小西の「広告もドラマもマンガもPRも〝与える影響〟という観点で同列に評価されるようになった」という言葉。明らかな変化が見られるわけだけど、これからの企業のコミュニケーションはどうなっていくのだろう?


例えば、タランティーノ監督は「映画を観た全員が〝これは僕のためにつくったシーンだ〟と思うようにつくる」と言っていて。

ラジオパーソナリティに近い感覚だよね。ラジオパーソナリティは、不特定多数の人に話しているのに、聴いている人は「僕にだけ話している」と感じる。銀座のママもそうで、通っている客は「ママは絶対にオレのことが好き」と全員が思っている。デジタル化によってeコマースなどが進化している今の時代、ラジオパーソナリティや銀座のママになった方がいいわけ。

1990年代にインターネットがはじまり、96年にYahoo!が現れた。その時代ホームページ、今でいうオウンドメディアがつくられた。日本でTwitterやFacebookが普及したのが06~08年頃。2010年代になるとスマホが登場し、たった10年間で世の中に普及した。

オウンドメディア→アプリ→チャット

つまり、企業のデジタル上でのコミュニケーションは、90年代はホームページをつくること、00年代はソーシャルメディアによって「ユーザーのタイムライン上にどのように企業の情報を入れるか」ということに広がっていった。10年代になると、企業の情報やサービスをアプリにしてスマホの中に入れてもらおうということになった。この先どうなるかというとチャットやショートメールサービスなどの一対一のパーソナルな関係になっていくことが予想されるわけです。

ウェブはどちらかというと情報のアーカイブのために使われて。チャットはロイヤルカスタマーのために使われていく。要するに、未来に行けば行くほどパーソナルな空間になっていく。そこで企業と人が結びついていく。コミュニケーションがテレビ的なものから、ラジオ的なものへと進化している。



ラジオ論

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とあるアナウンサーがフリーランスになった時にラジオで番組を持った。その時に最初の挨拶で「みなさん、おはようございます」と言った。日本語としてはおかしくないよね?だけどネットの書き込みで叩かれた。なぜかというと、ラジオは「みなさん」より「あなた」と二人称で言った方がいい。つまり「みなさんこんにちは」というのはラジオをわかっていないということ。でもしょうがないよね。テレビで大活躍した人なのだから。

元TBSの小島慶子さんなんてはすばらしいわけ。テレビに出る時とラジオに出る時の言葉を使い分けていて。ラジオでリスナーからのメールを読む時に「あなた○○だったわ」と二人称で語りかける。よりラジオ的な表現がウェブのコミュニケーションで重要視されるようになるということをここ数年で感じる。

小西
日曜の深夜0時30分からTOKYO FMで『KOTOBAR』というラジオ番組のパーソナリティをしているんですよ。自分はマスに話しかけているという感覚があるので、どうしても「みなさん」と言ってしまう。「そこの人(あなた)」に対して語りかける意識を強く持つ必要がある。


『暮しの手帖』を創刊した花森安治さんは編集者、ライター、クリエイターにとってすばらしい「実用文十則」という文章を残していて。

(1) やさしい言葉で書く。
(2)外来語を避ける。
(3)目に見えるように表現する。
(4)短く書く。
(5)余韻を残す。
(6)大事なことは繰り返す。
(7)頭でなく、心に訴える。
(8)説得しようとしない(理詰めで話をすすめない)。
(9)自己満足をしない。
(10)一人のために書く。

最後に「一人のために書く。」と書いてある。まさにラジオパーソナリティの考え方。

ラジオって不思議だよね。不特定多数の人に話しているのに、聴いている人は「自分のためにしゃべってくれている」という感じがある。そのような表現が、今後高く評価されるだろうね。IoTが進み、5G時代に入ると、車も風呂も鏡もメディアになる。その時、企業と生活者は24時間365日常時接続していくことになる。企業と生活者は「みなさん」ではなく「あなた」という関係で接続していく。



グッドタイミング

是永
企業と生活者が直接繋がる関係になっていくのだとすれば、「広告」自体の存在がどうなるのかが気になるよね。

小西
GAFAでも何でも、結局は広告で儲けている。だから、広告は絶対にこれからも廃れることはないと思っていて。広告の未来は、5Gによる常時接続の社会で、そこで問われるのは「タイミング」ということになってくる。TLに流れてくる広告が「邪魔だ」と思うように、おかしなタイミングでそれが訪れると人は嫌悪感を抱く。

だからAIは人の生活について一生懸命知ろうとする。これは今GAFAがやっていこうとしていることそのものなんだけど、この手段はきっとダメで。なぜなら、他者に自分のことを知られることは気味が悪いから。「自分のことを知ろうとしないでくれ」と、どんどん拒絶が行われる。そうなってくると大切なのは「タイミング」。「私のいいタイミングで───つまりグッドタイミングで来てくれ」と。

それは、企業が「どれだけ〝あなた〟について一生懸命考えて出すか」ということ。つまり、「知っている」のではなく「考えた」というプロセスを見せてほしい。「いいストーリーだと思って、一生懸命これを考えて出しました」というコミュニケーションが主流になっていく。それって本当にラジオ的なんだよね。

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「限られた人しか聴いていないけれど、これをあなたに届けているこの番組素敵でしょ?」という。たった1つのラインにおける繋がりが無数にあるということが求められる。



今までの広告クリエイターは、マスメディアを通じて15秒や15段のところで「この商品のことを知ってくれ」とアピールしなきゃいけないから押しが強い表現が求められた。これが24時間365日常時接続になると、要するに「スキスキ」と押し出しの強い人よりも、一緒に添い寝したい人がクリエイターの質として求められると思うんだ。

小西
常時接続の気持ち良さを現わす言葉で「添い寝」というのは素晴らしいテーマだよね。




100%やさしく抱きしめてあげる


「企画をひねる」ということを言う人ってたくさんいますよね。でもね、企画はひねっちゃいけないと思っているんですよ。欲望を見つけたら、100%やさしく抱きしめてあげればいい。

15年前、博報堂の社員時代に『本屋大賞』というものを書店員の人たちとつくったんですね。毎年、書店員が「お客さんに読んでもらいたい本」を投票して販売促進する。受賞した作品は毎年ミリオンセラーになっています。一介のサラリーマンが毎年ミリオンセラーを生み出す装置をつくったわけです。

当時、僕は『広告』という雑誌の編集長をやっていて。雑誌を売るために、「売ってください」とポスターを配って本屋を回っていた。その時、書店員のとある文句を耳にした。

「どうして直木賞はこんなの選ぶの?」

直木賞は作家が作家を選ぶ文学賞。その作品について書店員さんが文句を言うわけ。最初は「後ろ向きな業界だなぁ」とネガティブな感じがしたんだけど、本屋を巡るたびに同じ文句を言う人が何人も現れてきた。そうすると、見え方が変わってくる。先ほどの〝違和感〟だよね。

人は自分の欲望を言語化できないけれど文句は言える。文句は欲望に近いんですね。「どうして直木賞こんなの選ぶの?」という文句は、「私には別に売りたい本がある」という欲望として頭の中で変換できた。つまり、十数名の書店員が「私は別に売りたい本がある」という欲望を口にしていたということ。

「鉱脈みつけた」

鉱脈を見つけたら、企画をひねってはいけない。その欲望を100%やさしく抱きしめてあげる企画をつくればいい。

「既存の文学賞に文句があるわけだよね。自分たちが実は売りたい本が他にあるんだよね。じゃあそれを売るための賞をつくってあげるよ」

そうするとワークする。だから先ほど言った、「路上で飲んでいる人がいた」ということに対して、「どうして路上で飲みたいのか」という欲望を言語化できれば、その気持ちを100%包む企画さえ立てれば大ヒットする。

小西
鉱脈を見つけて穴を掘っただけだよね。その鉱脈を見つけることが何より難しいのだけど。




ストーリーは「意味の革新」

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小西
それらを支配するものはずっとストーリーだと思っていた。どのような文脈でそれを世の中に届けることができるのか。最近「効くストーリー」と「効かないストーリー」があるという当たり前のことに気付いた。で、先週までシンガポールに行って孫泰蔵さんと話して、「効くストーリー」とは何かということがよくわかった。効くものには、イノベーションがある。そしてイノベーションとは、「意味の革新」だと。

孫泰蔵さんがやってる、VIVITAという子供のためのクリエイティブクラブがあるんですが、そこに12歳の女の子がいて、彼女が妹とキラキラした石の装飾されたブローチをつくった。それはIoTなどの技術を取り入れて制作したもので、中にGPSがついている。その子はスマホを持っているから良いのだけど、8歳の妹はスマホがないからこのようなブローチがあった方がいいんじゃないかと話していた。泰蔵さんはその話を「なるほどね」と聞いていた。つまり、「親が子どもの行動範囲がわかるから安心できる」と。すると「そう、思ったでしょ?」と彼女は言った。そして続けた。

「〝親が安心する〟ということは、子どもの行動範囲が広がるという意味。だからこの装置は子どもの行動範囲を拡張して、子どもの可能性を拡げる装置なの」

この話を泰蔵さんから聞いた時、みんなで天才だと思った。それこそが、既存の意味の拡張であり、革新。それがストーリーだと。それが広告であっても、ある種PRであっても、コンテンツの意味の革新が行われているものに対してみんなは反応するんじゃないかと思った。


広告屋もメディアもそうなんだけど、実はメーカーの人たちが気付かないような伝え方を拡張できる人を天才だと思うんだよね。

フランスの鋳物鍋が日本ですごくヒットしたんだけど、ある女性誌が「あなたの台所の素敵なインテリア」って特集を作ったことがきっかけだったの。ある意味、残酷でしょ。だって、フランスの鋳物工場の人たちは日本のインテリアを作ろうなんて思ってないし。でも、主婦にはそういうアプローチの方が効果的だったわけでしょ。

Amazonでレビューの点数が高い食器乾燥機がある。「どんな素敵な食器乾燥機なんだろう?」と思ってレビューを見ると、「タミヤカラーがすごい乾きます」と書いてある。要は、プラモデル愛好家たちが愛用している。それも食器乾燥機を開発した人からしたら残酷でショックだよね。今の時代のマーケティングやイノベーションのおもしろいところはそういうところにあるのかなって。


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POOL SIDE TALK vol.1(4)へ続く

文:嶋津亮太


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