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人は名曲自体にではなく、その名曲に紐付けられたストーリーに感動する。

昨日、私が好きなアーティストが活動休止を表明した。

「サヨナラの最終回」という、一見アーティスト名には思えないようなユニークな名前のついたアーティスト。


活動休止の理由は「それぞれのメンバーが今後大きくなるためのステップ」というポジティブな方向だったので、さほど落ち込むことはなかった。けれど、好きな人達が1つの終わりを迎えることは、やっぱりとても悲しい。

最近ではコロナの影響もあって、活動をやめてしまうアーティストが加速度的に増えている。時代の流れの中であらがった上での決断なので、ファンとしては受け入れて今後を応援したい。立ち止まることを選ぶこともまた、悩み抜いた結果だろうから。


活動休止を表明した直後に、急にアーティストを神格化させる発現をしたり、「めちゃくちゃ好きだったアーティストでした残念」というツイートをしたりする人がいっぱい、いっぱい出てくる。

自分もその中の1人になることが多いのだけれど、さして普段から好きそうにしていなかった人たちが、活動を止めることになった瞬間にそういう話を語り始めたときに、ふともやもやっとする。

この正体が気になって、言葉にしたくなった。


活動を休止したり、解散したり、場合によっては亡くなったりすることで、その人達の音楽が聴けなくなることがある。

つまり、今後生演奏で聴けなくなるという「希少価値の上昇」によって、初めて、世に音楽が広く知れ渡るのだろうし、こういうことが往々にしてある。

もうそれを明確にそれを狙って活動休止しているアーティストもいたりして、なるほど、人間の性をしっかりと理解しているのだなぁと感心する。


その一連の流れを見るたびに、本当にいい音楽を作っただけでは売れない理由が、こういったところにあるんだろうなぁと、改めて感じる。

もちろん、ほんの数小節聴いただけで頭から離れられないようなフレーズの曲があるし、なんだかよく分からないけどハマってしまうボーカルの声もある。

それは間違いなく音楽から好きになるパターンだ。振り返るとそういう曲を作っているアーティストを好きになった理由は言葉にできない。というか、どうしても後付けの理由になってしまって、言葉にしたくない。

ただ音楽ファーストになりがちな曲は、それだけだと五感に頼るところが多いので、個人の好き嫌いが大きくウェイトを占める。そのため、一発屋で終わることもあれば、ポテンヒットで終わってしまうことも多い。

さらにその最高の曲を、最高のアルバムを、広く世に知らしめるためには、「ストーリー」が重要になってくる。


アーティストや、アーティスが作る曲の周りには至る所にストーリーが介在している。

歌詞の中に含まれる意味としてのストーリー

プロのアーティストになるまでや、プロになってから売れるまでの軌跡としてのストーリー

アーティストが作り出す作品や作品群から醸し出す世界観と、それを支えるアーティストの意図的・無意識的な企みとしてのストーリー


アーティストと人、曲とアーティスト、曲と人、曲と曲のあらゆるスキマにストーリーは介在している。この張り巡らされた文脈の中で、それぞれの個人はアーティストや曲に付加価値を感じる。

人は、苦難に満ちあふれていたり偶然が重なった奇跡的な道筋を通ってプロになったアーティストや、深い思いが込められた曲に、感動し打ちひしがれ、人に共有したくなる。

雑誌や取材ニュースなどで、アーティストの語る物語を見て初めて、その人達の楽曲を好きになることがある。大体そういう人達には、思わず周りの人達に語りたくなるようなストーリーがある。

活動休止やアーティストの死はそのストーリーのスパイスの1つとして取り扱われていることが多い。単純に希少価値があがるだけではない、活動を止めることで完結するストーリーがあるのだろう。


ただ、時々そのストーリーを切り取って、意図的に個人利用してしまうことがある。「めちゃくちゃ好きだったアーティストでした残念」という人の心中には、自分の感性への共感を得るため、あるいは仕入れた情報の迅速さを示すため、あるいは残念と思っている自分かっこいいを伝えるため、というさまざまな思惑が無意識的に内在しているからだろう。

私の中のもやもやは、活動を止めたストーリーに対して、「他意」を感じる意味づけや付加情報を付けることに対して感じるものなのだろう。

自分も思い当たる節があるし、今まで、それに対して言葉にできない罪悪感を感じていたので、幾分説得力のある指摘ではないだろうか。


そういうことを考えた時に、やっぱり最終的に行き着く解決策は、「相手の言葉に反応しない」だ。受け手でコントロールするしかない。

ということで、私のオススメの本を貼く。


今日からしばらくは、サヨナラの最終回を聴いてるだろうなぁ。


本当に本当に、励みになります。 ありがとうございます!!!