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ぎっくり首とフレンチ

 肩凝りが酷かったのをずっと放置していた。2ヶ月ぐらいに再開したヨガもサボっていた。マッサージ代をケチッていた。湯船にゆっくりはいるのも省略していた。
 反省してもしきれない。首を捻挫してしまった。原因は、肩凝りだと思う。

 朝、首が痛くて目を覚ました。なんとか体勢を整えようと、ダイニングテーブルに寝ぼけ眼で座って頬杖をついていたら、首の根元?肩甲骨のあたりが「パキッっっ」という音を立てて、悲鳴をあげるほどの痛みが走った。やった、やってしまった。首と肩がどんどん熱をもっていくような感覚、左手が次第に痺れて、冷えていく。これは、ぎっくりだ。腰だけかと思ってたけど、完全に首をぎっくりしてしまった。

 あまりの痛みにGoogleで調べると「ぎっくり首」は実在するらしい。「ぎっくり首 治し方 速攻」と調べると、安静・冷却と出てきた。速攻で保冷剤で首を冷やしながらさらに調べると、「最低でも72時間は痛みが続くから安静にするように」と出てきた。ええ、この痛みが72時間も続くの‥?あまりの絶望感から少しでも立ち直る為の目安にしようと、iPhoneで72時間のタイマーを設定しようとしたら24時間以上のアラームは設定できないということ。酷すぎる。

 しかもタイミングも最低最悪だった。その日は母親の還暦祝いのためにホテルでランチの予約をしていたのだ。遠方で暮らす姉家族も来るし、さすがにキャンセルするわけにはいかない。
 半べそをかきながら旦那の介護を受けてなんとか支度を終える。靴下を履いたり、下を見るのが痛すぎて悲鳴をあげてしまう。身体は完全にディズニー映画のノートルダムの鐘のカジモドの体勢でロックがかかってしまったようだ。本当はオシャレに髪型とかもセットしたかったけど、コテが使えなかったので諦めた。楽しみにしていた予定だったのに。
 私がカチコチの姿勢でホテルのレストランに登場した時は、日頃些細なことなら笑い飛ばしてくれる両親も「どうしたのどうしたの」と心配顔になってしまった。多分肩こりが原因だと思う、と伝えると「仕事、きついんじゃない?働きすぎよ。埼玉の教員が過労死したってニュースがあったわよ。大丈夫なの?」と、本日の主役の母からも心配されてしまう。母なんて、大きな病気も怪我もなく還暦まで働き切ったというのに。家族の中では一番年下の私がこのような体たらくである。実の兄弟のように親しくしてる義兄だけ、カチコチの私を見て笑ってくれた。救われた。

 首は痛くて参ったけれど、料理は本当に美味しかった。まるでメインのようなボリュームの前菜や、野菜の芯まで味が染みているコンソメスープ、赤ワインのソースの牛フィレ肉などなど、味だけでなく見た目も美しくて大満足のランチとなった。サーブしてくれる方が、とても優しい声でメニューの説明をして下さったけれど、カチコチの私は振り向くことができなかった。申し訳ありませんでした。下を向くことが難しかったので、スープを飲むのにも大苦戦したけれど、ぜっっったいに一滴も無駄にしたくないという強い意志で完食することができた。
 最後、記念にとホテル側のご厚意で家族写真を撮っていただいた。先日実家に帰ったら、母親はその写真をダイニングテーブルのど真ん中に飾っていた。写真の中では娘家族に囲まれて幸せそうに微笑んでいる還暦を迎えた母。その横には、カチコチの身体から搾り出したカチコチの笑顔の私がいる。今年こそ、適度な運動を心がけなければ。決意を新たにした、夏の出来事であった。


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