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ep50.伝統とともに借金も引き継ぐ


羽田屋についてぜひ記しておきたいことがある。

無事に終えた2022年の襲名披露公演だったが、チケットの売り上げは当初、芳しくなかったと週刊誌が報道していた。実際はどうだったか知らないが、少なくとも「内部のスタッフが想定した売り上げに届かないのではないかと憂慮していた」のは事実だ。

というのも2022年8月、第一線を退いていた蟹蔵の母親(蟹母)が突如、株式会社羽田屋の取締役に復帰していたから。ご贔屓筋への顔繋ぎとチケット販売のために、周囲の説得に負けて重い腰を上げたのだと想像できる。

ご贔屓筋が羽田屋当主に求めるのは伝統、品格、芸の質。僕に蟹蔵の実力を測ることはできないが、ご贔屓筋からは力不足と捉えられていたのかもしれない。

そもそも蟹蔵は若年層へ向けた新作歌舞伎や、ブログによる大衆への啓蒙活動に力を注ぎ、ご贔屓筋をおざなりにしていた節がある。だからこそ信頼と実績のある母親に頼るハメになる。

2021年、週刊誌の報道にて、蟹蔵とその母親に不仲説が流れた。ことの経緯はこうだ。

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蟹蔵が生まれ育ち、現在は蟹母が一人で住んでいる目黒区の大豪邸を蟹蔵が売却して、母親はマンションに移り住んだ。そのせいで2人は、顔を合わせても口も聞かないくらい険悪となっている。
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いくつかの週刊誌が「蟹蔵が実家を売却した!経済的にピンチか!?」と記事にしていたが、そもそもこの物件の所有権は先代の團五郎が亡くなるはるか前、1996年から梅竹株式会社にある。それから一度も蟹蔵家の誰にも所有権が移ったことはなく、蟹蔵一家は梅竹の温情で住み続けていたに過ぎない。

金の流れを追うと、先代の團五郎がいくつかの金融機関から借金して首が回らなくなり、歌舞伎に精進してほしい梅竹が土地を担保に借金を肩代わりしたことが分かる。そういう意味でも梅竹と羽田屋は蜜月なのだ。

コロナの猛威は演劇界にも吹き荒れて各地に被害をもたらし、それは梅竹という大企業も例外ではなかった。そのことはコロナ禍において、歌舞伎役者への報酬を大幅に引き下げたことからも窺い知ることができる。現金が必要になったかで土地を売却したい梅竹は、蟹母に退去をしてもらう必要があった。説得は蟹蔵の仕事となる。

おそらく週刊誌の不仲説は本当だろうと思う。出ていって貰わなければならない蟹蔵と、動きたくない母親。土地を手放してスッキリさせたい蟹蔵と、思い入れのある家を手放したくない母親。正当性は蟹蔵にあるが、蟹母の気持ちも充分に理解できる。話し合いの過程でギクシャクしてもおかしくない。

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