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ep51.立派な子供たち


【新作歌舞伎は親が亡くなっているシーンがあるから、やるべきではなかった】

先代の借金を梅竹が肩代わりして、蟹蔵が歌舞伎の伝統とともにそれを引き継いだ。梅竹と羽田屋は歌舞伎と金によって、ともに分かち難く結びついている。

そんな蜜月の折、蟹蔵は梅竹から離れて独自路線を歩もうと画策していた。新たなパトロンを探したり、梅竹抜きで公演したり。借金の担保として先代の團十郎から梅竹に所有権が移った土地を離れ、梅竹への負担を軽くしたのもその一端と言えよう。

新作の『コペル歌舞伎』も梅竹は宣伝を少し担っただけで、主催や制作から外れている。もともと『暖炉の国のコペル』という絵本が元になっており、作者は元芸人で捕まってないだけの詐欺師と専らの評判。こういう取り巻きに不信感を持った梅竹サイドが、主催することに難色を示した可能性もある。

折しも『ワンピース』や『風の谷のナウシカ』といったアニメの歌舞伎化が流行っていた時期で、蟹蔵は話題性と若年層の集客に期待したのだろう。チケットは3万円と高額で、保守的な梅竹では考えられない額に。金に目が眩んだ公演は、興行的にはどうやら失敗に終わったようだ。

さながら家族公演で主役は蟹蔵、準主役は息子と娘が交代で演じた。麻奈はこれに不満を持ち、動画で言及した。曰く、「親が亡くなるシーンを子供たちに演じさせるのは可哀想」とのことだ。

亡くなった麻莉のことをこじつけているのだろうが、真面目に言ってるのだとしたら僕は麻奈を相当に買いかぶっていたことになる。とても頭の悪い意見だが一応、ウォッチャーとして反論しておく。

古典歌舞伎にも親が死ぬ演目は腐るほどあり、「隅田川物」という「子と生き別れた母の悲しみ」を題材にしたジャンルもあるそうだ。すでに立派な役者である子供たちは、その度にいちいち悲しんだりしない。もし甥っ子の大好きな『ドラゴンボール』を歌舞伎化したとして、甥っ子に演じることを禁ずるべきとでも言うのだろうか。孫悟空なんて何度も死ぬぞ。

ときおり自分の娘の核心を突いた意見に、ドキッとさせられることがある。子供というのは曇りなき眼で物事を見るがゆえに、ときに本質を見抜いて鋭い事を口にする。子供は子供なりにしっかりと考え、自分の意見を持っている。

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