技術士(生物工学部門)の第一次試験突破マニュアル
このNoteでは、ポンヌフの技術士(生物工学部門)取得までの体験に基づき、効率的な勉強方法を議論します。さらに、統計的な解析から、考察を深めます。受験を考えている方の参考になれば、幸いです。試験情報のベースは、令和2年度ものです。受験の際は、必ず最新の情報を日本技術士会のホームページでご確認ください。
なお、この記事は第一次試験について扱います。第二次試験の情報は別にまとめていますので、下記を参照ください。
1.試験通過のメリット
私が考える試験通過のメリットは、①ネットワーク構築と②技術士補登録の大きく2つになります。
①ネットワーク構築
第一次試験の合格者は、日本技術士会の準会員になることができ、一流の技術者のネットワークに参加できるようになります。なんと、合格者の名前は官報に載り、更には懇親会の招待が届きます。懇親会では、一緒に試験を乗り切った同期合格者や、技術士の先生方と交流することができます。ここが他の資格試験と一線を画す点です。懇親会にて、技術士の先生の講義や今後の二次試験についての話をたっぷり聞いた後は、お酒を持ち寄っての立食談話会へ。生物工学が発酵工学から派生したこともあってか、皆さんお酒が大好き。楽しい時間を過ごせると思います。そして、会場を出ると目の前にそびえるは赤く輝く東京タワー。きっと、「技術士になろう!」という皆さんの決意を印象づけるものになるでしょう。※コロナ禍においては、こうしたリアルなコミュニケーションが取りづらくなっております。早く収束することを願ってやみません。
②技術士補登録
懇親会でお気に入りの先生を見つけたら、是非技術士補としての登録を受けられるか聞いてみましょう。部会長などに指導技術士のリストをもらって、先生方の専門分野を眺めてみても良いと思います。技術士補登録によって第二次試験を受験できる年数を7年から4年に短縮できます。また、個人的な感覚になりますが、技術士補は名刺に書いても30代前半くらいまでは、プラスに受け取ってもらえる資格だと思います(それ以降も書いていて悪くはないのですが、万年補止まりと思われないよう、できるだけ早く技術士になれるようにすると良いです)。個人的な印象ですが、同じバイオ系の民間資格である”上級バイオ技術者”とかいてあるよりは、肩書きに効果があると思います。
2.受験資格や概要
受験資格に制限はありません。ポンヌフが第一次試験をパスしたのは、大学生の頃です。つまり、試験の難易度は、バイオテクノロジー全般について、一通り授業で学んでいるようでしたら、大学1~2年においても、十分に合格できるレベルといえます。個人的な主観ではありますが、民間試験である上級バイオ技術者試験と比較すると難易度は高め、問題のテキスト量が多め、かつ受験年により偏りがあり、最新時事や応用的な面にフォーカスした課題も少しだけあるかもしれません。
3.試験方法とその統計的考察
令和2年度の試験の概要は次の通りでした。試験は、基礎科目、適正科目、専門科目からなります。全てマークシート形式です。
① 試験は筆記により行い、全科目択一式とする。
② 試験の問題の種類及び解答時間は、次のとおりとする。
Ⅰ 基礎科目 科学技術全般にわたる基礎知識を問う問題 1時間
Ⅱ 適性科目 技術士法第四章の規定の遵守に関する適性を問う問題 1時間
Ⅲ 専門科目 当該技術部門に係る基礎知識及び専門知識を問う問題 2時間出題に当たって、基礎科目については科学技術全般にわたる基礎知識(設計・計画出題に当たって、基礎科目については科学技術全般にわたる基礎知識(設計・計画に関するもの、情報・論理に関するもの、解析に関するもの、材料・化学・バイオに関するもの、環境・エネルギー・技術に関するもの)について、適性科目については技術士法第四章(技術士等の義務)の規定の遵守に関する適性について、専門科目については技術士補として必要な当該技術部門に係る基礎知識及び専門知識について問うよう配慮する。基礎科目及び専門科目の試験の程度は、4年制大学の自然科学系学部の専門教育課程修了程度とする。
2.配点
① 基礎科目 15点満点
② 適性科目 15点満点
③ 専門科目 50点満点
専門科目は5択選択式になります。令和2年度の試験では、35問から25問を選んで回答し、13問以上(50%以上)正解で合格基準をパスします。従って、全問わかる必要はなく、全体の37.1%(13/35)、すなわち4割も分かればクリアできる計算になります。民間資格の上級バイオ技術者試験の合格基準が60%以上と噂されていることを考慮すると、問題は難しいものの、合格判定基準は緩いと考えられます。
統計的にもう少し考察を深めてみましょう。5択マークシート形式の、ランダムセレクトによる正答確立は1/5ですので、これを25回実施したときの正答数の分布を、2項分布に当てはめて計算しますと次のようになります。
この図の見方ですが、技術士一次試験(生物工学部門)の受験者が全員、専門科目のマークシートをランダムにマークした時に、各正答数に何%ぐらいの受験者が分布するかを示しています。この図から、5問正解する人が最も多くて全体の20%(100人受験したら20人)を占めること、10問正解するラッキーな人も1%程度は存在しうることが分かります。また、全部山勘でランダムにマークした答案が15問以上正答となる可能性は、限りなくゼロに近いことも分かります。それでは次に、どの程度の確実に答えられたら、どの程度パスできるのかを解析してみます。
上の図は、確実に正答できた問題が7~15問の時の、各正答数の人数の割合を示しています。また、分かった問題数の下に書かれた数字は15問以上取得する人(合格者)の割合を、累積分布関数という方法で算出したものです。当然のことながら、15問分かった場合の合格者割合は100%になります。興味深いのは、10問分かった人では、残りの問題をランダムにマークしても、16%の人が運良く試験をパスし始め、同様に11問分かった人で30%、12問分かった人で50%の方が通過すると考えられます。一概には言えませんが、逆算すると、例年の生物工学部門の合格率は60%程度であることから、受験者が自信をもって回答できている問題数は13問に満たないとも解釈できます。
さらに、5択中には、明らかに誤っている選択肢や自信をもって正否を判断できる選択肢が1つはあるでしょう。その場合、5択問題は4択問題として扱うことができ、確実に正答できた問題が7~15問の時の、各正答数の合格者の割合は大きく向上します。11問分かった人で半数が通過し、8~9問分かっただけでも通過してしまう可能性があるのです。5択を3択まで絞れれば、さらに合格しやすいと言えます。
以上のことから、統計学的な見地から第一次試験は、「35問中12問(約1/3)分かれば、半数以上が合格できる試験であり、10問分かれば運が良ければ受かる試験」と言えます。しかし、問題というのは半端な知識に引きずられて引っかかるように作られていますので、実際はランダム確率よりも低い正答率になる場合があります。
4.試験スケジュール
令和2年度のスケジュールは下記の通りでした。最近はコロナウイルス感染拡大の状況を注視し、イレギュラーな変更がないかを確認するため、定期的に日本技術士会のサイトを確認する必要があります。
★日程表
受験申込書配布: 令和3年6月11日(金)~6月30日(水)
受験申込受付期間: 令和3年6月17日(木)~6月30日(水)まで。
筆記試験日: 令和3年11月28日(日)
合格発表: 令和4年2月に、試験に合格した者の氏名を技術士第一次試験合格者として官報で公告するとともに、本人宛てに合格証を送付する。合格発表後、受験者に成績を通知する。
5.合格率
平成12年度から令和元年度までの技術士第一次試験の受験者数と合格者率を解析してみました。合格率は平成12年度から増加傾向があり、最近は40~70%で推移しています。年によるばらつきが大きいのが特徴であり、受験者のレベルが一定であると仮定すると、問題の難易度が年によって変化している可能性があります。R1は台風によって東京会場等で試験が中止されたため、統計的にはあまり当てにしない方が良さそうです。受験者は、平成17年をピークとして、現在半減しています。
次に、他の部門との関係性をみていきましょう。20部門について、受験者数、合格者数、合格率を比較してみました。受験者数については、部門間の差異が非常に顕著になっています。生物工学部門の受験者は、最も受験者の多い建設部門の100分の1程度しかありません。しかし、受験者の多い順に並べた場合は、概ね12~13番目ということで、特に少ないということはないようです。実際、生物工学の受験者数と合格者数は、中央値(順番に並べたときの中央に位置する値)の値と非常によく一致しています。合格率については、激しく変動しておりますが、他部門と比較して特に合格しやすかったり、しにくかったりという傾向はないようでした。
なお、図では平均値と中央値という2つの統計手法を描画しています。平均値はすべての値を足して標本数で割ったもの、中央値は上から数えて10番目の値と11番目の値を足して2で割ったもの(順番に並べたときの中央に位置する値)を示しています。この値のずれは、受験者数や合格者数で大きく、合格率で小さくなっていました。これは、受験者数や合格者数は、部門ごとに差異が大きく(建設部門などの極端に高い値が、全体の平均値を底上げしており)、合格率は全部門の極端な偏りが少ないことを示しています。
6.お薦めの勉強方法
専門科目の勉強は、まず過去問に取り組まれるとよいと思います。2年連続で、ほぼ同じ問題が出ることはまれですが、数年前の類似問題が含まれていることは、それなりにあると言えるでしょう。一部の問題が差し替えられる可能性もあるようです。そのため、過去問を学習する際に、もし6問(6択)であったら、どのような問題が含まれているかを考えてみるのも有効な勉強方法だと思います。
受験のための参考書として、用いられているものを以下に示します。バイオの扉シリーズは、技術士(生物工学部門)が中心となって書かれた、様々なバイオに関するトピックスを扱った本です。どちらも、広くバイオの知識を補うことができる良本だと思います。しかし、バイオの世界は日進月歩なため、情報の新しさの見極めには注意が必要です。バイオの扉ー医薬・食品・環境などの32のトピックス(緑本)が2000年初版発行、新バイオの扉:未来を拓く生物工学の世界(青本)が2013年発行ですから、特に緑本の情報は、相当前の情報であることを認識して読む必要があります。また、青本も2013年以降の重要なトピックスに関する情報が不足しているという認識を持って学習してください。
また、第二次試験を想定して書かれているもう少し深く理解したい人のためのバイオテクノロジー第2版もお勧め書籍です。こちらは、バイオの扉が技術士達のオムニバス作品(基礎は一般的な教科書で抑えている人向け)のように見える一方で、しっかり基礎的な内容や時事的な部分までフォローされているのが素晴らしいと思います。
そのほか、細胞遺伝子工学や生化学の範囲の勉強において良く用いられる本としては、Essential 細胞生物学、細胞の分子生物学があります。ただ、エッセンスを詰め込んでいるという点では、Essentialの方でも十分な知識が得られます。しかし、バイオの扉同様、日本語訳されたものは、現状かなり古くなっていることを留意しなければなりません。Essentialは近々次の版の翻訳本が出るのではないかなと推察しています。
まとめ
第一次試験:誰でも受験できる。醍醐味は試験通過後のネットワーキングと技術士補登録にあり。試験は、基礎・適正・専門の3科目からなる。いずれも半数以上正解で合格となる。5択マークシート方式。専門科目は、35問から25問選択し、13問以上の正解で通過できる(全体の1/3分かれば合格)。合格率も高い(40~70%)。試験対策は、過去問+バイオの扉シリーズ、もう少し深く理解したい人のためのバイオテクノロジーがおすすめ(ただし、最新の技術はチェックしておくこと)
画像はFacebookの士業娘さんのサイトから、規定(2021年4月現在)を守って使用しました。
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