見出し画像

お酒は人生を明るくする

地元を離れ、地方の農業大学に進学してから丸2年が経っていた。

高校の時に仲の良かった友達とはたまに連絡をする程度で、大学に入ってからはうまく馴染めず一人で過ごす時間が増えていた。

一人でご飯を食べるのも好きではないため、授業を受けて帰宅し、バイトに向かう日々。大学の最初の二年間はとにかく退屈で、お金だけが貯まっていた。

大学3年生になってようやくお酒が飲めるようになり、飲み会に誘われるようになった。バイト先で定期的に開催される飲み会に呼ばれるうちに、仲良くなった先輩から
「今度うちの大学の飲み会にこない?」
と誘われた。

顔も知らない人たちの飲み会に参加することに一瞬躊躇したが、退屈よりはマシかと思い、
「はい、是非行かせてください。」
とその場で答えたことが、僕の人生を変えた、と今でははっきりと言える。


飲み会当日、趣旨も何も知らないので、服装に迷ったが、ある程度のことには対応できるようTシャツにジャケットを羽織り、細身のジーンズと革靴を合わせて家を出る。

彼女候補の人と出会えるかもしれない、という淡い期待を抱かなかったといえば嘘になる。高校生の時に付き合っていた彼女と別れて以来、3年間彼女はいない。

そんな期待を胸に、先輩から指定された居酒屋のドアを開けると、すぐに先輩はこちらに気づいて
「先に始めてるぞー!」
と声をかけてくれた。視線を向けると、バンドマンのような装いの男5人がジョッキを片手にこちらを見ていた。

全員男かー、と安堵のような落胆のような複雑な気持ちで席につく。
「初めまして。紀之といいます。先輩とバイト先が同じで誘っていただきました。今日はよろしくお願いします。」
と当たり障りのない挨拶をすると、ゴリラと形容して何ら問題ないガッチリとした体つきの男性が
「全然気張らなくていいで。」
と優しい関西弁で声をかけてくれた。

そこからバイト先の話や、地元の話、大学の話などいろんな話をし、すぐに打ち解けることができた。思った通り彼らはバンドの仲間で週一回は練習してこうしてお酒を飲んでいることを知った。

「紀之くんはバンドとか音楽とか興味ある?」
「あんまり詳しくはないですが、音楽を聞くのは好きです。」
「今度俺ら、ライブするから時間あったら聞きにおいで」
と誘ってもらい、後日ライブを見に行くことが決まった。

ライブに行くのも、こうして誘い出してもらうのもすごく久しぶりのことだった。

---

ライブ当日。風が心地よい夜だった。

やはりジャケットにジーンズと革靴というスタイルでライブ会場に到着し、先輩の名前を告げて、1,000円札と引き換えにドリンクチケットを受け取る。カウンターでビールを注文し、前の方に移動すると、ちょうど先輩たちが音合わせをしているところだった。

すると、突然隣の女性から
「Slopewayのファンの方ですか?」
と声をかけられた。

先輩たちのバンド名を知らなかったが、恐らくそうだろうと思い
「はい、そうです。応援に。」
と答えると、
「私もなんです。でも一人で来てて。良かったら一緒に見ませんか?」
とお誘いいただいた。

たまにあるライブに合わせて、東京からわざわざ新幹線で来ており、明日は仕事だからこの演奏が終わったらすぐに帰るのだという。

規模はまだまだ大きくないものの、熱狂的なファンがついてるなんてすごいな、と息を飲む。

ようやく演奏が始まった。先輩たちの演奏はカッコ良くてキラキラしてて、今この瞬間が何よりも楽しそうで羨ましい気持ちになった。どの曲もオリジナルで初めて聞くものばかりだったが、そんなことはどうでも良かった。ただ楽しくて、気がつくと会場の揺れと合わせて体が動いていた。この時に飲んだビールの味は今でも覚えているし、この先も忘れることはないだろう。

ライブが終わると、連絡先を交換し女性は帰って行った。先輩たちに軽く挨拶をし、紀之も家路に着くことにした。

退屈だった大学の最初の2年間と比べると、なんて濃くて楽しい時間だっただろうか。誰かと時間を共有して楽しむことなど、本当に久しぶりの出来事だった。

ふと振り返ると、始まりはお酒の場であることを思い出した。何の気なしに参加した飲み会から、知り合いができ、ライブに参加し、これまではバイトに費やしていた休日が一気に明るくなったのだ。

若い頃はお酒に対してあまりいいイメージがなかった。駅で顔を真っ赤にしながら他人に迷惑をかけるサラリーマンや、お酒が理由で母親が父親を叱責しているシーンを昔からよく見かけており、将来はこうはなりたくないな、という思いが強かった。しかし、お酒が自分の世界を広げてくれたことは紛れもない事実である。

もしかしたらお酒は、人生を明るくしてくれるのかもしれない。

と自分の中で、価値観が少し変わるのを感じた。今後増えるであろうお酒の場に少し期待している自分に気づき、ふっと息が漏れた。

日本酒の飲み方を変えて、日本酒が飲まれるシーンを増やしたい。日本酒カクテルの素、ぽんしゅグリアです。ぜひ一度HPに遊びに来てください。 ぽんしゅグリア公式HP:ponshu-gria.com